敵地侵入(鉱山都市ソロモン攻防戦 その3)
鉱山都市ソロモンそれが眼前に広がる城塞都市の名だ。
険しい山腹をくり抜くようにして土台を作り前面には堅牢な城壁を配置。
武器庫を兼ねている物見櫓が3つある。
門から麓まで九十九折りに登山道が設置されており、九十九折の踊り場にはそれぞれ櫓が設置されている。
また鉱山の廃坑を天然の冷蔵庫として2年分の食料と水を備蓄している難攻不落の街。
ここの政治体制は鉱山、武器、防具、2つの商人の5つのギルドの代表による議会制で総代は2年の持ち回り。
ムーゲの情報が正しければいまは鉱山ギルドの代表が総代だ。
人口は千人弱で大半はドワーフやワードックの鉱夫。つぎに鉱物を加工したり武器や防具を作る職人。そして商人。
産出されるのは鉄鉱石と石炭。つまりこの都市は自前で良質の鉄を生産しその鉄でできた製品を輸出することが出来るのだ。
よく今まで中立を保っていられたな・・・
「では手筈通りに、合図とともにジャイアント二人のによる投石で櫓の攻撃。だが無理に当てる必要はないぞ?」
この都市はほぼ無傷で手に入れたい。下手に防御力を下げてマッサチン国あたりから武力をチラつかされるような事態になることはなるべく避けたいのだ。
まず第一軍の死騎士とホブゴブリンを第五軍に移動。第五軍のアルテミスを本陣に、本陣のジャイアントを第一軍、柴犬人を第五軍に移動する。
作戦は簡単だ。第一軍のジャイアントの投石で混乱させている間に吸血バットを城塞都市に侵入させてチェンジでおれが乗り込む。
あとは簡易召喚で第二~第五軍を展開して力押し・・・
昼のうちにおれが単身あの街に入って召喚した方が早くて確実じゃないか?という意見があったが、それは却下した。
三つの櫓と城塞の大門。どんな防御装置があるかわかったもんじゃない。というか姿を見破られたら異形であるおれは即アウトだ。
「さて・・・」
夕暮れから夜の帳が落ち、周辺が暗くなったのを確認して吸血バットを三匹召喚する。そしてそのうちの二匹をソロモンに向かって飛ばす。
ちなみに再編を済ませた第二から第五軍は既に収納済である。
「敵警戒シテナイ」
ソロモンの城壁に到達した吸血バットから思念が入る。
近くで異なる勢力同士の戦闘があったことは情報で入っているはずだが、この無警戒ぶりはなんだろう・・・
昼間の視界の広い岩鳥が飛ばせないのは痛いな。
「細心の注意を払って炭鉱へ向かえ」
了と思念が返ってくる。
城壁、街、鉱山入り口・・・うーんここまで順調なのは怖いぐらいだ。
まぁここまで侵入できれば当初に立てたジャイアントたちの投石の混乱に乗じて街に潜入するというプランは破棄していいな。
「クワトロ。指示があるまで現状で待機」
「はっ了解しました」
クワトロから念が入る。
「なぁ聞いたか?」
「なんですかわん?」
炭鉱入り口に到達した吸血バットが鉱夫の声を拾う。
語尾からして片方は犬人だな。
「モンスターを主力とした武装集団がこのあたりに出没しているらしいぞ」
あ、おれたちの話をしてる。
「怖いですわん」
近くにいるんだけどな。
「まぁこの街はあの城壁がある限り無敵だ」
「うんうん」
んー危機感薄いな・・・
「おうどうしたお前ら」
「親方。いえね、例の武装集団の話でさぁ」
「ああ、あれかギルド評議会の方でもいまから臨時の対策会議が行われるぞ」
何気にいい感じの情報ゲット。危機管理ゆるゆるだ・・・
「まぁ難しい事はお偉いさんに任せて酒だ」
バンバンと何かを叩く音がする。たぶん親方なる人が背中を叩いているのだろう・・・
音が遠ざかるのを根気よく待つ。
「よし・・・チェンジ」
まずは偵察に出た吸血バットと手元にいた吸血バットを入れ替える。
うん・・・成功。
「チェンジ」
今度はおれと偵察に出た吸血バットを入れ替える。
ぱっと風景が一転し、目の前が鉱山前のそれになる。どうやら成功。
そそくさと物陰に移動。そして辺りを見る。
おおこれがソロモンの中か・・・
まず目立つのは街の中へと続く道路の真ん中に引かれた二本の溝。たぶんここを鉱物を積んだ荷車かトロッコが走っているんだろう。
道路と建物は石。多分ここを切り開く際に大量に出た石の一部をさのままリサイクルしている。
そして点々と間隔を持って並べられる街頭。光りが揺らめいてないところを見ると蝋燭やガスじゃなく魔法か何かなんだろうな。
そしてそれはとりもなおさずこの街が裕福だということだ。
とりあえずギルド評議会とやらに乗り込んでみようか・・・
ローブを目深に被り直し、街の真ん中にある一番立派な建物を目指して歩を進める。
到着した建物にはギルド会館と書かれた看板が掛かっていた。安直すぎるだろ・・・
ドアに手をかけて静かに開ける。
「すみません。今日は評議会があり、ギルド業務は先程終了しました。業務は明日の六時から行っております。また明日のお越しください」
入口の対面に設えられたカウンターに座っていたワーキャットのお姉さんが立ち上がって申し訳なさそうに頭を下げて柱を指さす。
柱には魔法の時計が掛けてあり6時を指している。
おお、この世界では時計が実装されていますか!と感心するが、よくよく考えたら原理そのものは2千年とか3千年前にはあったんだっけ・・・
「あの、お客様?」
ワーキャットのお姉さんはそういいかけておれが普通の人間でないことに気付く。
「きゃー」
ワーキャットのお姉さんの絹を切り裂く大きな悲鳴。
どうしたどうしたと、たちまちのうちに多くの人間が現れる。当然のようにそれぞれがそれなりの武装している。
「話し合いに来た・・・と言えば上に話を通してもらえるのかね?」
そういった強面たちの視線をその風のごとく流し、フードを上げる。
ガイコツ姿のおれの異形を見た瞬間。辺りは水を打ったように静かになった。
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