閑話休題 その7 白露城。ただいま建築ラッシュ中
煮詰まってます
気分転換必要かな・・・
それに気が付いたのはアルテミスだった。
「なるべか早く白露城から港までの間に住宅街を構築したい」
妾の主であるソウキさまがそう言ったのがそもそもの発端です。
もともとソウキ軍が拠点にしているここ白露城は洋上に浮かぶ孤島の外輪山のなかに存在する幻視の魔法に守られた要塞です。
敵対する軍に攻め込まれたとき港から城まで何の障害物がないのがかなり不味いのは確かです。
無造作にガラクタを並べる訳にもいかないのも判っています。
しかしソウキ軍にあって住宅というか衣食住すべてがソウキさまの魔力によって保障されています。(衣というか武具はソウキさまから支給されています)
白露城内にある部屋を一部の幹部が所有していますが、これは幹部のステータスとしての意味として受け止められているのです。
マスターから城下に家を建ててもいいと言われても城内にまだまだ空き部屋があるのだからと配下からは誰も申請がありません。
某日。実験農地用の井戸からかなり熱い水が噴き出しました。
同僚である菜緒虎が「露天風呂がいいです是非ご検討を!」と大騒ぎし、マスターも「温泉とはな、おれの世界では疲労回復のための施設だ」と仰ったので露天風呂の建設が決まりました。
懇意にしている鍛冶師のドアホー殿が建築どころか資金まで提供し立派な施設が出来上がりました。
ええ、いまでは菜緒虎の主張とマスターの決断がいかに素晴らしいものだったか、骨に染みております。はい。
某日。黒いパイナップルヘッドの髪型に灰色眼。ドワーフにしては160センチと長身の少年が丸めた羊皮紙を大事そうに抱えてやってきた。
ソロモン評議会と武器ギルドの代表を務めているオルテガの四男であるノリスだ。
「ドアホーの親方がソウキさまの許可を得て城下に工房を開くので場所の指定と建築許可をお願いします」
そう言ってノリスは抱えていた羊皮紙をアルテミスに渡す。
羊皮紙には利水が良い事と書かれた工房兼店舗兼住居の小さいながら多用途な家の見取り図が書かれていた。
マスターの上水・下水路を考慮しろとの注釈が付けられて決済が降りたので建設に入る。
ちなみに下水路は水で流され特定の個所に集められて、それをスライムが1日に何度か定期的に巡回して処理するらしい。
上下水路の設置を絶対に間違えるなと念押しされました。
某日。畑、いえ植えるのは水稲ですから田んぼですね。田んぼに水が入りました。ワ国から取り寄せた単粒種で品種改良が目的です。
スケルトン海賊-スケルトンと名前がついているが実際は骨人形-は疲労しないので代掻きまで昼夜を問わず一気に力押ししました。
品種改良は妾の仕事。取りあえず収穫量を増やすことを目標としましょう。
あと数日したらマッサチン国からワイン用のブドウの苗も手に入るそうです。クワトロ殿がソワソワしていました。
小麦や大麦は秋播きのモノしかないので保留。大豆や稗や粟といった雑穀も僅かにですが植えておきます。
某日。城塞都市ソロモンを筆頭に支配下地域から送られてくる書類に加えマッサチン国、ギープ王国、ワ国の報告書が多くなってきている。
これら書類の原本を収納するための書庫を城外に建設することを申請したらすぐに許可が降りましたので建設を開始します。
ワ国から資材と職人の都合がついたので木骨土塀の瓦葺。そう白露城の外観に沿ったものになる予定です。
それを見た菜緒虎がワ国風の剣の稽古場を発注したようで基礎工事が始まっています。
某日。書庫が内装を除き完成。スケルトン海賊達による不眠不休の活動による成果です。ワ国の職人さんの顔が日に日に渋いものになっていくのがなんとも言えませんでした。
ここから先は職人さん無双なので支障がない程度に書類の搬入を開始。書類を書庫に搬入したその時です。
りんごーん
荘厳な鐘の音が鳴り響きました。
<<書庫が完成しました。クエスト達成。ボーナスの適用が開始されます>>
<<書庫が完成しました。クエスト達成。ボーナスの適用が開始されます>>
久しぶりに謎の声が鳴り響く。
「マスター。書庫に書類を搬入したところ天から声が」
アルテミスから思念が入る。
そうか、いや城だけポツンとあってあとは更地とかおかしいと思ったんだよ。
城下に建物を建てるとそれに応じたステータスが上がるのか。取りあえず五人の部隊長を招集する。
評定間の円卓におれを起点とするなら右から軍師でリッチのアルテミス・騎士のクワトロ・ワーウルフのイヌガミ・ハイエルフのリベッチオ・ウッドエルフで侍大将の菜緒虎。
そしておれで一周になるように座る。
「新しい機能が見つかった……城下に特定の建物を建てることでステータスが上がることが確認された」
アルテミス以外の人間から驚愕の声があがる。
「最近地方情報の書類が溜まっていましたので、それを収納するための書庫を建てておりましたがそれがさきほど完成しました」
アルテミスが間髪いれず報告する。
「アルテミスの知力(INT)と耐久力(VIT)にそれぞれ+1されているのを確認した」
おおっと声があがる。
アルテミスは魔法を使うので知力(INT)が上がれば威力が上がり耐久力(VIT)が上がればダメージに耐えられる。長所と短所が上がるということはより役に立てるということだ。
「何をすれば良いのでしょう?」
菜緒虎が挙手をして尋ねる。
「アルテミスの場合は書庫を所有したら知力(INT)が、農作地を所有したら耐久力(VIT)が上がったようだな」
おれの言葉にアルテミスは静かに頷く。
「菜緒虎はワ国風の剣の稽古場を発注したのだろ?」
菜緒虎が頷く。
「ステータスは力(STR)、知力(INT)、器用(DEX)、耐久力(VIT)、素早さ(AGI)、運(LUK)の六つあり知力(INT)と耐久力(VIT)は予想が付いたので残りを調べろ」
了と全員から返事が返ってきた。
「報告します」
アルテミスが一枚の羊皮紙を差し出す。
「ステータスが上昇する建物の中間報告です。まず……」
力(STR):武器の扱いを教える道場や武器屋。武器屋はある程度売買実績が必要。
知力(INT):勉強を教える塾や書店。書店はある程度売買実績が必要。
器用(DEX):弓の扱いを教える道場。
耐久力(VIT):農作地や宿屋。宿屋はある程度売買実績が必要。
素早さ(AGI):まだ発見されてはいない。
運(LUK):闘技場での賭けの胴元。
「引き続き調査するように」
「承りました」
アルテミスは深々と頭を下げる。
いま白露城の城下町は空前の建築ラッシュの只中にあった。
ありがとうございました




