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第二次ジャン港沖海戦 終結と後始末

棘球を満載した蒲鉾船2隻を拿捕したので白露城には物理的に船で凱旋した。

「な、なんだこれは」

目隠しを取られたマッチョな虎人間(ワータイガー)の張緋は目の前に広がる光景に愕然とした声を上げる。

「伝説にある鬼ヶ島・・・ですか」

真っ黒な狐人間(ワーフォックス)のススキツネも感嘆の声を上げる。ああ、やっぱりそうなんだ。

「現状で敵対しているあなた達に場所は明かせないので、しばらくは軟禁という形になる」

パンパンと手を叩くとショートカットの赤髪にひらひらのカチューシャを装着した糸目の瞳。

額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな紅い鱗を持つメイド服姿のドラゴンメイドの女性が姿を現す。

「リザードマンの上位生物だ・・・と?」

張緋が苦々しい声でつぶやく。そういえばギープ王国は亜人間が権力の中枢に多くいるんだったな。

脳筋っぽいし捕虜の期間中に色々情報を引き出すことにしよう。

「なにかあったか?」

「露天温泉なるものの建設認可が提出されている以外は特に・・・」

出撃前に源泉が見つかって露天風呂建設の指示は出した・・・が既に図面が上ってるのか。

ふと菜緒虎を見る。あ、視線逸らした。菜緒虎のプレッシャー付きか…なにがあったんだ?

「まあいいか。さて、我が軍にはおれの魔力と女神リブーラの加護により兵站の概念が存在しない。つまりあなた達に配給する余分な食料がないのだ」

まぁ捕虜とか人質みたいな立場の人間が数人いるがそういうのは明かす必要はないだろう。

「どういうことでしょう」

ススキツネが交渉はお任せをと言わんばかりの態度で一歩前に出る。

「闘剣士として日銭を稼いでもらう」

「捕虜の労働というと肉体労働を連想しますが?」

ススキツネが納得いかないといった顔をするので黙ってある方向に視線を投げる。

その視線の先を見て張緋もススキツネも目を点にし口をポンカンと開ける。

視線の先には巨大な丸太を引いて整地作業をするメッスィングドラゴン・ホワイトドラゴン・レッドドラゴンに大きな杭を打ち込むジャイアントの姿があった。

かれらのお蔭で力作業の大半は予定以上に進捗している。

また細かい作業はソロモンで鉱山掘削に従事している犬人(ワードック)やドワーフを雇用し上下水路の設置に従事。

城の維持管理はソロモンから来た3人と5人のドラゴンメイド達で回している。

「捕虜の強制労働といえばこの手の定番だがあのように労働力が足りているし、なにより」

「どういう事でしょうか?」

「あなた達以外は金を稼ぐために雇われている。監視付きで反抗精神バリバリの人間を入れても害悪にしかならない」

張緋が気まずいとでも言いたげに顔をしかめる。

「それに、現状敵であるあなた達に本拠地の整地の様子を見学させるわけにはいかないだろ」

三人の間でワザとらしい乾いた笑いが零れる。

「で、出稼ぎに来ている人間のための宿泊施設が急ピッチで進められているが、同時に娯楽のための施設も作っている」

「ああ、それで剣闘士か…」

張緋が満更でもなさそうな顔と野太い牙を見せて笑う。

「剣闘といっても実際には配下の連中と模擬戦をしてもらうだけだ。受ける気はあるか?」

「当然受ける。そうしないと腹ペコなんだろ?」

「では」

おれがパチンと指を鳴らすと赤い髪のドラゴンメイドは張緋とススキツネの拘束を解く。

「いまここで腕前を見せてもらう」

「了解だ」

張緋は目の前の木刀に手を取るとブンと振った。

うん。こういう脳筋は嫌いじゃない・・・

「召喚」

おれの実戦部隊に所属する人型の部下をすべて召喚する。

かなり壮観な光景ではある。

「ふんふん」

上半身裸になった張緋がブンブンと木刀を振り回す。

多分重心とか計っているのだろう。

隣にはススキツネが周囲を油断なく警戒して立っている。

「さて・・・模擬戦。早い者勝ち!」

呼びかける。

「是が非でも」

「ご主人様。是非にも」

ほぼ同時に声をあげたのはオークとドラゴンバトラーだった。

「うむ。任せる」

「ありがたき幸せ」

二人は深く頭を下げる。

「ではまずオーク」

つぃっとオークが前に出る。

お、なんか豚人間じゃなくなってる・・・腰は召喚したころより絞れているし腕や足はそこそこ太いがこれは脂肪と筋肉のミックスだろう。

顔は鼻がかなり低くてちょっと上向きなのと下唇から太い犬歯が覘いているところを除けば豚というより人間ぽい。

「ずいぶん鍛え直したな」

「ありかとうございます」

オークは右拳を左掌で包み親指を合わせ前に出す。いわゆる包拳礼。

「武器はどうする?」

「では棍棒と盾で・・・それと相手にも武器の選択の自由を」

オークは深々と頭を下げる。なんかオークのイメージが大きく変わるな・・・結構武人しているじゃないか。

「うちのオークさんはこう言ってるけど?」

ススキツネと張緋が顔を合わせる。

そして小さく頷く。

「ではトンファーがあれはお借りしたい。先鋒はわたしススキツネが務めます」

ずいっとススキツネが前に出る。

赤い髪のドラゴンメイドがすっとトンファーを差し出す。

「うわっち」

ススキツネが1メートルほど高くジャンプする。うはっビックリして飛び上がる人とか初めて見た・・・

しかし赤い髪のドラゴンメイドの忍びっぷりが半端じゃない。

テレテレしながらススキツネはトンファーを受け取ると一通りの型を披露する。

「うーん型が綺麗すぎるが・・・油断するなよ」

「はっ」

オークは盾を構え棍棒を頭の上に翳す。

ススキツネはトンファーを構える。

空手の攻撃的な構えに近いな…伸びる腕みたいな使い方をするのだろうか?

ぶん

オークが上段から棍棒を振り下ろす。

ぶるん。おお豪快に揺れた。

がし

ススキツネは器用にトンファーで受け流す。

しゃん

ススキツネの正拳が繰り出され遅れてトンファーが回転するように飛び出すトリッキーな攻撃。

しかしこれはオークの盾に阻まれる。

がしっがしっ

オークのたて続けの上段振り下ろし。しかしススキツネはこれを右に半歩下がって躱す。

「うおぉ」

ススキツネの半歩下がった状態から左のフック。当然のように伸びてくるトンファー。

以外に厄介だな。

間合いを見切れずオークはトンファーの一撃を横腹に喰らう。

トンファーの先に刃がついていたら致命的とは言わながかなりの一撃である。

「うぉー」

オークが盾で自分の横腹を打ったトンファーを叩き落す。ナイス根性。

それ以上の追撃を避けるようにバック転をしながら間合いを取るススキツネ。

「うぉお」

間合いを取ってすぐススキツネが突っ込んでくる。

左手のトンファーは無いぞ?

「トンファーあぁぁぁぁぁぁ」

オークはススキツネの雄たけびと伸びてくる右手のトンファーを棍棒で・・・

どげしっ

次の瞬間。伸びてきたのはススキツネのトンファー・・・ではなく左の前蹴り。

なんというフェイント。

もっともトンファーで変則リーチによる虚実を混ぜた攻撃を最初からやっていたから効果は薄いんだけどね。

「きぃぃぃぃぃぃぃぃっっっうく」

そして蹴りだした後に技名を叫ぶ。いい根性だ。

派手に吹っ飛ぶオーク。まぁ蹴りを喰らった瞬間に勢いを削ぐべく蹴られた方向に跳んでいるからたぶん致命傷にはなってないだろう。

あ、ススキツネがオークから視線切って張緋のほうをみた・・・

見透かしたようにむくっとオークが起き上がるとあっという間に間合いを詰める。

雄たけびを上げていないのはいいな。

「おい何ボケッとしている」

張緋が叫ぶ。

「え?」

ススキツネのこの隙は致命的だった。

どかっ

オークのタックルがススキツネの胸にモロにヒットする。が、辛うじてトンファーをオークとの間に僅かに差し込むことにも成功する。

オークもススキツネもぶつかったところを起点にキレイに左右に倒れる。

「引き分け・・・かな」

はにゃはにゃと目を回しているオークとススキツネがドラゴンメイドたちによって運び出される。

「さてと」

張緋がのっそりと木刀を持って立ち上がる。

「では」

鹿のような角に艶やかで硬そうな顎鬚。額や喉といった急所や肩から手の甲にかけては硬そうな青くメタリックな鱗。背中には大きな蝙蝠のような羽。

ピシッとした英国執事のような濃紺の燕尾服に身を包んだドラゴンバトラーが白木の棍を片手にしておれの前で優雅に腰を折る。

「そのお体にその木刀では小さくはありませんか?」

張緋と対峙したドラゴンバトラーが頸をコキコキ鳴らしながら軽く棍を振る。

「そうだなこれならさっきのブタが持っていた棍棒の方がマシかもしれないな」

がははと笑う張緋にすうぅと目を細めて冷笑を浮かべるドラゴンバトラー。

目に見えて周りの空気が凍っていく。

「そらよ」

張緋が木刀を片手に持ったまま大きく振り下ろす。

がぎん

木同士がぶつかったとは思えないような重く硬い音が響く。

「おお、まさかまさか」

張緋の口の端が吊り上がる。

「それはこちらのセリフですよ」

ドラゴンバトラーは棍で張緋の木刀を弾き返す。

そこからは棍と木刀の激しいぶつかり合いだった。

がんがんごん

(くしけず)る・・・まさにそう表現するの相応しい武器の木片が飛び散る激しい打ち合い。

「うりゃあぁぁぁぁ」

張緋、渾身の一撃!

がドラゴンバトラーは初めて木刀を受けずに流した。

たまらずバランスを崩す張緋。

「せい」

ドラゴンバトラーは木刀をいなした反対側から鋭い回し蹴りを放つ。

「うわったったった」

更に大きくバランスを崩す張緋。

「はぁっ」

ドラゴンバトラーの振り下ろした棍が張緋の木刀を強かに打ち据える。

ばきん

「ぐはっ」

木刀が真っ二つに折れて張緋の手首がありえない方向に曲がる。

「はいや」

ドラゴンバトラーの棍が張緋の首の後ろを軽く叩く。

「まいった」

張緋は素直に両手を上げた。

「面白かった。稽古としての模擬戦の相手としても充分だろ?」

「御意」

隣にいた菜緒虎が即答する。

「張緋殿とススキツネ殿を乾小天守(いぬいこてんしゅ)の最上階へご案内しろ。あとで治療出来る者を送りますので」

「かたじけない」

張緋はその場て深く深く土下座でもするように頭を下げた。

ありがとうございました

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