マッサチン国の戦い 終結
戦いはあっけなく終わった。
何を言っているのか解らないと思うが、おれも、何が起きたのかは最初は解らなかった。
おれの支配下を離れたモンスターたちは、おれに支配されたことを恨んで、おれ達の方に向かって・・・は来なかった。
それどころか一目散におれの元から離れて行ったのだ。
まあ、レベル差が段違いなのだから、モンスターが本能に従うのなら、この逃走は当然といえば当然なのだ。
で、逃げ出す先に障害物があればモンスターたちは全力で排除した。ヒットエンドウェイだったが・・・
そして、そんなモンスターたちをアリグナク軍は迎え入れようとした・・・ように見えた。
敵の敵は味方とか、そんなことを思ったのだろうか?
馬に跨って先頭を走っていた立派な鎧の騎士が、某蒼き衣を纏った少女のようにゴールドドラゴンに跳ね飛ばされて宙を舞った。
「馬鹿かな?」
「馬鹿ですね・・・」
おれの言葉を肯定するアルテミス。
立派な鎧の騎士が跳ね飛ばされて宙を舞ってから、明らかにアリグナク軍の動きが鈍くなったからだ。
一時的だろうが指揮官を失い、統制の取れていない軍ほど脆いものはない。
扇状に、包み込むように部隊を展開させ、敵を各個撃破していく。
一方、マッサチン軍もまたクワトロと菜緒虎たちに襲い掛かっていた。
こちらも櫛の歯のように抜けた第7軍は既に回収し、第四軍のリペッチオ隊に入れ替えている。
「攻撃開始!」
リペッチオ隊からの射撃が始まる。
普通の矢に加えて魔法の矢も混ぜて攻撃するので対応できない兵士から次々と討ち取られていく。
ある程度、距離が詰まればドラゴンによるブレス攻撃。
これらの攻撃を果敢に潜り抜けて来た兵士をクワトロとバーン、菜緒虎とドラゴンスチュワードのセバスがサクサクと排除していく。
マッサチン組で唯一裏切らなかった騎士フターリンの奮戦ぶりが目立っていた。
ほどなくマッサチン軍は一人を残して壊滅した。
「初めましてかな。いや、狐人のほうは会ったことがあるか」
荒縄で縛り上げられた赤毛赤眼の青年騎士と金髪碧眼の立派な鎧の壮年騎士。
そして白金の狐人がおれの前に突き出される。
ノール・アリグナクにデキン・リム・マッサチン。そして蝶瑜紅琴。関係者一同が御対面というやつか。
「ここでノール・アリグナクの首を刎ねれば終わりかな?アルテミスいや女神リブーラさま」
と、アルテミスに声を掛けるとアルテミスは盛大に噴いた。当たりか・・・
「ほう、いつ気付いた?」
デキン・リム・マッサチンが興味深そうに尋ねる。
うーむ。所属からして月神アリグナクさまかな。
「この場に蝶瑜紅琴がいてその可能性に気付きました」
おれは肩を竦めて答える。
おれがこの世界に呼ばれたのは、3人の神さま候補による後継者争い。
(すでに女神とか月神とか鍛冶神とか呼ばれているが、これはあくまでも信仰している人がそう呼んでいる程度のモノ)
チュートリアル中にアイテムを使ってスケルトン賢者に特殊進化したのがアルテミス。
そのときシステムのあれこれを教えてくれ、以降いろいろなアドバイスをしてくれた参謀だ。
アルテミスの知識はアイテムのお陰だと思っていた。
しかし、アリグナク軍が、誰も知り得ないこちらの弱点をピンポイントで突く形で策を仕掛けてきた時点でシステムをよく知るナニかの介入を疑った。
システムをよく知るナニか・・・どう考えても神さま候補の誰か。
で、ノール・アリグナクの陣内にいたのが、おれが討ち取った鍛冶神の蚩尤の使徒で、魏府王国の高級官僚である朱葛琴子瑜の愛弟子である蝶瑜。
「犯人はお前だ!」である。
で、彼が朱葛琴のプレイしていたゲームのシステムアドバイザーということにも気付いた。
そこから、システムアドバイザーが神さま候補の分身体であることも。
蚩尤、この世界から1年間は隔離されて手が出せないハズなんだがなぁ・・・
「蚩尤が、この世界から1年間は隔離されて手が出せないハズとか思ってそうだな」
デキン・リム・マッサチンが、おれの心を読んだかのように指摘する。
「蝶瑜は、お前の世界で例えるなら、ネットから情報を自動収集するためのプログラム・・・botだ」
デキンの話を聞くに、どうやら、この世界から接続が切れた蚩尤が1年後に復帰したときすぐに動けるよう蝶瑜にあれこれ指示を出していたらしい。
で、そのとき、情報の対価としておれたちの弱点をノール側にリークしたと・・・
「それ、負けたことに対する露骨な意趣返しで、明確なルール違反だよね?」
じろりとデキンを睨んだが、デキンは視線を逸らし口笛まで吹き始めた。
まあ、明確なルール違反をしたのは蚩尤で、グレーだが明確な証拠のないアリグナクをこれ以上攻めるのは意味がないか・・・
「そういえば、負けた神はこの世界での地獄の悪魔王になるんだっけ?」
「そう、なるかな?で、それがなに?」
以前リブーラさまが言っていた、今後の世界というおれの唐突な話題転換に、アルテミスことリブーラさまが訝しげに応える。
「うちには既に悪魔神ルシファとか悪魔皇アスタルテとか悪魔王より偉そうな称号のモンスターがいるけど?」
「ああ、ゼンショします」
最後の最後に緊迫した空気が粉砕されるのであった。
長さはともかく事後処理話とエピローグのあと2話でしょうか
ありがとうございました。