ワ国上陸 その3
西ワ国最大の港町ハーカタから馬車で1時間ほど移動したところにある鞍馬邸のあるヘイワタイ。
その館の近くにあるのが西ワ国の守護代岳田氏の居城である舞蔓城。本丸を囲むように二の丸、その外に大きく三の丸、南丸が配され47の櫓や10の門を配した巨大な城である。
年のころは20代半ば。かなりピンピンに跳ねた髪の色は黒で瞳の色は青。着物を着ているのでおれ的にはかなり違和感がある男が座っている。
この部屋には他にピンクのバニーガール風の衣装を着た鞍馬香良がふるふる震えながら土下座している。う、なんか脇の横に何かはみ出てる・・・
「この度は我が家臣である鞍馬唐栖がソウキ殿に大変なご迷惑をかけました」
この城のいやこの国の西国の守護代である岳田家当主である岳田勝頼は両手の拳をついて頭を下げる。
「ご迷惑をかけました」
土下座したまま香良が謝罪の言葉を紡ぐ。
一国の支配者が外国の人間に頭を下げるというのは部下に見られたくないのだと理解するのと同時になぜ香良がバニーガールで土下座しているのかが解らない。
「蔵馬・・・いや香良。この件での貴女の謝罪は既に受けて了承している頭を上げてくれ。よろしいですな?守護代殿」
「もちろんです。鞍馬、面をあげよ」
勝頼に促され頭を上げる香良。同時にバルンと大きく揺れる双球。
うん。知ってた・・・
「ところで今日は菜緒虎殿は?」
勝頼はきょろきょろと辺りを見回す。
城門で一緒にいなかったのは報告で上がっているようだ。というかここにも菜緒虎のファンがいるのか。
「守護代殿も菜緒虎をご存じだったとは同行すれば良かったでしょうか?」
鞍馬邸で険悪になったのが露骨な菜緒虎のヘッドハンティングだって知ってるだろうに・・・だから余計に気になるのか?
香良は急速に冷え込む空気にあたふたしている。
「ワ国を建国した我がご先祖さまの物語。その序章である百田の鬼退治に登場する伝説の同田貫に強い興味があるのです」
目をキラキラさせながら勝頼は力説する。
150年前というと晩年の百田に子供のころに直接会ったという長老の話を子供のころに聞いたぐらいはありえる年数か。
「黒糸威二枚胴具足の話はご存知ですか?」
「聞いております!」
勝頼はぐっと拳を握り締める。
「ソウキ殿。私はね?祖先の百田朗より鞍馬喜治に強いシンパシーを感じているのです。それだけに今回の事件は残念でなりません」
な、なにが残念なのだろう・・・
「元は鞍馬家所有の武具であっても手を離れて150年。いまさら所有権を主張したところで通る訳ないし、ましてや暴力を背景に取り戻すなんて許せません」
・・・今回の事件でおれが要求したのは鞍馬香良の身柄確保と黒糸威二枚胴具足の所有権の確認だけだった。
唐栖がギープ王国との繋がりを匂わせていてそれは包み隠さず伝えるようにしていたのだが岳田家的にはそれは無い事にしたいらしい・・・
「で、岳田家として今回の事件はどう対応されるのでしょうか?」
一瞬にして三人の間をの沈黙が支配する。
勝頼は姿勢を正して今回の事件についての岳田家の考えを伝えてくる。
・鞍馬唐栖は独断で海外勢力と交渉するという越権行為を行い挙句その勢力との戦闘行為に及んだ咎で切腹。
・鞍馬家は閉門のうえ直系長子である加羅・・・香良の兄・・・は岳田家預かり。
・鞍馬家のは百田家領にある出生地のイーガ以外の領地を返上。
・鞍馬香良は鞍馬家の家督相続権を放棄した上でワ国国籍を剥奪。ただし国外追放の処置は取られない。
・大陸からもたらされた黒糸威二枚胴具足は鞍馬家に永久貸与されイーガにある鞍馬家の菩提寺にて安置される。
・ソウキ勢力と西ワ国の守護代である岳田家は軍事同盟を締結する。ただしこれはワ国との同盟ではない。
切腹とはずいぶん寛容だな・・・ギープ王国と敵対しているというのはブラフか?
あとの条件はこちらとしては上々だな。正式にワ国天王へと上奏し天王の裁可を得たあと正式な文書にして後日調印する運びとなった。
「そうそう。黒糸威二枚胴具足は我が勢力の職人が複製しております友好の証として勝頼殿に贈呈いたしましょう」
岳田殿ではなく勝頼殿と名前で呼んだことの意味を勝頼は瞬時に理解したらしく破顔した。
「いや、かたじけない。そうだ黒糸威二枚胴具足がイーガにある鞍馬家の菩提寺に安置されるところに立ち会いませんか?」
目をキラキラさせながら勝頼は提案してくる。かなりはっちゃけてるなこの殿さま・・・
「それと・・・ソウキ殿の軍勢が軍事力として信頼できるか・・・試させてもらってもよろしいか?」
・・・なるほど、鞍馬邸を半壊させた力が自分の目で見て知りたいのか
「菜緒虎以外の戦力も知りたいという事ですね・・・解りました。何人お出ししましょうか?」
おれの質問に勝頼は何度か空中で指をクルクル回しながら文字らしいものを書く。
なんというか一国の領主っぽくないな・・・と思って香良をみたら目が点になっていた。
なんというか香良の中にある信じていたモノがガラガラと音を立てて崩れていくのを客観的に見ているような感じがする。
勝頼がこの場が三人きりという事で素を見せているのか?
「菜緒虎殿を含め四人」
四人か・・・
「いいでしょう。少し広い場所をお借りしたい」
リクエストに応じることにする。
舞蔓城の本丸の前の少し開けた場所にいた。
「ではお願いします」
ニコニコしている勝頼の後ろにはいかにも力自慢といった風貌の男三人と女一人が立っている。たぶん四天王な人たちだ。
「召喚」
まず長い金髪を頭のてっぺんでお団子状にまとめた若干のつり目の碧眼、笹穂状の耳を持つウッドエルフの侍大将である菜緒虎を召喚する。
「お館さまただいま参上しました」
次にトカゲの顔に硬そうな顎鬚。頭には鹿のような角が生え額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな青くメタリックな鱗。背中には大きな羽が生えているドラゴンバトラーを召喚する。
「マスターお呼びでしょうか」
そして黒い全身鎧にドラゴンの白鱗で出来たロングシールドとランスを携えたガイコツの死騎士を召喚する。
ガシャン
死騎士がランスで地面を突くと地面から全身鎧を装着した骸骨馬が出現し死騎士はひらりと飛び乗る。
ちなみに骸骨馬という種族はないこれが骸骨狼だろうか骸骨猫だろうがスケルトンである。
「あの、お館さま・・・勝頼殿は某の報告を知っています・・・」
ピンクのバニー姿の香良が大きな声で進言する。そういえば香良には全軍の閲兵を見せていたな・・・
「では最後に」
わざと宣言するようにつぶやいて、全身が深く黒光りする金属色の鱗に覆われた・・・恐竜のティラノサウルス・レックスによく似た直立二足歩行の10メートル超の爬虫類。
ただティラノサウルスと違うのは頭の比率がさほど大きくない黒い蝙蝠のような羽根をもつ巨大トカゲ・・・メッスィングドラゴンが出現する。
「メッスィングドラゴンにございます」
「おおっ」
勝頼とその4人の重臣・・・続いて建物のあちらこちらからざわめきが聞こえてくる。
予想以上に観察してる人間がいるな・・・
「人というから人型だけかと勘違いしてましたよ。はっはっはー」
勝頼にわざとらしく語りかける。
「他に赤いのや白いドラゴン。鎧を着たジャイアントとかが居ますが如何いたしましょう?」
この一言に勝頼と四人の重臣の顔色が変わる。
「いえ、出来れば四人目も人間の方でお願いできますか?」
勝頼の要望に応え直立二足歩行の狼・・・狼人間を召喚する。
「がっはっはっ俺に任せろ」
ピカピカに光ったシャベルをブンブンと振り回しながらワーウルフは野太い犬歯をのぞかせて笑った。
岳田勝頼が主宰する御前試合の準備がこれで整ったことになる。
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