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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
2章 異世界滞在 2日目
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10話 ルミナvsルヴィー

 脱衣所を緊迫した空気が包み込む。そりゃあ、これからあの美人極まりないルミナさんといかにも暴力少女って感じのルヴィーさんが戦うのだ。浴場にいる人達も、真剣な顔でそれを見ている。


 ぼくもこのバトルを見届けたいが、なんと、ルヴィーさんがまだ全裸だ。しかも、もう完全にバトルモードに入っているので、タオルで隠そうともしていない。なので、ぼくがこのバトルを見守るとなると、ルヴィーさんのあんなところやこんなところも眺めるという事になる。


 しかし、ルミナさんと同じくらいの山はなかなか興味が……。


「ヒロ! てめぇ裸見てるとぶっころ回数を500回に増やすぞ」


 考えを読まれていたらしい。バトル以外の事は考えるのをやめた方が良さそうだ。てかぶっころ回数って何だ……?


「じゃあ、始めるか」


「あ、ちょっと待って下さい」


「なんだ? 戦う前に命乞いか?」


 ルミナさんは近くの棚に向かい、籠をあさり始めた。そこから、一枚の封筒を取り出し、それをルヴィーさんに渡した。


「昼に出現したアレガミの情報です」


「お、サンキュー。7Sでいいか?」


 いきなりの冷静な商談にぼくはずっこけた。あんなにすごいバトルのムードを出していたのに台無しだ。


「さて、続きだ」


 ルヴィーさんの指輪が赤く光った。すると、右手の周りに光が集まり、先程の槍を召喚した。

 ルミナさんは短剣を取り出した。どうやらこれは気ではなく、本物らしい。


「行くぜ!」


 ルヴィーさんが先に動いた。一歩踏み込み、槍を振り抜いた。ルヴィーさんが踏んだ床が割れているのを見ると、どれほど強い力なのかが分かる。

 しかしそれをルミナさんはしゃがんで避けた。槍は後ろの棚に直撃し、棚の二段目を粉砕させた。布が舞う。

 ルミナさんがその隙に懐に潜り込み、左拳で腹部を殴った。


「かはっ……」


 ルヴィーさんが苦しそうに咳き込む。


「あら、もう終わりですか? 結構だらしないですね」


「けほっ……ふざけんな。腹殴られるのなんてもう慣れっこだぜ」


 そう言ってまた槍を振る。しかしルミナさんはそれを軽々と避ける。その後も何度か攻撃が繰り返されたが、一発もルミナさんには命中しない。


 しばらくして、ルヴィーさんは槍では隙が多すぎて攻撃が当たらないと察したのか、自ら槍を破壊した。


「槍やめちゃうんですか。では、このままでは不平等なので、私も短剣を使いません」


 ルヴィーさんは話を聞かず、そのままルミナさんに飛びかかった。しかし、また避けられる。


「ちくしょ……!」


 もうヤケクソになってしまっている。殴りや蹴りを繰り返しているうちに、だんだんこちらへ近づいてきた。


「え……ちょっ……」


 ルミナさんがぼくの前に立った。追い込まれてしまったようだ。

 ルヴィーさんはそれがチャンスだと思ったのか、飛び蹴りをくり出してきた。ルミナさんはそれを横に避けた。真っ直ぐぼくの方に蹴りが向かってくる。


「でええええええええ!?」


 それが見事にぼくの鼻柱に直撃し、そのまま鼻血を出しながらその場に倒れた。


「ヒロくん!?」


「は、はは……な、ナイスキック……」


 ぼくは親指を立てて前に出した。鼻の痛みのせいでプルプル震えている。


「ナイスじゃありません! 今すぐ救護室へ!」


「おい、ルミナ! バトルは?」


 ルミナさんがムッとした顔になった。


「今はそれどころじゃないです!」


 そう言うとぼくを抱き上げ、肩にかけた。布ごしにも分かる程のぷにぷにが手に当たっている。違う意味で、また鼻血が出てしまいそうだ。


「一時休戦です。今回は見逃して下さい」ルミナさんは素早く脱衣所から出た。


「くそー! 絶対ケリ着けてやるからなーー!」


 ルヴィーさんがみるみる遠ざかっていく。一難去った。これで少し安心出来るだろう。


 ドガッ「へぼぁっ!!」風呂場の扉に鼻をぶつけた。


 ルミナさんは脚が速いのはいいが、かつぎながら従者の無事は確保出来ないようだ。……こういう所、ガルートさんみたいだ。


 しばらく廊下を突っ走ると救護室に着き、ルミナさんはぼくをベッドに寝かせた。


「すみませんでした。私もあんな挑発に乗ってしまって……普段もああやって煽ってくるのですが、今回は冗談でも言ってはいけない事を言いましたからね。ついカッとなってしまいました……」


「……意外ですね」


 鼻を摘んでいるので少し発音しにくい。


「え? 何がですか?」


「ルミナさんでも、あんなに怒る事あるんですね」


「何言ってるんですか。当たり前ですよ! 怒らない人間なんていないです。氷水作ってきます」


 ルミナさんは少し顔を赤らめて隣の部屋へ行った。ああやって恥じらう姿もまた可愛い。

 やはり、ルミナさんは未来希に雰囲気が似ている。性格もそっくり。


 未来希に会いたい。会えなくとも、声だけでも聞きたい。スマホは持ってはいるが、昨日は学校に持っていくのを忘れた。なので、唯一の連絡手段は家に置かれたままという訳だ。しかしよくよく考えると、ここは異世界。電波があるとは到底思えないので、どっちみち使用する事はできない。これはかなり絶望的だ。


「お待たせしました。これを鼻に当てていて下さい」


「ありがとうございます」


 ぼくは氷水を受け取り、鼻に当てた。打撃による出血なので、ツーンとする。


「本当は回復魔法で直したいのですけれど、私は回復魔法は会得してないので……」


「いやいや、良いですよ。元はと言えば全てぼくがまいた種ですから……」


「あ、確かに。そういえばなんで女湯に入ってきたんですか? そこがよく分かりません」


「男湯に入ったつもりだったんですけど……」


「男湯はもう一つ隣ですよ」


「え」


 なんと、男湯と女湯を間違えたらしい。ぼくは頭をかかえた。

 これは罪悪感しか残らない。ルヴィーさんにも後で深く謝罪をしなければならない。


 ルミナさんが小さくくしゃみをした。急ぎで出てきて、体に薄いタオル一枚巻いているだけなので、これだと湯冷めしてしまう。ぼくも下に小さいタオルを巻いているだけだが、お湯に当たっていた訳ではないのでそんなに寒くはない。不幸中の幸いだったのがここに来るまでこの格好を誰にも見られなかった事だ。


「少し寒いですね。やはり服を着てから来るべきだったのでしょうか……」


「取りに戻りますか。ヒロくんは怪我してるので待っておいて下さい」


「いえ、ちょっと待って下さい」


 ぼくは氷水を鼻から離してみた。鼻血はピタリと収まっていた。この短時間で止まっているという事は、そんなに深く切っていた訳ではなかったようだ。


「もう大丈夫なんですか?」


 少し驚いたような顔で言う。


「傷が思ってたより浅かったみたいです」


 ぼくはベッドから起きた。痛みは少しだけあったが、普通に我慢出来る程度だ。気にせず治療室から出た。


 なんてたってこんなベッドの上にタオル一枚の姿で一人座っていてもシュールすぎるし、恥ずかしさ極まりない。それより、多少の痛みは我慢して一刻も早く服を着た方がいい。


「風呂場までまた遠いですねー」


「私に案があります」


 ルミナさんは指輪のある方の手を開き、それをぼくの脚に翳した。暖かい気が脚に触れた。


「疾走魔法です。これで、だいたい私と同じくらいの速さで走れます」


「……それはすごいですね」


「では行きましょう」


 いつもと同じように走ってみると、確かにものすごく速くなっていた。これを学校の50m走でやると学年一位確実だろう。……右脚が少しキシキシなってるけどね。

 自分の足の速さに少し感動しかけた頃、さっきと同じ風呂場に着いた。もう少しだけ快感を味わいたかったが、その為にルミナさんはぼくに魔法をかけてくれた訳では無い。


 そんないい気分になったのもつかの間、既に目的地に到着していた。


「では服を取りに言ってくるので待ってて下さい。ルヴィーさんはまだいると思うので」


 ルミナさんは風呂場へと入っていった。


 ……無駄に広い廊下にタオル一枚で立っているぼく。この異常な変態感は何なのだろうか。とはいってもまた女湯に入ると騒動が起こる。ルミナさんが戻ってくる間、誰も来ないで欲しいと心の中で願う。


「取ってきました。ルヴィーさんはもう先に上がったようでした」


 数分経って服を着たルミナさんが戻ってきた。


「あ、はい。ありがとうございます」


 変態感が消え失せた。


 ぼくは服を受け取ると、すぐそこの曲がり角に隠れて着替えた。こんないつ人の通ってもおかしくない廊下で着替えるのは少々気が引けたが、また女湯へ入って着替えるわけにもいかないので仕方がない。

 着替え終わると角の陰から出て、再びルミナさんと対面した。


「ヒロくん、思ったんですけど、結局お風呂入れてないんじゃないですか?」


「あ。そうですね……今からでも入りたいのですけど、鼻を怪我してしまったので今日はもうパスですね。明日こそ絶対入ります!」


「ふふふ……やっぱりヒロくんは面白いですよ」


「わ、笑わないでください……恥ずかしいじゃないですか」


 なんて事言ったけど、本音は違う。元々静かで、友達もいないぼく。そんなぼくを面白いなんて言ってくれるのは、極めて嬉しい事だ。


「では、そろそろ時間も遅いので、部屋へ戻りますか」


「そうですね」


 ぼく達は部屋へ向かった。疾走魔法はもう既に切れているみたいで、先ほどの軽い感覚はもうさっぱりと無くなっていた。


 部屋に着くと、ぼくは大きく伸びをしてベッドに入った。


「ではまた明日の朝起こしに来ますので。おやすみなさい」


「分かりました。おやすみなさい」


 ルミナさんは部屋を照らしているシャンデリアの明かりを消し、部屋から退出した。

 毛布を頭までかぶると、一気に睡魔が襲ってきてぼくはすぐに眠りに落ちた。

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