えっと・・・詰んでない?
第6軍まで召喚したおれはチラリとアルテミスを見た後、ゴールドドラゴン、クップファードラゴンだけの第7軍を新たに編成する。
「菜緒虎隊、クワトロ隊はマッサチン軍に対する牽制のため先行しろ。第7軍は予備戦力だ」
「手筈通りに」
「はっ」
事前に打ち合わせしておいたことを確認するかのようにアルテミスが声を掛け、菜緒虎とクワトロが承知していると返事を返す。
そして菜緒虎とクワトロはマッサチン軍のいる北西に向かって軍を進めた。
-サイド ノール-
「ソウキ軍のモンスター軍団30数匹展開したのを確認しました」
自軍の斥候からの報告を聞いた真っ白な全身鎧を着た赤毛赤眼の青年はパンと膝を打つ。
「いよいよですねノール・アリグナク1世陛下」
赤毛赤眼の青年ノール・アリグナク1世の横に立っていた白金の狐人を囁くように口を開く。
この白金の狐人、名前を蝶瑜紅琴という。
かつて魏府王国の中枢にいた朱葛琴子瑜の愛弟子だった男。
朱葛琴が討たれて敗走した際に魏府王国には戻らず、マッサチン国に逃げ込んでいたのだ。
「私がもたらした情報が正しく、ノール陛下が勝利した暁には」
「解っている。では始めようか」
ノールは側に控えていた兵士に合図を送る。
彼がこの世界に来た時に手掛けた異世界改革は、農業と商業と軍事の近代化だ。
このうち農業と商業は早々に成果をあげ、領内の発展は著しいものがあった。
しかし軍事に近代化、もっと厳密にいえば銃の導入が上手くいかなかった。
銃が恐ろしいのは破壊力ではない。短期間の訓練で数による攻撃手段が手に入ることだ。
圧倒できるだけの数が用意できなければ意味がない。
銃や弾薬を大量に生産できるだけの設備が作れなかった。
もっとも、大量の銃があったとして、ソウキ軍に対抗できたか?というとそれは無理だったろう。
圧倒的な物理防御力と広範囲に攻撃する手段をもつ金属の名を冠する上位ドラゴンが複数相手では、蚊に刺された程度の効果もない。
なにより、促成栽培の兵士ではモンスターの放つ威圧に精神が耐えられず容易に戦線を崩壊させてしまうのだ。
「埋伏の毒作戦発動だ」
ノールが叫ぶのと同時に、空に向かって光の球が打ち上がり、甲高い音が鳴り響く。
火薬の開発でモノになった数少ない成果物のひとつ。
念話が使えない多くの人間に合図ができるようになったのと、人間大の集団相手に撃ち込めばそこそこの戦果が得られる兵器。
ただこの兵器も製造に金がかかり過ぎて数が揃えられていない。
また、魔法使いを数人雇ったほうが安定した戦力になるし汎用性も高いのだ。
「まあ、今回の戦いで勝てばいいのだよ」
誰に聞かせることなくノールは呟いた。
「合図だ」
チャーシルとルーヅベルトが首に付けていた金の鎖を引き千切る。
パンという小気味よい破裂音が響く。
「返り忠いたす」
チャーシルとルーヅベルトは腰に佩いていたロングソードを引き抜くと前にいたクワトロに斬りかかった。
-サイド ソウキ-
<<イース領の領主チャーシルが裏切りました。イース領が独立します>>
<<メリカ領の領主ルーヅベルトが裏切りました。メリカ領が独立します>>
謎の声が俺とアルテミスが予想していたこと以上の最悪の事態を告げる。
<<イース領が独立したため領土が寸断されました。>>
<<魔力の供給が止まります。モンスターを支配するのに必要な魔力が保有魔力をオーバーした>>
支配に必要な魔力が保有魔力をオーバーする。
チュートリアルで聞いてオーバーしないように留意するも、大きな拠点を支配する毎に膨大な量の魔力が入って来たので気にしなくなったルール。
この土壇場にきて・・・
<<保有魔力がモンスターの支配に必要な魔力を上回るまで、配下のモンスターが離反します>>
えっと・・・これ詰んでない?
ありがとうございます