ア・バオア・クゥー前開戦 その1
連載を始めて1周年です
ありがとうございます
そろそろ見えてきました。いましばらくお付き合いください
ジャーン・ジャーン・ジャーン
魏府軍が侵攻してきている方角から銅鑼の音が響く。
孔明の、とは言わない。前に言ったし・・・
てけてん・てけてん
砦の堀から軽く軽快な太鼓の音がする。
皇帝烏賊が足先に装着できるように改良したバチで器用に太鼓を叩いている。
おれの軍は思念で相互に意思の疎通ができるので音による意思伝達は必要ないから別にいいのだが・・・
「岩鳥。俯瞰を」
偵察任務についている岩鳥と視覚同調させる。
魏府軍が部隊を三つに分け両翼を前面に出しドラゴン達を包囲する鶴翼の陣を形成している。
魏府軍の先方は大きな盾を構えたレギュラーオーク。そのすぐ後ろにかなり長い槍を持ったゴブリン。
更にその後ろには騎乗しランスを構えた重装のドラゴンバトラー。
包囲から一気に乱戦に持ち込んで止めにランスで突撃といったところか。
だが数的優位を減らしてどうするだ・・・
「敵の攻撃が始まり次第、悪韋の射程範囲内まで前進。我々は左翼から潰すのでリペッチオたちは右翼から時計回りに各個撃破」
了と思念が返ってくる。
まず動いたのはリペッチオとドラゴンバトラーのドラゴン軍団。
「マスター。敵ノ空ノ斥候発見」
岩鳥からの思念が入る。
敵も手をこまねいている訳ではないようだ・・・って天馬か。背中には弓を構えた女騎士って斥候じゃないぞ。
「ペガサスライダーですね。マッサチン国の傭兵が混じっているようです」
クワトロからの思念が割り込んでくる。
そうか・・・だが、来ても不思議ではないか。
しゃん
鋭い風切り音と同時に視界がブラックアウトする。
げっ岩鳥が一撃だと?
不味いな。
「マスター。我らにお任せれ」
後ろに控えていた肌の色は濃い藍色。赤目に瞳の色は虹色。肩まで伸びた銀髪にピンと尖った耳。
背中の蝙蝠の羽は鳥のように大きく頭に太く大きく三日月状の角をもつ少女レッサーデーモンと
透き通ったような白い肌に腰にまで及ぶ金色の髪。青い瞳。背中には白い鳥のような羽をもつ美女
アークエンジェルがふわりと浮かび上がる。
どちらも背中の羽は飾りか・・・
レッサーデーモンとアークエンジェルはあっという間に高度を上げると水平に移動を開始した。
「岩石創成」
悪韋が地面に手を付きキュクロープの特殊能力を発動させると直径五十センチほどの石の球がポコポコと生まれる。
それをガシャドクロとタイタンが掴み投擲を開始する。
岩鳥も生み出される石の球を掴んで離陸する。
ただの石。されど石。長らく戦場において立派な攻撃の手段、いや、いまでも立派に攻撃の手段である。
「着弾」
左翼に展開していた偵察の岩鳥から思念と映像が入る。
「ふむ・・・イカ殿。5秒に1回の太鼓をお願いできますか」
「イイヨ」
悪韋の頼みに皇帝烏賊が器用にOKサインを出す。
どん・かん・かん・かん・かん。どん・かん・かん・かん・かん。
・・・突っ込めない。
「どんのとき必要なら投げる方向を指示します。とりあえず左に三度ずらして投擲」
悪韋の指さした方に投石が開始される。
ごしゃ、どご
石は重装備で動きの鈍いドラゴンバトラーの騎乗する馬に襲い掛かる。
おー混乱してる。
そこに向かって岩鳥が落石を開始する。
ゴブリンが槍を空に向かって振り回すが届かない。
そこにペガサスライダーが弓を射ながら突撃してくる。
さっきの個体だな。
岩鳥に石の補給に戻るよう指示を出す。
「一方的な狩りは退屈でしょう」
レッサーデーモンとアークエンジェルがペガサスライダーの前に立ち塞がる。
世の宗教家悶絶の光景?に気のせいかペガサスライダーの女騎士の顔が怖いことになっている。
レッサーデーモンが三又槍で突きを出す。
女騎士が弓でこれを受け流し、すかさず突き返す。
へぇ。そういうことができる武器なんだ。
「きゃははすごーい」
レッサーデーモンが空中でバック転してこれを躱す。
ぎん
レッサーデーモンの虹色の瞳の瞳孔が絞られる。
女騎士は大きく頭を振る。どうやらレッサーデーモンの挑発に抵抗したようだ・・が
ひひーん
ペガサスが空中で前脚を上げて嘶く。ペガサスはレッサーデーモンの挑発に抵抗出来なかったようだ。
「きゃあ!」
いきなりのペガサスの棹立ちに女騎士はバランスを崩して弓を落とす。
「雷槍」
レッサーデーモンとアークエンジェルの右手に雷を纏った槍が現れ女騎士の身体を貫く。
パリン!
ガラスを砕くような澄んだ音が響き女騎士は光の粒子となって消える。
冒険者ギルド謹製の護符が発動し女騎士は死に戻ったようだ。
ひひーんひひーん
御者を失ったペガサスが嘶きながら遁走する。
「逃がさない」
アークエンジェルがあっという間にペガサスに追いつき・・・
「跪け」
ぎん
アークエンジェルのかざした手にペガサスは空中でへたりこむという姿を見せる。
「レッサーデーモン。わたしはペガサスをマスターに献上してきます。暫く宜しく」
「いいよー」
レッサーデーモンはブンブンと手を振りながら眼下のゴブリンたちに雷槍を打ち込み始めた。
ありがとうございました




