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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
3章 異世界滞在 3日目
12/61

12話 『雨魔水晶』

「う……ん」


 目を開けると、金色の線でまるで魔法陣のような模様が張り巡らされた赤い天井が見えた。部屋の窓からは強い日射しが射し込んでいる。結局、昨晩は一睡も出来なかった。

 上半身を起こしてボーッとしていると、ノックが聞こえた。


「ヒロくん、入りますよ」


 扉が開くと、ひょこっとルミナさんが顔を出した。


「あれ、起きていたんですか」


「いやあ、たまには早起きをしてみるもんですよ」


 ぼくがそう言うと、ルミナさんは近寄ってきてチョップを食らわしてきた。


「いたっ……いきなり何するんですか!」


「嘘ですよね。昨日アレガミがヒロくんの部屋に来たそうじゃないですか。もしかして、アレガミになんか脅迫とかされて、眠れなかったんじゃないですか?」


 流石ルミナさんだ。察しがいい。これはもう隠すことは出来なさそうだ。


「えと、その通りです。嘘ついてすみませんでした」


「いえ、別に怒ってる訳では無いので。ただ、アレガミに何をされたか知りたいだけです」


「……手を組まないかって言われました」


「え? どういう事ですか?」


 ぼくは昨晩アレガミに言われたことを全て話した。


「絶対にダメです」


「やっぱり?」


「当たり前です! アレガミの言うことなんか信用出来ません。あくまでも魔王の手下なんですから、そんな都合の良い事ある訳ないです。断って襲ってきたら私が何とかしますから」


 そこまで言うのなら仕方がない。アレガミには少し申し訳ないが、断わらさせてもらおう。


「分かりました。今日またアレガミが来たら、ちゃんと言っておきます」


「それでいいです。そういえば、ラミレイ様が呼んでましたよ。重要な話との事で、あなたと二人で話したいと」


「はあ、分かりました」


 ぼくはベッドから起き、ルミナさんに連られてラミレイさんと初めて会った玉座の間へと向かった。


 扉の前に着くと、一昨日と同じように開き始めた。本当に、どんなマジックなのだろうか。


「あ、来ましたか」


「では、私は退室しますね」ルミナさんはそう言って玉座の間から出ていった。


「ここで話すのもなんですから、私の部屋へ案内します」


 ラミレイさんは玉座から立ち上がり、ぼくの元へ歩いてきた。


「では、ついてきて下さい」


 ラミレイさんはこの王座の間の壁際に一つだけあった扉を開けた。そのまま中へ入っていったので、ぼくもついていった。


 短い通路を渡ると、少しひらけた場所に出た。そこは壁や床は真っ白で、汚れ一つない。部屋の隅に観葉植物がポツンと置いてあるだけの殺風景な場所だった。ここがラミレイさんの部屋なのだろうか。


「こっちですよ」


 横の階段を登っているラミレイさんが言った。階段も真っ白なので、周りにカモフラージュしていて階段がある事に気づかなかった。さすがに、こんな殺風景で何も無い所が女帝様の部屋な訳がなかった。


 階段を登りきったら、また一つの扉が現れた。


「着きました。どうぞ入って下さい」


 ぼくは扉を開けた。そこは、とても一人で使っている部屋とは思えない広さだった。しかも、その上豪華。

 天井には城のあちこちにあったシャンデリアよりも大きくて、床はいかにも貴族が使っていそうなカーペット。部屋のど真ん中にはキングサイズのベッド。こんな大きなベッドを一人で使っているなんて、すごい贅沢だ。大庶民のぼくにとっては、とても羨ましい。


「あそこのテーブルの椅子に座っていて下さい」


 指定された席は、これまた高級そうな椅子だった。座ると、ふかふかでとても気持ちいい。

 少し待っていると、ラミレイさんは小さい木の箱を持ってきた。それはとても埃っぽかった。


「えっと、これは何ですか?」


「これは雨魔水晶あますいしょうといって、この国の秘宝であり、聖なる気を秘めています。逆に、Zに国が襲われるようになった原因の物でもあります」


「この木がですか?」


「そんな訳ないでしょう。この中身です」


 ラミレイさんは冗談が通じないタイプらしい。


「……本当は言いたくなかったのですが…………」


 ラミレイさんの顔が急に真剣になった。さっきまでの楽しげなムードが一瞬にして消えた。


「実は、あなたを召喚した事によりこの世界とあなたのいた地球が連結してしまって、あなたの身の回りに起こる被害が、地球にも相似に現れてしまうようになるのです」


「……え?」意味がよく理解出来ない。


「例えば、そこの瓶が何かの衝撃で壊れてしまったとしたら、地球の方でもそれに似た事が起こるという事です。しかし、地球のどこの部分に被害が起こるのかは分かっていません」


「では、どう対処すればいいんですか」


「そこで、この雨魔水晶を使用するのです」


 ラミレイさんは埃のかぶった木の箱を開けた。

 その中には、まるで、サファイアのような美しさを持った青色小さな石の欠片があった。


「これは雨魔水晶の欠片です。残りはZに破壊されて消滅してしまいました。でも、これだけでも国に保管しておかないと、魔物の侵入を防げないのです」


「え、でも、昨日はアレガミが国の中に出現してたじゃないですか」


「雨魔水晶が破壊される前は、アレガミはおろかZでさえ国に入れないくらいの強い結界を張っていました。しかし、こんな欠片では元の力を発揮できないため、アレガミが侵入出来たのでしょう。国外の下級魔物くらいはこの欠片だけでも侵入を防ぐ事は出来ます。この国の入り口の門にも、この水晶の力が使われています」


「なるほど。少しずつ分かってきましたが、それと地球との連携についてなんの関連性が?」


 要点はそこだ。この国を守るだけの水晶が、地球に危害を加えない事が出来るのだろうか?


「この水晶の力はこの国を守るだけではありません。もう一つの力として、他の世界の人一人と音声で繋がる事が出来るのです」


「そ、それはすごいですね。ですけど、何故わざわざこれをぼくに?」


「あなたが地球の人間だからです。この水晶は、その世界の人同士でしか通じませんから」


「……大体読めてきました。これを使って、地球にいる人にこちらの状況を伝えてこれに合った行動を取ってもらうという事ですか?」


「さすがですね。当たりです」


 ラミレイさんは雨魔水晶を手に取り、それをぼくに差し出した。

 ぼくはそれを受け取った。左手に乗っている輝いた青い欠片を見ていると、その魅力に吸い込まれてしまいそうな気がする。


「……なんか、持ってるとただの人間のぼくでもこの欠片に秘められた力を感じてきそうです」


「そうですね。この欠片だけでもすごい量の気があってそれが雨魔水晶の外壁の周りに重力を作っている為、そう感じるんでしょう」


「そうなんですか。そういえば、基本的な事だと思うんですけど、気って何でしょうか?」


 今までルミナさんとかが使ってたワードだから適当に使ってたけど、本当の意味が分からなかったから、とりあえず聞いてみる事にした。


「気と言うのは、魔法を生み出す力の事です。正式名称はフェアリーと言いますが、何故気という表記になったのかは分かりません。誰かが気という言葉を使いはじめてからです」


 フェアリーというのは聞いた事がある。妖精という意味だったと思う。確かに、なぜ妖精が気に変わったのかは謎だ。


「とりあえず、その雨魔水晶はヒロさんに渡しておきます。大事に持っておいて下さい」


「は、はい。分かりました」


 ぼくは雨魔水晶をファスナー付きの胸ポケットに入れた。絶対に無くすまいと思いを込め、胸ポケットをポンポンと叩いた。


「では、時間を取っていただき、ありがとうございました。雨魔水晶の使い方はまた今度お教えするので、心配しないで下さい。まだ実際に地球に被害が出るのも少し時間があるので、それまでにこれからの作戦を練っておきましょう」


「はい」


 ぼくは部屋を立ち去ろうと立った。


「余談ですが、先程受託室をちらっと見てきましたが、ヒロさん宛に任務が届いていましたよ」


「そうですか。わざわざありがとうございます。すぐに受けてきますよ」


 ぼくが軽く一礼をすると、ラミレイさんも爽やかな笑顔で一礼を返してくれた。


 来た道を戻る。ラミレイさんの部屋から廊下に出るまで、二分程かかってしまった。やはり、この城の広さには慣れない。

 そう思いながら、受託室へ向かった。

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