賢業州侵攻 その2
「敵軍の出撃を確認しました。軽歩兵160、重歩兵100、騎馬10、槍兵20、弓兵10。軽歩兵は部隊を二隊に分けこちらを包囲するように進撃中」
偵察している岩鳥から思念が入る。
現在位置からみて城は北西にあり本隊は真っ直ぐにこちらに向かっており、軽歩兵は北と西に大きく迂回している。
本隊の重歩兵でこちらの勢いを止めて槍兵と弓兵で削り、その間に軽歩兵を迂回させ側面を突く作戦か?
なるほどニーダ半島での戦いでおれが忠告した-数に頼ればブレスで殲滅、分散させれば各個撃破-は情報として降りてきているらしい。
そしてこれが彼らの辿り着いた我々に対する用兵なのだろう。
「マスター。それらしい派手な武将を見つけました」
偵察中の岩鳥から思念が入る。
思念を送ってきた岩鳥の視界に同調する。
立派な馬に煌びやかな鎧。豪華な装飾の薙刀を持って戦場を闊歩するリザードマン系モンスターがいる。どう見ても私が最高指揮官ですと喧伝しているようなものだ。
しかし最高指揮官が城から出てきたからといって今回のこの戦力差を相手に主力とまともに戦うつもりはない。
「最大戦速で北に向かっている軽歩兵隊を撃破。あとは適当に間引くぞ」
魔法で全体の移動速度を上げて配置的には一番遠い北の部隊を叩く事を指示する。
想定通り北に展開していた軽歩兵隊と遭遇する。
ゴブリン、オーク、リザドーマン、犬人間…相手はレベルの低い亜人による混成部隊だ。
手持ちの武器は短槍やショートソード。防具はよくて鎖鎧。大半は厚手の布で中には鎧を身に着けていない兵もいる。
どうやら数が頼りの民兵のようだ。
「やれ」
指示と同時に六頭の赤火色、白氷色、黒光色のドラゴンが口を開く。
それを見たギープの軽歩兵が蜘蛛の子を散らすように逃走を開始するが距離的にも時間的にも間に合うものではない。
ゴウ
扇状に三種類、六本のドラゴンブレスが放射される。
ギープ軍は戦場に到着まではと規則正しく進軍してたことが仇となった。部隊の三分の一が跡形もなく消し飛んだのだ。
<<メッスィングドラゴンのレベルが上がり進化の条件を満たしました。進化しますか?>>
敵とのレベル差があると入る経験値は小さいが数でカバーしたようだな・・・Yと。
毒々しい緑色のガスがメッスィングドラゴンを覆い隠す。
ぎぃ
金属をこする甲高い音が響き、ガスの中から赤茶・・・いや鈍く光る銅色の鱗をもつ爬虫類の足が現れる。
グル
身体は一回り小さくなったが、中々に重厚感あふれるドラゴンが姿を現す。
<<メッスィングドラゴンがクップファードラゴンに進化しました>>
なるほどドイツ語のメッスィング(真鍮)がクップファー(銅)になった訳だ。
がっ
クップファードラゴンが小さくブレスを吐くと地面に辛うじて原型を残して転がっていたオークが腐り持っていたショートソードの刀身が赤茶けてへし折れる。
腐食がの定義的にも凶悪に進化してるようだ・・・
「放て」
アルテミスが雄山羊の杖を振り下ろすと魔法や矢が派手な軌跡を描いて生き残ったギープの軽歩兵を仕留めていく。
ゆらり
不意にギープ軽歩兵の姿が揺らめく。
「チェンジだと?」
目の前でおきた現象がなにかすぐに思い至る。
「転移してくるぞ」
悪韋とジャイアントが盾を構えてドラゴンの隙間を塞ぐ。
ザン
軽歩兵の姿が消え重歩兵、槍兵、弓兵が姿を現す。
重歩兵を構成する種族はレギュラーオークにホブゴブリン。鎖鎧に身を固め両手には円形のラージシールド。
槍兵を構成する種族はリザードマン。皮鎧に2メートル近い槍を携えている。
弓兵はすべて人間だ。胸当てに長弓という装備である。
ダンダンダン
重歩兵が持っていた盾を地面に打ち立て次々とその上に盾を重ねてあっという間にちょっとした陣地が構築されていく。
いつか見た映画のようだ・・・
「如何しましょう?」
菜緒虎が訪ねてくる。
「敵がチェンジの大魔法を行使してきたのは驚いた。誰が行使したのかも確認したいが、現状では優先順位が高いわけじゃないからな」
「つまり眼前の敵は無視されると?」
「仮にここで相手を追いつめても再びチェンジで逃げられるだけだ」
アルテミスの問いに答える。
「が、一撃も与えないというのは面白くないな・・・死の狙撃手、死騎士」
死の狙撃手と死騎士が速やかにやってくる。
「死の狙撃手盾の隙間を狙って何か叩き込めるか?」
「お任せを」
死の狙撃手はクロスボウの弦を巻き上げて鏑矢みたいな矢を装填する。
「死騎士一当たり当たれ」
「はっ。我が声に応えよ黄泉の軍馬」
死騎士が高らかに宣言するのと同時に地面が盛り上がる。
ずさ
地面が割れて一体の骸骨軍馬が姿を現す。
死騎士は骸骨軍馬に跨るとランスと白鱗のドラゴンシールドを構える。
「はっ」
死騎士が骸骨軍馬の腹を蹴ると骸骨軍馬は走り出す。
ジャ
盾の壁に隙間ができて槍が飛び出す。
うーんスケルトンの突進に刺突武器で迎撃って・・・
ひゅん
死の狙撃手のクロスボウが風を切って盾の隙間に飛び込む。
どん
盾の隙間から閃光か走り盾の壁が崩れるがたちまちのうちに乱れは正される。
ガシャン
続けて死騎士のランスによる突進が盾の壁に突き刺さるがこちらはビクともしない。
しゃしゃしゃ
盾の壁の向こうから矢が降り注ぐ。
かかか
死騎士が掲げる白鱗のドラゴンシールドに矢の当たる乾いた音が響く。
「うお」
野太い声が響き盾の壁が死騎士を押し返す。
「西からの敵の遊撃隊が来る前に速やかに戦線を抜けるぞ」
盾の壁を正面にしてゆっくりと距離をとる。
相手もこちらの意図を掴んだらしく盾の壁をじりじりと進めてくる。
「さてどれくらいの防御力があるのか見せて貰おうか」
再びブレスが放てるようになった六頭のドラゴンにブレスを命じる。
ゴウ
扇状に三種類、六本のドラゴンブレスが放射される。
ぎぃんんんんん
激しい音ともに盾が光りブレスを弾くが弾いた盾も少なくない数がボロボロと崩れる。
「追撃して・・・こないな」
相手が動かなくなったのを見て戦場から離脱することにする。
ありがとうございました




