ワ国上陸 その1
ワ国。大陸東部を支配するギープ王国の海を挟んださらに東にある弓状列島を支配している国である。
気候は温暖で四季があり水は豊富。人間と獣人の比率はほぼ同じぐらいで山地には鴉系の鳥人間が多い。
政治形態は、まぁ簡単に言うと150年前に百田という人がワ国を統一したあとに国を百田・弐本・岳田の3つに分けて三竦み状態にして統治させているらしい。
おれたちが到着したのは鞍馬香良の父親が家老を務める岳田家が治める西ワ国最大の港町ハーカタである。
「検分にきましたワ国の出島奉行で監察官をやっております村中主水と申します」
日焼けした信楽焼きの狸こと豊後国文左衛門に連れられてひとりの背の高い眼鏡をかけた人間の青年が小さく頭を下げる。
ブンザエモンを通じて海賊の死体の引き取りを申し出たところ出向いてきくれたのだ。
「はじめましてソウキと申します・・・それにしても驚かれないのですか?」
おれ自身がガイコツという異形なのでリサーチも兼ねて聞いてみる。
「文左衛門さんより聞いてましたから大丈夫です。しかし街中を歩くのでしたら頭巾で顔を隠されることをお勧めします」
揺るぎない営業スマイルで主水は答える。
「そうですね。ご助言感謝します」
ちらりとブンザエモンを見ると右手でOKを出していたので頭巾調達は任せることにしよう。
「ふむふむ。間違いなく赤海海賊団の首領の赤海入道政康とその一味ですね」
死体を検分していた主水が手に持っていた和紙になにやら書き込むとおれとブンザエモンにその和紙を手渡す。
「それを役所に提出してください。賞金と引き換えられます。ソウキさんの書類はこの船の仮の入港許可証を兼ねているので間違いなく提出してください」
主水はキョロキョロと辺りを見回す。
「鞍馬さまです」
ブンザエモンがこっそり教える。
「ああ少々お待ちを」
思念で客室に控えている鞍馬香良と菜緒虎を呼ぶ。
「お呼びでしょうか?」
長いポニーテールの黒髪黒眼。背中に鴉の羽がついている修験道の山伏装束の鳥人間である香良の問いに答える代わりに主水の方に視線を送る。
「お帰りなさいませお嬢様」
香良の姿を見た主水が深々と頭を下げる。なるほど鞍馬家のお抱えの者か・・・
「ただいま帰りました。お父上は?」
「本宅にてお嬢様のお帰りをお待ちしております・・・」
不意に主水の表情が硬くなる。
「お久しぶりです。その節は大変お世話になりました村中殿」
長い金髪を頭のてっぺんでお団子状にまとめた若干のつり目の碧眼、笹穂状の耳のウッドエルフである菜緒虎が意味ありげに笑う。
兜は被っていないが本多忠勝の具足にバッチリ身を固めているので威圧感は半端がない。
「お久しぶりです菜緒虎さま」
主水は若干引きつりながら頭を下げる。彼は一体なにをやらかしたのだろうか・・・
「我々は鞍馬殿について行けばいいのかな?」
「はい。お願いします」
香良はニッコリ笑うと小さく頭を下げた。
初めて見るワ国の建物は土塀に白漆喰の瓦葺き・・・いわゆる土蔵造りとか蔵造りとか見世蔵といった建物が建ち並んでいた。
本拠地と定めた白露城が日本の姫路城に似ているのだから、ああやっぱりという感想しかなかった。
そして鞍馬邸は港から馬車で1時間ほど移動したところにあるヘイワタイという場所にあった。そうワ国には移動手段として馬車があるのだ。
ちなみに西ワ国の国主である岳田家の城はこのヘイワタイのすぐ近くにある。
鞍馬邸に到着したおれたちはまず控室に通される。
部屋は板間で椅子にテーブル。テーブルの上には和菓子とティーセット。壁に西洋風の絵まで掛けられていておよそ和室らしくない。
「部屋の装飾の毛色が違うな?」
「ワ国以外の方はとりあえずここに通されます」
香良は小さな声で説明する。
なるほどなるほど・・・館の主は外国に精通していることをアピールしている訳か。
「香良さまお館さまの準備が整いました」
「解りました。では参りましょうかソウキ様」
香良に連れられて部屋を移動する。
「鞍馬香良。ただいま戻りました」
香良が上座に座る男の前にある薄い座布団に胡坐を組んで座り、床に両手拳をつけてから深く頭を下げる。
男は年のころなら50代後半から60代の前半。
香良の言葉を信じるなら鞍馬家の当代当主である鞍馬唐栖のはずだ。
頭頂部はきれいに禿げ上がっているが、白髪の髪は肩まで伸びていて肩の後ろには香良と同じ鴉の羽がついている。
服装が修験道の山伏姿なのは香良と同じである。
おれは香良の後ろにある薄い座布団に座り菜緒虎はおれの横にある薄い座布団に座る。
うーん部屋の隅にいつものアレがあるんだが・・・
「報告書は読んだ」
唐栖がパンパンと手を打つと組み立てられた黒糸威二枚胴具足が部屋に持ち込まれ男の横に安置される。
「まずは先祖伝来のこの鎧をかの大陸から持ち帰ったこと褒めて遣わす」
唐栖の口調が横柄だな・・・
「そちらのガイコツがソウキ殿でウッドエルフが菜緒虎殿だったな」
明らかにこちらを下に見た口調で話しかけてくる。なので急遽、菜緒虎と思念のホットラインを繋ぐ。ただの思念では香良に漏れるからな・・・
「菜緒虎は歓待を受けたんだよな?」
「申し訳ありません・・・正直困惑しています」
即座に答えが返ってくる。
「すみませんソウキさま」
香良から思念が入る。ほう香良も知らない事なのか?とりあえず菜緒虎との思念のホットラインに香良も繋ぐ。
「気にするな・・・香良の父親が何かの理由で心変わりした可能性があるからな」
「ありがたき幸せ。決めました。この香良・・・伝来の鎧を手切れに生家を捨てます」
いきなりの宣言である。
「解った・・・なら気を付けろ。部屋の隅に召喚の魔法陣が出ている」
了と二人から思念が返ってくる。
そう。明らかにこの部屋の主は戦いの準備をしている。
「さて菜緒虎殿。以前よりお話していた我が家に仕官していただくようお願いしていた件ですが、考慮いただけましたでしょうか」
いきなりのベッドハンティング。うん明らかに煽ってます。
「鞍馬唐栖殿。用件が済んだのであれば我々はこの場を引き揚げたいのだが?」
「ん?ああソウキ殿。そうだなそなたは帰ってもらっては困る。地下で歓待を受けて貰わねば」
問答無用か・・・
唐栖がパンと手を鳴らすと部屋の四方や天井から大量の黒装束の人がバラバラと10人ほど現れる。
種族的特徴から鳥人間はもちろん犬人や猫人間。普通の人間も何人が混じっているな・・・
「父上これはどういうことです!」
香良が大声で叫ぶ。
「どうもこうも我が国とギープ王国との間に戦をそそのかす極悪人を捕縛するまでのこと当然ではないか」
唐栖は非常に悪い顔をする。
「ひとつ質問していいかな?これは守護代岳田家の総意なのかね?あなたの独断かね?」
「ん?そんなことを聞いてどうするんだね?まぁいい。岳田家の総意だよ」
「そうか・・・うん。なら滅ぼすことに遠慮はいらない訳だ・・・」
「ほざけ!」
唐栖はどんと右手で床を叩く。
ぱか
おれの足元の床が消える。なんという素晴らしいカラクリ。
落ちる寸前におれは足元にスライムを召喚する。
「なぜ・・・落ちない」
唐栖の悪い顔が非情に間抜けなものに変わる。
「正体が知りたいそうだ」
おれが意地悪く言うと足元のスライムがぶりゅぶりゅとおれを持ち上げながら姿を現す。
「おのれ!者どもかかれ」
唐栖の号令のもと黒装束の一団が背中にしよった短めの刀を抜いて殺到する。
のぷん
スライムがおれを体内に飲み込む。
10人の刀のすべてはスライムに飲み込まれるようにして止まった。
「本陣召喚」
おれの召喚に雄鶏に蛇の尾を持つコカトリス。
肌の色は濃い藍色。背中には蝙蝠の羽。赤目に瞳の色は虹色。肩まで伸びた銀髪にピンと尖った耳。頭に子ヤギのような小さな角をもつ少女デーモン。
ピンクの短髪。顔は鼻がかなり低くてちょっと上向きなのと艶のある下唇から覗く太い犬歯。鍛えられたダイナマイトボディの豚人間。
そして緑色を基調にした胸鎧とスカートっぽい腰鎧。棘のついた丸い右肩鎧に長方形の盾を付けた左肩鎧を身に着けた見た目ザ〇のジャイアント悪韋があらわれる。
どがががが
ジャイアントは体長3メートルを超える人型の巨人。大抵の人間家屋にはオーバースケールである。
出現した悪韋は天井につっかえ派手に屋敷を破壊する。
「マスター・・・狭いです」
「ええいゴミを散らすな」
「危ない」
動くたびに建物を破壊する悪韋に非難が集中する。
「スライムよ残骸を吸収しろ。好きに戦え・・・いけ」
了と思念が返る。
「があぁ」
悪韋は吊っていたバルディッシュを構えてフルスイング。派手な音を立てて屋敷が派手に崩れていく。
崩れたガラクタはスライムが受け止め体内に取り込み消化する。
くけぇ
コカトリスが近くにいた黒装束に突っ込む。
ええい考えなしか。
「駆け行け火の三矢」
コカトリスが突っ込む黒装束に魔法の矢で攻撃する。
ががが
魔法の矢の直撃を腹に受け黒装束の身体がくの字に曲がる。
けっー
突き出された顔面にコカトリスの蹴爪が炸裂する。
するとコカトリスに掻き毟られた黒装束の顔の傷がどす黒く変色する。毒効果が付与されたらしい。
「がぁ」
黒装束は喉を両手で押さえながら転げ回り動かなくなる。
<<コカトリスのレベルが上がり進化の条件を満たしました>>
<<進化しますか?>>
Yを選ぶ。
濃い紫色の煙が立ち昇りコカトリスを包み込む。
しゅるるるるるる
空気が抜けるような間抜けな音が響き渡る。
「ひぃ」
黒装束の一人が息をのむ声が聞こえる。
紫の煙はやがて中から現れたモノの口の中へと吸い込まれていく。
それは8本足の巨大なトカゲ。前身であるコカトリスの雄鶏の持っていた特徴で残っているのは唯一頭の上に真っ赤な鶏冠。
<<コカトリスがバジリスクに進化しました>>
きっ
バジリスクの視線が近くにいる黒装束3人を捉えて光る。
きん
金属を叩くようなカン高い音が響き渡り黒装束の黒色が灰色に変色していく。
数分も経たずに3人の黒装束は3体の石像に変化していた。
「はいっ」
オークが戦斧を振り下ろすと黒装束は両手で斧を挟み取る。
白刃取りか!
「ふん」
黒装束は斧を両手で挟んだまま捻りオークの体勢を崩す。
潜り込むように黒装束の身が沈み突き上げるよう上段蹴りがオークの胸に向かって放たれる。
胴鎧越しにオークの豊満な乳がつぶれるのが見える。ああ痛そう・・・
「痛インダヨ!」
オークは持っていた戦斧を手放し自分を蹴った黒装束の頭を掴む。
そして大きく仰け反り頭突き!頭突き!!頭突き!!!ヘッドバット三連発。
前のめりに崩れる黒装束の頭を両手で掴みオークは右の膝を黒装束の顔面に叩き込む。
ごしゃ
黒装束の顔面がありえない大きさに縮まる。
「せいや」
オークは黒装束を持ち上げ、近くにいた黒装束に投げつける。
どごっ
仲間を投げつけられた黒装束はバランスを崩してスライムに突っ込む。
ずりゅ
スライムが蠢き黒装束の下半身が飲み込まれる。
「ぎゃあ」
短い悲鳴と同時に黒装束のスライムに飲み込まれていた下半身が皮膚、筋肉、骨と分解されて消滅した。
ふむ敵は半分になったな・・・スライムに命じて外に出る。
さて・・・何が出るかなっと召喚の魔法陣に乗って新規召喚を選ぶ。
<<ツチノコ>> ゴースト ワーバード
とりあえず香良に内緒で召喚した鳥人間を召喚する。栗色の髪に黒い瞳、羽の色はダークブラウン。猫のような鋭い目つきの少女だ。
次にツチノコ。いわゆる瓶を飲み込んだようなシルエットの蛇。レベルは高いようだ戦力になるのかこれ?
そしてゴースト。黒い靄にしか見えないが頭の所に三角巾があるのが滑稽である。
新規モンスター
名前 バジリスク
種族 コカトリス
分類 動物
性別 雄 雌
性格 イビル-カオス
STR:12 INT:4 DEX:15 VIT:13 AGI:20 LUK :1
体力16/16魔力5/5
能力:毒爪(相手に毒を与え時間毎にダメージを与える)
毒・石化の無効化
魔法:なし
特殊能力:石化の視線(視線に納めた相手を中確率で石化させる)
装備:なし
備考:体長は80センチ前後に達する頭に雄鶏の鶏冠をもつ8本足のトカゲ。
その視線で草ですら石化させることができるためバジリスクか住み着いたら周りが砂漠化するためすぐに解るという。
外見は似ていないがコカトリスと近種であり交配することも可能である。
鏡により視線を無効化することが可能だが足の爪にある毒にも注意。
コカトリスをレベル20まで育てることで進化することが確認できた。
※性格・能力値はレベル1のときの平均でありレベルによって変動します。
名前 ツチノコ
種族 スネーク
分類 動物
性別 雄 雌
性格 ニュートラル-ニュートラル
STR:3 INT:3 DEX:18 VIT:3 AGI:20 LUK :1
体力5/5魔力1/1
能力:毒霧(相手に毒を与え時間毎にダメージを与える)
毒の無効化
魔法:なし
特殊能力:なし
装備:なし
備考:容姿は瓶を飲み込んだ蛇。だがその見かけによらず高速での移動やジャンプが可能。
油断した相手に急速に接近し顔めがけて毒霧を吐きかけることによって相手を失明させるので回復する手段がないとかなり厄介である。
※性格・能力値はレベル1のときの平均でありレベルによって変動します。
名前 ゴースト
種族 ゴースト
分類 アンデット
性別 不明
性格 ニュートラル-ニュートラル
STR:3 INT:3 DEX:18 VIT:1 AGI:20 LUK :1
体力3/3魔力1/1
能力:透過(固体をすり抜ける)
飛行(地形効果の無効化)
精神系のダメージ大
物理攻撃の攻撃の無効果
魔法:恐慌(相手の一定期間の行動の無効化)
特殊能力:なし
装備:なし
備考:生物を動かす魂魄の魂が不慮の死かどでその死を受け入れられないと地上に留まりゴーストになるという。
死霊系魔術師はガイコツにゴーストを憑依させてスケルトンを死体にゴーストを憑依させてゾンビを生み出すことができる。
※性格・能力値はレベル1のときの平均でありレベルによって変動します。
ありがとうございました
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