世界に果て
「攻撃開始」
ロングの茶髪に頭の上にはカチューシャ。大きな茶色い瞳。額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな鱗。
背中には大きな蝙蝠の翼があるがそれ以外は普通に人の風貌をしたゴシックなメイド服のドラゴンメイドのエマが指揮棒のようにハタキを振り下ろす。
短い銀髪の若干のつり目の紅眼、笹穂状の耳に肌は日に焼けたようにやや濃いハイエルフのリペッチオ。
緑っぽい銀髪に黄色い瞳。艶のある黒い肌のちびっ娘ダークエルフのヘウロパ。
スケルトン射手の上位種である、死の狙撃手のロビン。
ソウキ軍でも屈指の射手たちの弓から一角馬騎士が騎乗するユニコーン目掛けて矢が放たれる。
3本が6本。6本が9本。9本が12本。3人しかいないのに次々と増える矢。
たちまちユニコーンの身体がハリネズミのようになる。
そのくせほとんど一角馬騎士には命中していないのだから凄腕と言っていい。
ユニコーンを失った3人の一角馬騎士は1か所に固まって盾をかざし矢を防ぐ。
その光景はネコ科にいたぶられる獲物のそれであった。
「降伏勧告は?」
タキシードに身を包んだ銀の短髪に単眼鏡を掛けた赤い瞳。青白い顔の青年、真祖吸血鬼が首をかしげる。
「もう少し心を折っておきたいところです。最終的に3人も必要ありませんし」
ローブを纏ったガイコツ、リッチで副官のアルテミスの発言が黒い・・・まぁいいけど。
「ますたー。偵察完了シタ。指示ヲ乞ウ」
火鳥から思念が入る。
「心を折るのに時間をかけている暇はさそうです。残念です」
ちっとも残念そうに聞こえないのが黒さをさらに醸し出している。
「エマ。敵は既に一角馬騎士のみ。降伏勧告せよ」
「了」
エマは降り注ぐ矢の間を泳ぐようにすり抜け一角馬騎士の前に立つ。
「降伏を」
自分に降り注ぐ矢だけを視認することなくハタキで弾きながらエマは降伏勧告を行う。
程なく三人は降伏勧告を受け入れエマによっておれの前に連れて来られる。
「兜を脱ぎたまえ」
アルブラドが威圧的に命令する。
命じられた一角馬騎士は顔の半分を隠していた兜を取る。そこで三人がそれぞれ異なる種族であることが判明する。
これはあれか、一角馬騎乗することで種族に関係なく一角馬騎士にクラスチェンジというやつか?
とりあえず簡単に個人情報を・・・彼女たちの持っていたマッサチン国の冒険者ギルドのカードから引き出す
一人目は広いおでこに腰まである金髪のソバージュ。サンドイエローの瞳に白い肌。笹穂のような耳が特徴的な女性のハイエルフ。
名前をアーイ・キスギといいマッサチンの西にあるキスギという冒険者ギルドに所属するブルーランク冒険者。
二人目は赤いショートカット。サンドイエローの瞳に赤銅色の肌。ガッシリした体格にマトンチョップスの髭が特徴的な女性のエルダードワーフ(ドワーフの上位種)。
名前をルーイ・キスギといいマッサチンの西にあるキスギという冒険者ギルドに所属するレッドランク冒険者。
最後は肩で切り揃えられた栗色の髪にサンドイエローの瞳、白い肌の女性の人間で職業は騎士。(騎士とは王侯貴族忠誠を誓い与えられる名誉職ではない。意味合いから騎馬剣士の略だとした方がいい)
名前をヒットミ・キスギといいマッサチンの西にあるキスギという冒険者ギルドに所属するイエローランク冒険者。
(三人とも姓にあたる部分がキスギなのは名前の法則が名前+姓ではなく名前+所属ギルドだから)
三人のギルドカードにはマッサチン国が国として三人に正式に国からの依頼を受注していることを示す四つ葉を咥えた鷹を意匠化したマッサチン国の徽章が押してあった。
これがあれば、マッサチンを揺さぶる手札の1枚にすることはできる。
同盟を結んでいるのに先に喧嘩を売ったのはマッサチンなのだから。
「我が軍に情報提供者として残るのはヒットミだ。アーイ。ルーイ。君たちは釈放だ。マッサチンに戻って飼い主に報告するといい。同盟国に喧嘩を売りましたとな」
名前を呼ばれた二人の身体がびくんと振るえる。
一番レベルが低くて若いヒットミを尋問すると言われての動揺か、自分たちに課せられた母国への報告という重圧を思ってか。
おれの前に連れて来られた二人が再びエマによって連れ出される。
「さて、おれ、いや私が知りたいのは」
ヒットミを眺める。
当然というかガイコツであるおれに眺められてヒットミは身体を震わせている。
「まずは一角馬騎士という職業に就くための条件だ。レベルアップ時の能力値による条件進化なのか」
レベルアップによる進化は種族が違うからないだろう。できれば人間系+一角馬の合成系だとありがたいのだが・・・
「月神アリグナクさまの使者を名乗る方よりギルドマスターに下賜された一角馬や天馬に選ばれた結果です」
能力値を満たした人間と一角馬や天馬を揃えるという条件を満たしての合成のパターンか。
しかしここにきて月神アリグナクか・・・キングドラゴンのギドラが掴んだ眷属の気配とやらが行っていた工作の正体だろうな。
「つぎにマッサチン国の西の果てはどうなっているかということだ」
本拠地で使用できる広範囲の動向を知ることができる世界地図だが、これがどう動かしても四角の範囲しか動かないのだ。
原因は不明だが、東と南と北に存在する謎の見えない壁が関係していると睨んでいる。
-マッサチン国の北に謎の見えない壁があるのはマッサチン国の北部に住んでいたというリリィやマーサからすでに聴取済である。-
もしマッサチン国の西にも謎の見えない壁が存在するなら、この世界はある時を境にいや最初から神の箱庭・・・ま、それはいいか。
世界が世界地図が示す範囲の広さなら、この世界の半分はすでにおれの目の届く領地である。
なら考えられる最後の敵の居場所はマッサチン国か東ワ国。そしてアタラカ山脈の西側に広がるとされる大森林の中だ。
「そ、その程度であれば」
オドオドしながら口を開いたヒットミの答えは・・・予想した通りだった。
ありがとうございました




