43話 アレガミの本性
『緊急放送! ラミレイ城付近にてアレガミが出現
!! 護衛兵、魔術兵、土地調査兵の上位兵は全員直ちに出陣せよ!!』
「え、アレガミ!? ……これ直した直後にこれか……運が良いのか悪いのか…………」
とりあえずぼくは緊急放送の通り急いでラミレイ城に向かう事にした。……ぼくは兵士ですらないから別に行かなくてもいいとは思うが前にもルミナさんが言っていたようにぼくにはこの世界の事を知る必要がある。だから、今後に役立てるように、だ。
訓練所を後にし、来た道を引き返して商店街の大通りに出た。そこにはまるで川の激流のよう我先にとラミレイ城とは反対方向へと駆け抜けていく住民達がいた。被害に遭わないように遠くへ避難しているのだろうが、このままではこの人の波に流されて城に辿り着けない。
「……すぅ~…………よし。強行突破だな」
もちろんこれが成功する訳がない。中学生の女の子に腕相撲で負けるくらいの非力なぼくがこの人混みを押しのけて行くなど……。しかし、何もしなければ何も始まらない! って昔からよく言うし。
ぼくは深呼吸をして意を決すると激流の人の群れに突っ込んだ。
「なんだお前! 邪魔だ!!」
「いきなり何!?」
「す、すみません! すみません!」
肝心な住民からの文句ついて考えるのを忘れていた。流れに逆らい、ぶつかってゆく人々にぼくは延々と謝りながら少しずつ前へ進んだ。……城に着くのが先か、住民の文句でぼくのメンタルが崩壊するのが先か。
「……あと、もう少し……!」
ぼくは思いっきり踏ん張って最後の一人を振りのけ、激流の群れから脱出する事が出来た。
そして、目の前にはたくさんの人集り。その隙間から奥の方に城の入口へ続く階段が見える。この事からこの人集りの先にアレガミがいるのだと分かった。
……しかし、ここに集っている住民達は危険と分かっていながら見物しているのだろうか? 一昨日の騒動で相当恐怖を目に焼き付けられたと思うのだが……。
それにしてもアレガミがいるというのに妙に静かすぎる。普通なら、建物などの破壊音があるはず。本当にこの先にアレガミが……?
「すみません。ちょっと通して下さい……」
人と人の間を縫うように進んでいくと、何かが騒いでいるような声が聞こえてきた。さらに進むと、その声はどこかで聞いたことある声だった。これは間違いない。……フルムーンだ。
人集りを抜けると、ぼくはその先にあった光景を目の当たりにして目を丸くした。
「クソッ! 離せ!! 別にオレは危害を加えたりはしねーよ!!」
「うるさい! 貴様がアレガミである以上我々の敵だ! 大人しくしろ!!!」
城の兵士に羽交い締めにされている人物は、紛れもなくあのアレガミだった。あれだけ猛威を振るっていたやつが言い方は悪いがあんな四十代くらいの兵士一人に捕まえられているなんてどう見てもおかしい。
そしておかしいのはそれだけでなく、いつもの全身黒のスーツじゃなくて水色のポロシャツにジーパンという紳士感が薄れていて何故か捕えられているアレガミの隣にはリンゴなどの果物や食物が入った紙袋が落ちていた。これが彼の私物だとすれば…………一体どういう事?
「だ~か~ら、オレは確かにアレガミだけども、何もしねーって! ……お?」
「え」
アレガミと目が合った。まずい。と思い、気づかないフリをして視線を少し横にずらした。
「ヒロじゃねぇか! ちょうど良かった。助けてくれよ!」
アレガミのその一言で辺りが一気に静まり、全ての人の視線がぼくに向けられた。どうしてこうなるんだ……。
「…………え? ……は? いや何言ってんの?」
「だから助けろって! オレが無実だということをコイツに証言してやってくれ!」
いやいやいや、これまでにどれだけ騒動起こしてるのか自覚してないのか……。助ける理由が一つも見当たらないんだが……。
「おいお前! このアレガミと何か関係があるのか!」
このままではぼくに変な疑惑ができてまずい事になる。とはいえあのアレガミはどうも攻め難い。
「……そのアレガミを離してやって下さい」
「な!? コイツは先日街を大規模に渡って破壊した凶悪犯なんだぞ!!」
「分かっています! ですが、ぼくはそのアレガミが嘘をついているようにも思えません! だから、お願いします!」
ぼくはアレガミを救う選択をした。もちろん安全だという保証はないが、何故かこのまま見過ごしたらいけない気がしたのだ。
「……君は、確か別世界から来た召喚者だな? ……そうか。本来ならそんな事は一切承諾するのは許されないのだが、あのラミレイ様が召喚したんだ。一度だけ許容権利をやる。だがしかし責任は重大だ」
兵士はそう言うと用心深く右手に剣を握り、捕まえていたアレガミをぼくの方へ突き飛ばした。
「ってぇ~……くそ、乱暴だな」
「ちょっとアレガミ、ちょっとこっちに来て」
「?」
ぼくはアレガミを近くの狭い路地へ呼び出した。
「いやー、助かったぜ。恩に着るよ」
「お礼なんていらない。それより何のつもり? それに、お前は満月が出ている間しか姿を現せないんじゃなかったのか」
「……あれは嘘だよ。その場しのぎに言っただけさ」
「どうりでおかしいと思ったよ。初めてお前を見た時はまだ昼だったしな。……で? どうしてここにいるんだ?」
今まで何度も話しているせいか、昨夜の騒動があったにも関わらず何故か強気でいられた。……もっとも、あんな痛い目を見るのは二度とごめんなんだけどね。
「……実は、昨日ここから去った後、実際にZの下僕をやめてきたんだよ」
「……え?」
思いもしない一言だった。あの時協力するって言ったのは本当だったのか。
「その証拠に、これを見ろ」
アレガミは右手首をぼくに見せた。そこには、何らかの刃物でバツ印に刻まれた痛々しい後があった。
「オレ達カミが下僕をやめる時、専用のサバイバルナイフで手首に約2cmの切り込みを入れるんだよ。これもまあ想像を絶する痛みでさぁ……人間なら確実に死ぬだろうな。だがこうする事によって各カミに備わっている能力がなくなるんだよ」
「……そこまでしてどうして…………」
「そんなん決まってんだろ」
アレガミは真剣な顔して言った。
「弟を殺したZが憎いからだよ。……………………まあ単純にウザいってのが上回ってるがな」
ぼくは冷たい目でアレガミを見つめた。
遅れて申し訳ないです!^^;
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