張緋の復活
張緋将軍の復活の儀式のために張緋将軍の遺体を本拠地の白露城に移す。
張緋将軍の遺体は切り離された首と胴体が丁寧に縫い合わせて清められる。
そして頭部に女神リブーラ。足元にジャンヌ。なぜか右手の所にアークエンジェル左手の所にデーモンが配置される。
リブーラに言わせると天の自分と人のジャンヌ。聖の精霊アークエンジェルと悪の精霊デーモンを配することで蘇生の確率が若干上がるらしい。
信頼性はあまりないが突っ込んでリブーラのモチベーションを下げてもつまらないのでやらないが。
ジャンヌが三種の神器…鉾鈴、虹色の勾玉で飾られた鉢金、魔法銀の鏡をリーブラから受け取る。
そして勾玉を額に装着し魔法銀の鏡を首から下げて鉾鈴を構える。
シャンシャン
鉾鈴についている鈴が澄んだ音が鳴り響く。
「関香殿」
菜緒虎に促されてロングの黒髪に大きな茶色い瞳の身長180cm近くある薄く透けた羽衣に身を包んだ女性が現れる。
額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな鱗。背中には大きな蝙蝠の翼があり彼女がドラゴンメイドという種族であることがわかる
彼女の名は関香安久美。ギープ王国の州牧である劉美の片腕であるドラゴンバトラーの関翅の娘である。
おれはハンゾウ配下の忍者軍団によって集められた劉美一派の情報について思い出す。
劉美。兎人間の女性でフルネームを劉美幻兎という。正確には姓を劉。名を美。字を幻兎という。
いまから250年前、ギープ王国の前にこの地域を支配していたキャン王国国王の庶子である劉尾玄孫を祖としている。
ギープ王国がキャン王国を滅ぼしたとき初代ギープ国王はいち早くこの一族を保護し一族の人間を戸部尚書-財務大臣-に取り立てたという逸話が残っている官吏一族の出身だ。
劉美幻疾は僅か十二歳にして科挙-公務員試験-に合格しその才を認められ二十歳になった今年にギープ王国の南部・・・港湾ジャンに隣接する都市の州牧-知事-として赴任していた。
次に劉美の片腕であるドラゴンバトラーの関翅。フルネームを関翅雲蝶。劉美の護衛武官として任官するも劉美によって文官の才能を見出され去年には科挙にも合格。
文武の副官として劉美を支える傑物である。
そしていま眼前で屍をさらすワータイガーの張緋。フルネームを張緋翼疾。関翅と同じく劉美の護衛武官として任官。
小さな兎の文官である劉美を一目見て関翅と張緋はその場でファンクラブを結成し永遠の加護を誓ったという。(関翅は娘の関香と姿が重なったらしいが)
そして劉美が成人を迎えた十六歳のとき、劉美の提案で桃園結義・・・義姉弟の契りを結んだのだという。
なにしろギープ王国では血の繋がりを何より貴ぶ。どうやっても血が繋がらないは義兄弟の契りを結んで友誼以上の誼を結ぶのだ。
だから劉美と関翅が弟分である張緋の死罪に抗議して蟄居しているのはギープ王国の国民として正しいことなのだ。
ちなみに桃園結義につていての解説も報告書にはあった。
桃の花が咲く時期に桃の花咲く果樹園で義兄弟の契りを結ぶ者が自分達の血を一滴混ぜた酒を
「我ら生まれた場所生まれた場所は違えど死すときは同じとき同じ場所であるのとを願わん」
と誓って飲み干すらしい。
もっとも最近では桃園が桜園だったり梨園だったり梅園だったりするそうだ。
桜はいいとして梨園で儀式とかは何か違う気がするのだが。
シャン
ジャンヌがもつ鉾鈴についている鈴の澄んだ音に併せるように関香が舞う。
演舞ではない恐らく剣技をベースにした剣舞の類だろう。
ジャンヌの額に玉のような汗が浮かぶ。
女神リブーラに囁きの祈りを - 厳かに詠唱し - 死者の魂の帰還を念じろ!
ジャンヌの身体から放たれた光がアークエンジェルとデーモンのところで増幅(意味があったんだ)してリブーラに届きリブーラから七色の光が溢れ張緋に降り注ぐ。
前回の蘇生実験とは明らかに違う何か。
張緋の身体がビクンと跳ねる。
「回復を」
デーモンが指摘するように張緋の繋ぎ合わされた首からジワリと血が零れでる。
「我が女神の慈悲を回復」
慌て回復を発動。見る間に張緋の繋ぎ合わされた首の隙間が塞がる。
「腹減った」
実際の付き合いは短いのだが実に張緋らしい復活に第一声だった。
白露城の評定の間。
おれ、アルテミス、リーブラ、菜緒虎を前にして張緋と関香は深々と頭を下げる。
「この度は感謝の言葉が絶えません」
張緋は吠えるような声で礼を言う。
首から下は普通の直立二足の虎、虎人間なのだが首から上は塩漬けされていたせいか毛の色素が抜けて白っぽい。
「しかし首を刎ねられて死んだのに生き返れるとは」
ぞりぞりと自分の首にある傷を触りながら張緋は笑う。
「張緋殿の驚異の生命力の賜物ですよ。これが病死だと不可能でした」
菜緒虎が笑いながら応える。
「それで、この俺に何をして貰いたいんだ?」
「察しが良くて助かります」
張緋の問いにアルテミスがカラカラと笑いながら布袋を三つ取り出す。
じゃらっ
一つの布袋の口を開けると中から金貨が零れ落ちる。
「資金、武器を提供するのでギープ王国国内で反政府を組織して欲しい。ニーダ半島を版図に加えた以上ギープ王国と衝突するのも時間の問題なので」
張緋の目が大きく広がる。
「事実です。オジさま」
関香が事実であることを明言すると張緋の顔が驚きから思案するものになる。
「このことを我が主は知っているのでしょうか?」
張緋の言葉におれは頭を振る。
がしっ
「必ずや我が義姉劉美を説き伏せて戻ります。それまで暫くの猶予を」
張緋は包拳礼を行う。
「張緋殿ならそう言うと思ったよ。あるものを預けよう」
おれがパンと手を鳴らすと赤のドラゴンメイドが鎧と青龍刀と髑髏の指輪を持って現れる。
「この指輪は試作品のひとつで黄昏の指輪。おれが召喚して預けた骸骨系モンスター十一体を指揮できるアイテムだ」
張緋は指輪を手に取り指にはめる。
死騎士×2。死の狙撃手×2。スケルトン魔法使い×1。スケルトン戦士×5。スケルトン軍馬×1。
張緋の頭に配下のモンスターの一覧が表示される。
貸与された部隊の強さは判らないが、同時に表示された自分の強さの数字に互するモンスターが死騎士死の狙撃手と四体もいる。
「期待している」
張緋は再び包拳礼をしてそのまま頭を深く深く頭を下げた。
ありがとうございます




