御前試合 その2
「では次鋒を前に」
ピンクのバニー服の鞍馬香良が声高らかに告げる。
「馬場雅信」
「御意」
「ドラゴンバトラー」
「お任せを」
大刀対三節棍である。
しゃん
馬場は腰に吊った大刀を抜きさると肩に担ぐ。あ、なんとなく解った…
「ふむ」
ドラゴンバトラーは髭をさすりながら暫し考え込むと三節棍を構える。
「はじめ!」
香良が叫ぶのと同時に馬場が走り出す。
「ちぇいぃぃぃぃぃすぅとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
あ、やっぱり示現流のようなもの。
勢い良くジャンプして馬場は担いだ刀を振り下ろす。
「ぬうっ」
三節棍を素早く3つにまとめドラゴンバトラーは振り下ろされる刀を受ける。
がぎん
鈍い金属音が響き渡る。
ぎりぎりと刀と三節棍のせめぎ合い。
ドラゴンバトラーの並外れた筋力と三節棍が金属だから受け止められてるんだろうな。
「しっしゃ」
鋭い呼吸音と同時にドラゴンバトラーは右足で馬場の腹を蹴る。
ドスという鈍い音と同時に二人の間に間合いがあく。
ひゅゅん
三節棍が空気を切り裂きまっすぐ馬場の胸に伸びる。
がきん
馬場は伸びてくる三節棍を刀で弾き、すぐさままっすぐ構え刺突を繰り出す。。
「しゃ」
気合とともにドラゴンバトラーは伸びてきた刀の切っ先の横を硬い鱗の生えている手の甲で叩いて弾く。
「やりますね」
「いえいえそれはこちらの台詞です」
再び馬場は刀を肩に担ぎドラゴンバトラーは三節棍を構える。
馬場は大きく息を吸い込むと走り出す。
「ちぇいぃぃぃぃぃすぅとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
再び馬場は奇声をあげながらジャンプして上段からの…って明らかにかなり前で振り下ろす。
「ちっ」
最初の軌道で三節棍をかざしたドラゴンバトラーは自分のミスに気付いて舌打ちする。
「はぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ」
馬場の刀が地面すれすれの状態から斜めに跳ねた。
どごっ
ドラゴンバトラーの横腹に刀の峰が食い込む。
ぐぼぅ
ドラゴンバトラーが口から大量の血と吐き出す。
「それまで!」
おれが叫ぶのと同時に女僧侶がシャンっと鉾鈴を鳴らす。
「我が女神の慈悲を回復」
するとドラゴンバトラーが間髪入れず立ち上がる。
おぅと勝頼陣営から感嘆の声が漏れる。
「勝者、馬場雅信」
香良が大声で宣言する。
「お見苦しい姿をお見せました」
ドラゴンバトラーは胸ポケットに差していたチーフで口の血を拭うと静に俺に向かって頭を下げる。
「構わんよ。生きてるだけでなんとやらだ」
勝頼たちに負けた部下をねぎらう寛大なおれという姿を見せておく。
「では副将を前に」
鞍馬香良が声高らかに告げる。
「死騎士」
「……」
「山縣雅影」
「御意」
ん?ちょっと待てよ…
「岳田殿。よろしいか?」
「なんでしょう?」
勝頼がこちらを振り向く。
「死騎士には一撃死しない限り体力が完全回復する特殊能力があるのだ」
そうリバース。すっかり忘れてた。ワーウルフやトロール系の超回復と違ってスケルトンのリバースは無傷か即死しかないので勝頼側に勝ちがないのだ。
「解りました。誰を代わりにしますか?」
さあ誰を代わりにするか…
「よし召喚」
硬革鎧に鉢金に籠手。腰には細剣の軽装備に身を包んだ短い銀髪に若干のつり目の紅眼、笹穂状の耳。日に焼けたようにやや濃い肌の女性ハイエルフを召喚する。
御前試合であり相手を殺してはいけないこと、勝てば名前を授けることなど簡単に説明する。
「で、相手は鎗使いだが大丈夫か?」
「いい勝負でいいんでしょ?大丈夫。でもいきなりなんだから負けても色付けてよね」
ハイエルフのお姉さんは軽くウィンクする。
まぁ負けても名前は付けよう…いい加減種族名だけというのもなんだし、他の人型も理由を付けて命名していこう。
「は~いヨロシク」
ハイエルフのお姉さんはレイピアを抜くと軽くレイピアに口付ける。
挑発してるな。
「俺は山縣雅影。貴女のお名前は?」
「ごめんね~まだ種族名しかないの」
「そうですかそれは失礼した」
山縣は小さく頭を下げる。
「でははじめ」
香良が叫ぶ。
「はっ」
山縣が槍を2連続で突き出すがハイエルフのお姉さんは見切って躱す。
そしてつぃと一歩踏み込みレイピアを突き出し山縣の腕に浅く傷をつける。
「へぇ」
山縣はぺろりと舌で上唇を舐める。
ぼそっと喋っていたから暗い性格なのかと思ったが意外にヤンチャっぽいな。
ぶん
山縣は槍を円を描くようにして突きを出す。
が、ハイエルフのお姉さんはそれも優雅に躱す。ん?ちょっと余裕を見せすぎじゃないか?
ハイエルフのお姉さんは再び踏み込んで山縣の右足を切り裂く。
そして返す動作で腕にも傷を付ける。
殺すなという事でヒットアンドウェイで確実に削っていく戦法か。
「うぉおりゃあ」
山縣は槍をぶんと振り回し下がろうとしたハイエルフのお姉さんの肩に強烈な一撃を叩き込む。
ハイエルフのお姉さんは踏ん張りきれず派手に吹っ飛ぶ。
「痛ったーい!」
肩を押さえながらハイエルフのお姉さんは小さく印を切る。
そういえば魔法の取り扱いを決めて無かったな…まぁ反則だといわれればその時は受け入れよう…
「駆け行け3本の雷の矢」
ハイエルフのお姉さんは右手の指を高く掲げ、それからまっすぐ山縣を指差す。
ピシッ
雷のように光線を枝分かれさせながら雷の矢が山縣に殺到する。
「甘い。ワ国の雷対策は万全だ。クワバラ!」
山縣が腕を前にして叫ぶと梅鉢家紋の模様をした障壁が現れ雷の矢が弾けて逸れる。
雷神道真公か?いても不思議じゃないけど。
「うぉおりゃあ}
山縣が腰だめに構えて槍を突き出しハイエルフのお姉さんがこれを寸前で躱す。
そして再び山縣の間合いに入る。
「何度もさせるかぁ」
山縣は突き出した姿勢のまま前のめりにハイエルフのお姉さんの頭をめがけて頭突きを敢行する。
ごす
頭と頭がぶつかる鈍い音が響く。
涙目になりながらハイエルフのお姉さんは倒れてくる山縣の胸にとんと手を添える。
「駆け行け雷嵐矢。ゼロ距離射撃」
「クワバラ」
バチッ、バチバチバチ
凄まじい音と共に十数本の雷の矢が山縣の胸で炸裂する。
じゅうと肉の焼ける嫌な音と匂いが漂う。
べリべリ
ハイエルフのお姉さんが山縣の鎧から手を放すと嫌な音をたててはがれる。よく見ると指先は炭化して崩れたのか長さが歪である。
「発想はイケてると思ったんだけど、どうかな?」
「なかなかどうしてイケてましたよ」
「そっか…」
山縣とハイエルフのお姉さんは顔を合わせて…二人同時に笑い始める。
「はい、負け負け。私はこれ以上は剣が持てない」
ハイエルフのお姉さんは焼けただれた手をぷらぷら振りながら負けを宣言する。
「いや引き分けかな?足腰立たないし、鎧の中は蒸し焼き状態だよ」
座り込んでいる山縣にハイエルフのお姉さんは無傷な方の手を差し出して引き起こす。
「肩いるか?」
「いえいえ心配ご無用です」
ハイエルフのお姉さん男前だな…
「この勝負引き分け」
香良が宣言する。
パチパチと両陣営どころか、城の方からも拍手が鳴り響く。
うん。いい試合だった。
ありがとうございました
ブックマークをされた方がまた一人…御礼申し上げます
さてそろそろ閑話休題のネタを考えなきゃ…




