閑話休題 菜緒虎のある1日
pixivの絵描きさんと物書きさんでコラボしたい【参加者募集中】にてイラスト描いて頂いた、キャラ創って貰った記念の閑話休題です
ソウキ軍総大将(の予定)である菜緒虎の朝は早い。
若干のつり目の碧眼、笹穂状の耳のウッドエルフで侍大将のお姉さん菜緒虎は夜明け前の一番暗い時間に目を覚まし長い金髪を頭のてっぺんでお団子状にまとめて道着に着替えると音もたてずに部屋を出る。
就寝したのが白露城の個室なら城下にある自分の道場に、城下にある自分の道場なら白露城の天守閣まで走る。
今日は白露城の個室から城下にある自分の道場だ。
ちなみに道中、同じ地位である軍団長のリッチのアルテミス・騎士クワトロ・ワーウルフのイヌガミ・ハイエルフのリベッチオの城の個室と城下の屋敷前も走る。
気配を探る鍛錬だ。
もっとも政軍両方の参謀を務めるリッチのアルテミスはアンデットで気配が完全に絶てるので加減はしてもらってはいる。
カン、カン、カン、カン、カン。
道場の軒先に吊るされている木鐸が菜緒虎の手によって鳴らされる。
道場内部。正面の奥には畳が3畳ほど横に1列。板張りの床より一段高い様に置かれている。
右の畳には鹿角脇立兜に黒糸威胴丸具足。そして大数珠・・・いわゆる本多忠勝具足写一式が鎮座している。
左の畳には鹿の角に掛けられた刀。
そして真ん中の畳には布団・・・そう神棚ではなく布団。
信仰している神は庇護のある女神リブーラだが、武の場所に祀られることを女神が嫌がったのでいまは暫定的に寝床になっている。
「もがぁ」
まさかりカボチャを抱き枕に布団で寝ていた女性が半鐘の音で目を覚ます。
同時にふぁさっと布団が女性をすり抜けるように落ちる。
透き通った白い髪はショートボブ。前髪が長く右半分は隠れ気味である。
ハの字の眉毛が困った感を漂わせている。そしてよく見れば彼女の身体がぼやけて見えるのが解る。そう彼女はゴーストだった。
「ふぁあ」
大きく欠伸をしたあと布団を畳み左の畳の横にある壁の引き戸を開き中に仕舞い込むと道場から出ていく。
ゴーストなのにモノに触れるのか?と問われれば答えは否だ。
布団を持っているように見えるだけで、実際には念動力である。
精密にコントロールされたポルターガイスト現象だと思って貰えればいい。
ちなみにこの世界では太陽光の元であってもアンデットが消滅することはない。精々弱くなる程度だ。
というかゴーストは属性ニュートラルなので常に十全の力を発揮できる。あと寝る必要はないが出来ない訳でもない。
「さて」
ゴーストは庭の井戸から汲んできた水の入った桶に手を突っ込み、入っていた雑巾を取り出す。
「そうそう」
ゴーストは壁にかかっている木片を凝視すると木片がパタンとひっくり返る。
木片には墨で【天城】と書かれていた。
「「おはようございます」」
ガッチリとした体形の身長は152センチの男性ドワーフが道場の入り口で一礼して入ってくる。背中にはグレートアックス。
次に160センチの豊満な肉体のちびっ子牝牛人間が棘の沢山配置された棍棒を抱えて入ってくる。
そこから・・・
身長180センチほど。赤っぽい金髪の細剣を持ったハイエルフのお兄さん。
身長170センチほど。肌の色は透き通ったような肌色をしており背中には天使の羽。金色の髪に瞳の色は青い色。短槍を持ったアークエンジェルのお姉さん。
鹿のような角に硬そうな顎鬚。額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな青くメタリックな鱗をもつドラゴンバトラーが90センチほどの包みを持って入ってくる。中身は三節棍。
それぞれが得意とする武器の木製武器を持っていた。
なお、一人も壁の木片をひっくり返す人間はいない。彼らは菜緒虎の弟子ではない。
「おはようございます!」
遅れて14、5歳ぐらいの三毛の猫少女が飛び込んでくる。最初に入って来たドワーフと身長は変わらない。腰に差しているのは木刀。
それを見た天城が壁の木片を睨む。
パタンとひっくり返った木片には墨で【みー美】と書かれている。この道場で菜緒虎の指導を受けている少女だ。
みー美は天城の隣まで行くと正座をして菜緒虎に一礼。続いて天城に対しても一礼する。
「わたくしは食事の支度をしてまいります」
天城は小さく頭を下げて出て行く。
「ではその前に軽く身体をほぐすこととしよう」
菜緒虎が最初に続いてその場にいた全員が立ち上がり身体を動かし始める。
「本日の茶漬け・・・具はワ国より取り寄せました鮭の塩漬けと海苔となります」
天城が朝食の内容を告げると、周りからほぅと声があがる。
ここまでくると察することが出来ると思うが、天城は菜緒虎の身の回りの世話の一切を取り仕切る家政婦長である。
もっともいまのところ天城一人しかいない。
天城との出会いは半月ほど前に遡る。
ワ国の外交官として白露城で働いている香坂雅忠と伊志田三成からワ国には地獄の釜が休みになる藪入りという使用人の休日があるという話を聞いたのだ。
それを聞いたソウキが城下に厳戒態勢をとらせる。
十月末の収穫祭でカボチャとスイカの頭を持つ邪妖精が城下で暴れたのが原因だ。(閑話休題 はろうぃんうおーず 前後編)
大山鳴動してなんとやら。発見されたのはまさかりカボチャの畑のど真ん中で漂っていた、自分のことをワ国に住んでいた天城という女性だと主張した彼女だった。
紆余曲折の結果、ワ国に馴染みのある菜緒虎の元に付き人として預けられいまに至っている。
「いただきます」
菜緒虎が唱和すると残る五人も同じように唱和する。
やがて食べ終わった者から「ごちそうさまでした」と呟きがなされ、食器が回収されていく。
「今日は、対等五戦、不利二、三、四、五を一戦づつ四戦、乱戦一戦をお願い致します」
「よろしくお願いします」
他の五人から返事が返ってくる。
30分の瞑想の後、稽古が始まった。
「ありがとうございました」
上座の菜緒虎に対してみー美が頭を下げる。
「うむ」
菜緒虎も深く頭を下げる。
五人相手の立ち回り稽古のあと、みー美に稽古を付けていたのが終了したのだ。
「参りましょう」
大きな包みを抱えた天城に促され3人はあるところに、そうお約束の場所に向かう。
ろ・て・ん・ぶ・ろ
こん
鹿威しの乾いた音が響く。
菜緒虎は湯船に漬かった状態で大きく息を吐く。
「その、私もいつかししょーのようになれますか?」
湯面に浮かぶ菜緒虎の白磁のごとき白い双球をガン見しながらみー美は呟く。
「適度な食事に適度な運動で精進あるのみですよ」
みー美の隣で明滅しながら天城が答える。
ゴーストなのに風呂に入っているのは謎といえば謎である。
菜緒虎並みにナイスなボディなのがみー美には悔しい。
「菜緒虎さま。今日の夕餉はかぼちゃのコロッケです」
「うむ楽しみだ。みー美も食べていくように」
「はひぃ」
天城の言葉に菜緒虎は頷き、みー美はちょっと噛んで返事する。
そしてお風呂シーンはこれまでである。
ジジッ・・・
薄暗い道場の中で三本の蝋燭が揺れる。その前に天城と菜緒虎が向かい合っている。
配置は一直線に蝋燭ABCと天城と菜緒虎。
すっと菜緒虎が目を開く。
ゆらっ
天城の輪郭がぼやける。天城は凝視すればするほど輪郭はぼやけるという特技を持っているのだ。
そして天城の輪郭がぼやけるほどに蝋燭の火が滲んで揺らぐ。
「はっ」
菜緒虎は持っていた同田貫を抜刀。振り下ろすように一閃。
天城の身体を斜めに斬る残像が走る。もっとも天城はゴーストなのでそのまますり抜ける。
「残念」
天城が背後にある唯一火の消えた真ん中の蝋燭を念動力で自分の前に移動させるとぼそりと呟く。
「今日は蝋を刎ねたか」
差し出された蝋燭が斜めに切断されているのを見て蝋燭の芯を切り飛ばすつもりだった菜緒虎は小さく息を吐く。
「お疲れ様です。では私は城に行きます」
「ああ、お疲れ様。明日も頼む」
菜緒虎と天城は正座してお互いに頭を下げる。
明日の菜緒虎は道場から城の個室へと走ることになる。
※菜緒虎 イラスト さかき あん氏
ありがとうございました




