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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
3章 異世界滞在 3日目
16/61

16話 白い布を纏った人の正体

 しばらくすると、中から騒音が聞こえなくなり、ルヴィーさんが出て来た。


「もういいぜ。入れよ」


 ぼくは頷き、再び食堂へ入った。

 ガルートさんは席に戻って幸せそうな顔で酒を飲んでいた。乱闘があった場所に視線を移すと、変形したプラスチックのような腫れた顔をした人達が並んで正座していた。開いた口が塞がらないというのは、こういう時の事をいうのか。


「よう、ヒロ。早く食べないと冷めちまうぞ」


「あ、え? はい」


 ぼくも席に戻ってうどんを食べた。結構冷めてしまっていて、旨みが少しとんでしまっている。


「しっかしガルートは容赦ねーよなぁ。魔法も使えないやつら相手をああなるまでボコボコにするなんて」


「ほっとけ。俺はやりたいようにやってるだけだ」


「まあお陰で静かに飯食えるけどさー」


「お前がうるさいから変わらないだろう」サイレンさんがツッコミを入れる。


「なんだってぇー? お前後でシメる!」


 ぼくは苦笑いした。二人の口論は相変わらずだ。初めてルヴィーさんに会ったときもそうだった。しかし、これはこれでいいのだろう。喧嘩するほど仲がいいっていうし。


「じゃ、俺はそろそろ行くぜ。店長! お勘定! コイツの分も合わせてな」


「あいよ。酒三本にうどん一つで1Gだ」


「1Gだと!? そりゃねーぜ店長……せめて8Sに負けてくれよ」


「しょうがないねぇ。まあ、騒動を止めてくれたからね。8Sでいいよ」


 店長さん、なかなか太っ腹だ。


「助かるぜ! ちょっと今月はピンチなんだよ。任務が無くてな」


 ガルートさんはカウンターの上に銀貨を八枚置き、食堂から出ていった。金欠寸前なのに奢ってくれるなんて優しすぎる。何故か、嬉しいのだけれど申し訳ない気持ちがあった。

 ぼくもうどんの最後の一口を頬張り、ルヴィーさんとサイレンさんに軽く頭を下げて入り口へ向かった。その時、サイレンさんが爽やかな笑顔で手を振ってくれた。サイレンさんの笑顔を見るのは初めてだ。


 食堂から出ると、思いっきり伸びをした。全身から力が抜けていくような感じが気持ちいい。


「ふう、お腹もいっぱいになったし、もう一度城に戻るか。時間的にあと一つくらいは任務受けれそうだし」


 ぼくは城を目指して歩く事にした。しかし、ここまでガルートさんに連れて来られたため、道が分からない。誰かに道を尋ねてみるか。

 近くをキョロキョロしていると、隣の店の前に置かれたベンチに座っている二人組の男が話をしていた。


「あの、ちょっといいですか?」


「ん? なんだよ。今いいとこなんだよ。要件があるならさっさと言いな」


 これはひどい。道を教えてもらおうと思っただけなのにこんな事を言われるとは……。少しムカッときたが、どちらかといえば楽しい友達との会話中に割り込んできたぼくが悪いのだけれども。


「道をお聞きしたいんですが、ラミレイさんのへ城はどうやって行けばいいんでしょう?」


「なんだ、そんな事も知らねーのか。ここ、ずっと真っ直ぐ行って大噴水広場に着いたら左。それからまたずっと真っ直ぐだ」


「ありがとうございました」


 そう言うと二人はすぐに話し始めた。


「でよ、昨日南東部にまたアレガミが出たらしいぜ」


「えー。まじかよ最近あの辺よく狙われるよな。南東部に住んでなくてよかったぜ」


 アレガミの話だ。ここから南東部までは距離があるけど、もう情報が行き届いているのか。少し興味が湧いてきたのでその場でこっそり盗み聞きした。


「それで、家が全部で七十二軒潰されたらしい。死亡者は全部で百八人で重傷者一人らしいぜ」


「ほう。珍しい事もあるもんだ。アレガミが人を殺し損ねるなんてな」


 その重傷者というのは、多分あの女の子の事だろう。


「しかし、その生き延びたやつは相当苦しかったはずだよな。衝撃波でふくらはぎをザックリだとよ」


「へえ、詳しいな」


 ぼくの事だった。考えてみれば女の子少し膝擦りむいてただけで重傷と言える程ではなかった。


「あの、それ、ぼくですけど……」思わず口にしてしまった。


「あ、そうなの? ……なんか悪いな」


「いえ」


 言わなければ良かった。気まずい空気が流れてきたので、ぼくは何も言わずその場から離れようとした。


「じゃあ、怪我した所見せてくれよ! なんで立っていられるの? やっぱり魔法使ったのか?」


「あ、ええ? その……」


 ぼくがどう返事すればいいか困っていると、もう一人の男がぼこっと頭を殴った。


「いってー! なにすんだよ!」


「困ってるじゃねーか。やめてあげろよ」


「ちっ……分かったよ。すまなかった。しつこくして」


「いえ、気にしないで下さい。ではぼくは急いでるのでこれで」


 その場から少し離れると、後ろから「また会ったらゆっくり話そうな!」とでかい声がした。周りの人はぼくと男を冷たい視線で見ていた。やめてくれ。こっちが恥ずかしくなる。


「は、はい。その内」ぼくは作り笑いをして言った。


 さて、思わぬタイムロスをしてしまったが、まだ日は高い。ぼくは小走りで先程言われた通りとりあえず大噴水広場へ向かった。


 しばらく走ると、少し開けた場所が見えた。しかし、このすごい人だかりは何なのだろうか?

 近づいてみるが、あまりに人が多すぎてこの先で何が起こっているのか分からない。仕方がない。ここは無理矢理押し退けて行くとしよう。


「あの、すみません。ちょっと通らせていただきます」


「あ、ああ。すまんね」


 そのまま僅かな人と人との間にできた隙間を狙ってくぐっていく。途中で観客の肘が顔面に当たったりしたが、止まらず突き進んだ。

 ようやく人混みを突破し、一番先頭に出た。


「オラオラ! てめぇ俺たちに口答えするなんていい度胸じゃねぇか!」


 またケンカか。またさっきの食堂の時みたいに二次被害に遭うのはごめんだ。ぼくは無視して先に進もうかと思ったが、ラミレイさんの城へ続く道まで人で塞がれていた。


「嘘だろ……」


 またあの人混みをくぐり抜けるのは嫌なので、仕方なくケンカが終わるのを待つことにした。


「一発殴られないと気が済まないようだな」


 三人いるなかの一人の不良がケンカ相手の胸ぐらを掴み、宙に持ち上げた。


「……? あの人は……」


 不良のケンカ相手は、全身白い布を纏っていた。フードを深く被っていて顔は分からない。確か、この人はさっき受託室にいた人じゃないだろうか?


 すると、不良が白い布の人の顔を殴った。殴った反動で被っていたフードが脱げた。その瞬間、周りがザワつく。


「……え? ……女の子……?」

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