血戦前
お待たせしました
北許の外周城壁の四隅に「蒼」の字の旗が風に靡く。
いま、おれ達の軍団はその外周城壁の外に展開している。
その際に城塞都市内の住民・・・主に城を取り囲む第二城壁内の住民に対し五日の猶予期間をもっての退去警告を出していた。
二日後この地を完全に更地するので命が惜しい者はこの地を立ち去るようにと・・・
「やれ」
悪韋とジャイアントに命令する。
どごん。ばがん。がらがら。
おれ達の目の前、つまり北許の外周の南側城壁が悪韋とジャイアントの拳で破壊されて崩れていく。
警告がハッタリではないことを実演して見せている訳だ。
そして五日の猶予を付けた訳は・・・
「南海州牧である劉美殿には積極的サボタージュ以上の事をお願いすべきです」
アルテミスがそう献策してくる。
「義弟である張緋を復活させたぐらいだ。大した恩は売ってないだろ」
「それは大したことだと思うのですが」
すかさず菜緒虎が意見する。
そうか?ある程度の鮮度があって病死でなくて重要な部位が揃っていれば確率は低いが寺院でも復活できる世界だろ。
召喚されたモンスターは消滅するから死ぬと復活は出来ない。召喚によらない部下も増えてきたから保険の意味で実験し成功した程度の認識しかない。
あ、女神リーブラの布教活動の一環もあるか。彼女を信仰する人間の数が増えればおれたちの受ける加護の力も強くなる。
「賢業州の孫呉に劉美が独立を画策していると噂を流す。劉美には沈黙を守ってもらう。それだけで孫呉は動けなくなるだろ」
「噂程度で孫呉が狼狽えるほど劉美殿は野心家でないのです」
ハンゾウが横から話に入る。
「ああ、劉美はそうゆう人物だったな」
ハンゾウが献上した劉美の人物ファイルにあった人物評を読んだときの感想を思い出す。
簡単に言うと誰にも優しく愛に生きる正義の人。
戦争も使者を立て口上を述べたあと力自慢の武将が名乗りを挙げて一騎打ちがあって・・・格式を重んじる戦いを好む。
牽制にはならないか・・・
「北許の北、北涼の州牧でハイオークの陶卓と賢業の西にある南場の州牧で猿人の猿術は野心家です。彼らを動かしましょう」
「張緋殿を南海と賢業の州境で活動させてはどうでしょう」
アルテミスと菜緒虎が同時に献策する。
「陶卓は噂で構わない。猿術は手紙と猿術は王として相応しという噂をばら撒け。張緋には、張緋につけた死騎士を通じて話をする。ハンゾウ」
ハンゾウに視線を送るとハンゾウは小さく頷く。
「賢業には南海と賢業の州境で刑死したはずの張緋が王国への恨みからスケルトンの軍団を率いて彷徨っていると噂を流すのも忘れるな・・・魔法銀バット、ゴースト」
「御身の前に」
近くを飛んでいた一羽のコウモリが銀色に光りながらドクロの顔の筋骨逞しい人間の女性へと姿を変えて片膝をつく。
「盟主。お呼びでしょうか」
机の影からにじみ出るように人の形をした靄が浮かび上がる。
「いまの噂を北許の城壁内部に流せ。期限は・・・三日もあればいいか?」
「よろしいかと・・・ついでに北許の住民に対し五日の猶予を与えての避難勧告を行い混乱を増幅させましょう」
アルテミスが献策する。
「噂に王族が逃げ出したを入れるべきです」
クワトロが付け加える。
「ではそのように動け」
その場にいた全員が頭を下げる。
それから三日後・・・
「お館様。昨夜、北門より数百人規模で住民が逃散したのを確認しました」
菜緒虎がなんとも言えない顔をして報告する。
「回りくどいだろ?まぁなんだ、この難民が周辺の州に少しでも負担を強いれれば儲けものは最悪すべてが野垂れ死にしても構わんのだよ」
「占領が目的では無かったのでしたね」
菜緒虎は納得したような顔をする。
「盟主。城から武装した一団が十騎・・・先頭はフルプレートに身を包んだ半虎人間。これは魏府王国の皇太子です」
噂をまき散らすために城の近くで活動していたゴーストから連絡が入る。
「少しは骨のあるのが居たようだ」
おれは近くにあった召喚陣に立つ。
「さて・・・うまくいくかな?」
こっそり練習していたあれをやってみるか・・・
既に召喚できるモンスターの一覧からあるものとあるものを混ぜて召喚してみる。
ぞん
召喚陣がいつもと違う黒い光を放つ。これは成功したかな・・・
<<スケルトンとスモールドラゴン(C)の融合に成功。骸骨龍を召喚します>>
召喚陣から黒い骨で出来たスモールドラゴンが姿を現し同時に周囲張っていた陣幕が吹き飛ぶ。
まあそうなる・・・
「お館様これは」
菜緒虎が感嘆の声を出す。
「見た目にも威圧感のあるモノが作れないかなと研究していたんだ」
おれは骸骨龍に跨る。
うむ・・・ドアホーに鞍とか手綱とか馬具ならぬ龍具を作って貰おう。
「菜緒虎ついて・・・ああ、幹部にもこういうハッタリは欲しいな。考えておけ」
「はっ」
菜緒虎を連れて城壁の見える所まで前進する。
既に悪韋とジャイアントが戦闘に入っているのが見えた。
「悪韋、ジャイアント。皇太子殿を通して差し上げろ」
命令に従い悪韋とジャイアントが少し間を空ける。
すると掻いくぐるようにフルプレートに身を包んだ半虎人間が姿を現す。
「やあやあ我こそは!魏府王国の第一王位継承である皇太子。壇羽十三世が子、壇禅である!俺は総大将との一騎打ちを所望する」
壇禅は刀身は先端に向かって幅広になる剣、柳葉刀を豪快に振り回す。
「菜緒虎。手を出すな」
おれは金珠の杖を振りながら壇禅の前に立つ。
「魔法使いを相手に一騎打ちを所望とか、いい根性だな・・・後悔させてやろう」
おれの挑発に壇禅の顔色がみるみる赤くなる。
「ふ、ふざけるな!」
壇禅は大きく柳葉刀を振り上げた。
ありがとうございます。




