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閑話休題 その5 七夕の夏越大祓(なごしのおおはらえ)

前回あとがきで「七夕記念。星に願いを」と言ったがあれはウソだ…ごめんなさい

「ソウキ様これを」

そういっておれに3メートル近い竹を差し出したのは江戸時代の日本によく似たワ国その西部を統治する岳田家の家臣である香坂雅(こうさかみやび)だった。

身長は163センチ。腰にまで届く藍黒いポニーテールに猫っぽい紅い瞳の10代半ばの美少女。

以前会った時は赤備えの鎧に鉢金という戦国武将っぽい衣装だったが、いまは大きな紅い百合の柄が描かれた着物を着ている。

かなり高そうな着物だ…実はいいところの娘さんだったりするのだろうか?

しかしなんだ…大事なお届け物があるというので招待したのだが竹?そういえばそろそろあの季節か。

「香坂殿。竹ということはあれかな?十日後の七月七日にある五節句のタナボタ?」

「そうです棚の上から牡丹餅落下。いいですよね」

おれと香坂の間に気不味い空気が流れる。いや、いい娘だと思うよ?おれのボケきちんと返してるし。

「ソウキ様が五節句を知っているとは驚きです」

強引に流れを変えたな。

ちなみに五節句とは一月七日の人日・・・所謂七草粥食べる日だな。次に三月三日の上巳・・・一般的には雛祭り。

五月五日の端午の節句は子供の日。七月七日の七夕。素麺を食べといいとか、旧暦だから本当は八月なんだぜーとか言えば自慢できるかもしれない。

最後は日本人には物凄く認知度の低い九月九日の重陽の節句。別名菊の節句。中国だと敬老の日のようなものだ。

話が逸れまくったな…

「で、これを持ってきたということは?」

「はい。ソウキ様の居城であるこの白露城の天守閣には女神リーブラ様を奉る神社のようなものがあるとお聞きしました」

そう言って香坂は白露城…別名姫路城レプリカを見る。そう。本物の姫路城と同じようにこの城の天守閣には女神リーブラを奉る神社のようなものがあるのだ。

そういえば鞍馬香良や西ワ国から香坂の弟である香坂雅忠(こうさかまさただ)を通じてある程度の事情は流れているんだったな…

「部下の慰労も兼ねて七夕と夏越大祓(なごしのおおはらえ)を併せ祭り行ってはどうかと、我が君主の勝頼様からの提案です」

香坂の言う夏越大祓(なごしのおおはらえ)というのは正月から半年に憑いた厄を払い大晦日まで元気に暮らしましょうという祭りだ。

しかし、いいかもしれないな。

「感謝します。雅忠と子細打ち合わせ祭りを行いましょう。そして勝頼様ご一行を招待すること併せてお約束させて頂きます」

「ありがとうございます」

香坂は深々と頭を下げる。そう。お祭りの提案は勝頼がこの城に物見遊山で訪れるための手段なのだ。


香坂を送り返した後、おれは早速城の大広間にいたジャイアントを除く人型の部下達を城の大広間に集めた。

「この度七夕祭りというものを開催することが決定した。その祭りには我が支配域、友好関係のある地域の人々にも参加してもらう事にしている。ついては…」

一度間を置き、おれは横に置いてあった一枚の服を掲げる。

「これは夏の時期を快適に過ごすために生み出されたワ国の服…ワ服のひとつで浴衣という」

おおと大広間にどよめきの声が上る。

「七夕祭りのときには西ワ国の領主である岳田勝頼(たけだかつより)殿もこられる。歓迎の意思を表す意味でもここにいる全員が着用するように」

ええぇっと大広間に動揺の声があがる。え?そんなに困惑するような事か?

「マスター!言っちぁなんだが俺様には小さすぎる」

この度恩賞にて名前をゲットした二足歩行の狼…ワーウルフのイヌガミが元気に手をあげて叫ぶ。ああ、そういうことか。

「これは既製品だからな。合わなければ作らせればいい。そういうものだと理解してほしい」

再び大広間にどよめきが広がる。聴き方によっては下賜するぞと言っているのだから当然か。

「特に普段の戦闘で寄与してない人間は遠慮なくこき使うから覚悟するように」

だから遠慮はしないようにと釘をさしておく。

「次に城下から城に続く道に臨時で露店を設置する。何かを売るつもりなら申請するように」

自発的に仕事を見つければこき使われないぞと逃げ道も用意しておいた。


「ようこそ勝頼殿」

「この度は招待いただき感謝している」

おれの差し出したガイコツの手を目の前の青年はニッコリ笑って握り返す。

年のころなら20代半ば。鍛えられた175センチ近い身体を紺色の着物で包んでいるが、かなりピンピンに跳ねた黒髪に青い瞳が違和感を醸し出している。

この青年がワ国守護代で最近同盟を組んだ西ワ国の領主で岳田勝頼という。

「この度は感謝いたします」

短い白髪に灰色の瞳。顔に刻まれた皺がかなりの高齢であることが伺える内藤雅秀(ないとうまさひで)翁が頭を下げる。

同時に赤茶色の短髪に茶色のドングリ眼。左頬に縦に刀傷のある長身巨躯の30半ばの男、馬場雅信(ばばまさのぶ)が右手を胸にして小さくお辞儀。

内藤と同じ背丈の黒い短髪に黒い瞳の20代前半青年、山縣雅影(ないとうまさかげ)と使者としてここに来た香坂雅(こうさかみやび)もまた小さく頭を下げている。

全員が武装していたときと同じ真っ赤な浴衣を着ているのがすごい。

対してこちらはおれの左に真っ白な浴衣を着たスケルトン…種族はリッチであるアルテミス。

アルテミスの左後ろにはワーウルフのイヌガミが控えている。

右には長い金髪を頭のてっぺんでお団子状にまとめた若干のつり目の碧眼、笹穂状の耳のウッドエルフ(エルフの上位種)の侍大将である菜緒虎。

菜緒虎の左後ろには肌は日に焼けたようにやや濃い肌に短い銀髪。若干のつり目の紅眼に笹穂状の耳のハイエルフ(ウッドエルフの上位種)でイヌガミと共にリペッチオの名を拝領した美女が立っていた。

こちらも浴衣を着ているが岳田家臣軍とは違い柄は無地だったり朝顔だったり百合だったり向日葵だったり花火だったりと物凄くカラフルである。

まぁ浴衣の柄をデザインしたのは俺なんだけどね…

「ご案内します」

勝頼を隣に城へと続く道を歩く。

道のわきには焼きそばのようなモノやお好み焼きを木の棒に巻いたようなモノを売る露店。台所の小物や武器防具をゴザに並べたりするところもある。

机にグラスと2~3種類の酒瓶を置いてあり酒を一杯引っ掛けるような立ち飲み屋のようなものも。

また矢尻のない短弓による景品落としの射的や9か所の的を射抜くストライクアウトみたいなものもある。

お子様置いてけぼりなのは参拝しているのが大人だけだからだ。

「うっ」

暫く歩いていた勝頼一行が思わず驚きの声をあげる。

その先には海水を湛えた巨大な桶に浸かりイカ焼きを焼いている皇帝烏賊(エンペラースクウィッド)の姿があった。

うんシュールだよね…

皇帝烏賊(エンペラースクウィッド)が器用にイカゲソの刺さった竹串を勝頼たちに差し出す。

ソースの香ばしい匂い堪らない逸品に勝頼たちは美味い美味いと舌鼓を打つ。

なんとなく皇帝烏賊(エンペラースクウィッド)の顔がドヤっているような気がする。


「ほぉ。これは茅の輪ですな…色とりどりの短冊が括りつけてあるのはあれですか」

勝頼一行は笑いながら城の入り口に設置された大量の竹の枝で編まれた輪っかをくぐる。

茅の輪を構成する竹の枝には短冊が括りつけてあり短冊には色々な願い事が書いてあったのだ。

城に入り天守閣に上がった勝頼一行は祠の前で実際に鎮座している幼さが残る顔に蒼い大きな瞳にショートカットのピンクの髪のちびっ子女神リーブラに対し二礼二拍手一礼する。


「いやまさかご本神が祠の前に鎮座されているとは…」

勝頼は自分たち以降に一般人に対しての参拝が許可され次々と人々に拝まれている女神リーブラを見ながらキンキンに冷えたソーダ水を飲みながらつぶやく。

一応外国なので勝頼は酒を控えているのだ。

「今年は秋の収穫祭は無理なので次は年末の年越しですかな?」

「年越しは我が国でも重要な行事なので招待も参加もできないのが残念ですなぁ」

おれの誘いに勝頼は本当に楽しそうに笑い声をあげる。

「これからも長い友好関係が続くことを祈ってますぞ」

勝頼がソーダ水の入ったグラスを掲げたのでおれも一応置いてあったグラスを掲げてチンと打ち合わせる。

ドンドンドンひゃららドンひゃらら

どこからともなく鳴り響く笛太鼓。

全体としてまったりとした時間が流れていく…

この年から七夕の夏越大祓(なごしのおおはらえ)の行事として定着することになるのであった。

ありがとうございました

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