美猴王リターン
「うおりやあああああああああああああ」
美猴王サキーが魂を消るような雄たけびをあげながら金棒を振り下ろす。
神珍鉄の棒はこちらの手にあるし見た目も平凡だからただの金属の棒かな。
サキーは金属の棒を振り下ろすが、菜緒虎は見切って躱す。
躱せない軌のものは同田貫で僅かに軌道をズラして躱す。
「どうした。腕を切り落としたときの方がまだ戦えたぞ」
菜緒虎の挑発に乗ることもなくサキーは位置を変えながら少しずつ間合いを詰める。
何をするつもりだ?あ、背後に回った。
「せい」
サキーは地面に片手を付き、その手を軸にして回し蹴りを放つ。
菜緒虎は僅かに跳びあがってこれを躱す。
が、サキーはこれを読んで菜緒虎の着地に合わせて再び回し蹴りを放つ。
見事に足を取られ菜緒虎が背中から地面に落ちる。
「某が戦場で背中に土を付けられるとはな」
「姐さんに腕を斬り飛ばされて反省したんすよ。道具に頼り過ぎたと」
菜緒虎とサキーの顔が壮絶な狂気の色に染まる。
「面白い」
菜緒虎は同田貫を一度鞘に納めパンと両手を打って気合を上げる。
ゆらりと菜緒虎の身体に気配が纏わりつく。
「面白い」
サキーはブンブンと金属の棒を振り回して構える。
と、おもむろにサキーは自分の耳の後ろの毛を毟ると口の前に翳す。
「出でよ我が分身」
ふっと毟った毛に息を吹きかけ、散らす。
宙に舞った毛はたちまち小さな六人のサキーとなり、菜緒虎近くまで飛んでいく頃には子供ぐらいの大きさに成長していた。
「六猿呪縛陣」
小さな六人のサキーは菜緒虎を中心とした六芒星の形に陣取る。
そして菜緒虎の足元に青白い光が走り鮮やかな六芒星が描かれる。
というかあの猿、妖術が使えたのか・・・使えるなら初回登場の時から使えばいいのに。
そうしたらあんなにあっさり腕と神珍鉄の棒を奪われることはなかったんじゃないか?
「クソ猿術さまの野郎に術を封じられてなければ楽に勝てたんだよ」
斬り飛ばされて復活した手をワキワキさせながらサキーは動けない菜緒虎を金属の棒で殴る。
殴る。殴る。蹴る。
「我が同胞を癒せ回復」
とりあえず菜緒虎に回復をって弾いた?
澄んだ音が響き、同時に回復するはずの菜緒虎の体力が回復しなかった。
あの六芒星陣は結界なのか!
「雷槍」
空中を電気を纏った槍が走り赤黒い炎が地面を舐める。あの炎は死騎士の魔法攻撃ヘルファイアか。
飛来する雷槍をサキーは金属の棒を振るって叩き落とす。ヘルファイアは六芒星陣の前で四散るが…
「ぎゃ」
小さなのサキーの1頭が尻尾を焦がされて悲鳴をあげ、六芒星陣の一部がほんの一瞬揺れる。
「あ、ばか」
「旋風乱舞」
菜緒虎の口から小さいがハッキリとした声が零れる。
しゃん
空気の切れる音が辺りに響く。
ぎゃっと短い悲鳴が上がり六体の小さなのサキーのうち五体が胴から真っ二つになり元の毛に戻る。
「いや、凄いよお前」
風切り音と共に鈍い音が響く。
「は、はぁ、右足が…ねぇ?」
急に立つことが出来なくなったサキーはその原因を目で見て理解する。サキーの右足は膝から下が斬り飛ばされていた。
「この前のように遁走されても困まるからな」
菜緒虎の顔は笑っていたが声は低く冷たかった。
「ケルビム、バーン。助かった」
金髪碧眼の背中に白い鳥のような羽を4対もつ天使族のケルビムとガイコツの騎士、死騎士バーンに向かって手を上げる。
サキーが逃げ出さないようしっかり足でサキーの背中を踏みつけているのがかなりヤバいが。
『菜緒虎。その猿人は程度は問わないが生きておれの前に連れてこい。やりたいことがある』
菜緒虎がうっかり殺さないよう釘を刺しておく。
「お館様。猿人を連行しました」
スッキリした顔の菜緒虎に引っ立てられ顔をボコボコにしたサキーがやってきた。
ちなみに斬り飛ばされたはずのサキーの足は付いている。この辺は回復魔法さまさまだな。
もっともギリギリまでボコられては回復。ギリギリまでボコられては回復。どうやらサキーは心を潰されるまで攻められたようだ。
サキーの目が死んでいる。
「美猴王サキー・サ・海馬だったかな?」
こくこくとサキーは頭を縦に振る。目は相変わらず死んだままだ。
「それなりの強さだ。猿術の顔を知っているのだろ?」
こくこくとサキーは頭を縦に振る。
となると最低限首実検には使える…
転移が封じられているなら一気に決着をつけるのも手か。
「取りあえず破壊だな」
サキーの頭にある緊箍児 (きんこじ)に触る。
キン
金属の砕ける音と共に緊箍児 (きんこじ)が砕ける。
サキーが猿術をクソ猿術さまの野郎と叫んだ時点で何らかの契約に縛られていたのは解っていた。
なら利用できると踏んで連れてこさせたのだが、上手くいきそうだ。
「クリエイトゴーレム」
砕けた緊箍児 (きんこじ)を材料にゴーレムを作るよう力を発動する。
映像が逆再生されるようにサキーの頭に緊箍児 (きんこじ)が嵌る。
「猿術の縛は解いた。だが反抗するようならおれのゴーレムがお前の頭を瓜のように砕く。いいな」
猿術の縛を解いたと言った途端サキーの目に生気が蘇ってくる。
「猿術の首を取って来ればそのゴーレムは外してやろう。やるか?」
おれの言葉にサキーは微笑みを浮かべる。
「ついでだ。これも持っていけ」
神珍鉄の棒を投げてやるとサキーの微笑みは極悪なものに変化していく。
サキーが口笛を吹くのと同時に空中から雲の塊が飛来。
雲に飛び乗る。
「ちょっくら行ってくるぜマスター」
サキーは能天気な口調で応えると城目掛けて飛んで行った。
「猿術はどれだけヤツを酷使してたんだろうな」
菜緒虎は何も言わず首を横に振るだけだった。
ありがとうございました。




