マッサチンとの開戦
「出陣」
城塞都市ア・バオア・クーから悪韋に率いられたジャイアント9体、死騎士27体、死の狙撃手12体が出陣する。
悪韋たちはこのまま北のマッサチン国を目指すということを城塞都市の内と外で派手に喧伝している。
ジャイアント9体は、見た目ザクのような全身鎧を装備し、腰には手斧とスリングショットを装着。
スリングショット用の石の入ったリュックサックを背負っている。
「さあ急げ急げ」
悪韋は数キロ先をマッサチン国に向かって走る騎影を偵察用の氷鳥3体で追いながら笑う。
「出陣」
一際大きい骸骨馬に跨った虎人の張緋が大音声で叫ぶ。
死騎士27体。死の狙撃手9体。スケルトン魔法使い3体。スケルトン戦士6体。
偵察用の火鳥3体。
地上組は全員が骸骨馬に騎乗していることが特徴である骸骨隊。
前魏府王国王都の青都と呼ばれる都市から西へと出撃する。
(ちなみにウランバドルこと北許は青都に遷都する前の魏府王国の王都である。)
「では行くか」
おれは歩いて子隷州城を出る。おれの移動は雷鳥との位置をチェンジすることでショートカットができるからな。
子隷州とマッサチン国との国境境に到着する。
どうやら一番乗りのようだ。
アルテミスと菜緒虎、クワトロを召喚し、ハンゾウからノール・ニサン・ゴーン・ドラド3世についての情報を改めて聞く。
ノール・ニサン・ゴーン・ドラド3世。
322年前にマッサチン国を建国したアーカイ・マッサチン1世の次男アーオイ・マッサチンが興したマッサチン東部辺境伯の10代目。
15年前に魏府王国との戦争で戦死したソコト・ヨタ・ボクシー2世の後を若干6歳で東部辺境伯を継いだ若き当主。
農政を改革して生産力を向上させ、商業ギルドの権限を大きく削いでの楽市楽座。
絶対人間主義のマッサチン国において獣人・亜人の差別撤廃。
兵農分離で常備軍を整え、政教分離で政治力を強化。
異世界転生モノの鉄板のような展開。
改めて思う。君主制国家の若き辺境伯VS巨大中央集権体制国家のトップ官僚VS辺境の傭兵団のボスによる国盗り合戦。
無理ゲー過ぎる設定だ。
おれが零落していたのは、女神さまが先に召喚した先輩がヘマをした結果なんだろうけど・・・
他の二人が、軍を動かすのに色々と制限があった(と予測できる)のは幸いだった。
『悪韋です。国境に部隊の展開、完了しました』
『張緋です。こちらも完了。いつでも行けます』
今回の侵攻軍を務めるふたりから念が入る。
「うむ。では」
隣接エリアへと侵入する。
ガキン
唐突に、頭の上から鈍い衝撃音が響いてくる。
目の前には、巨大な戦槌を振り下ろさんとする白い鎧を着た大男。
巨大な戦槌は右にいた菜緒虎と左にいたクワトロによって受け止められていた。
「痴れ者が」
ハンゾウが持っていた杖をすっと持ち上げて、ゆっくりと降ろす。
どす
白い鎧を着た大男の両手が戦槌ともども地面に落ちる。
「これが、マッサチン国の答えか。よろしい。ならば戦争だ」
念で進撃開始を告げる。
同時に雨のような矢が降り注いでくる。なぜか音が大きい。
「タイタン召喚。空塊創成を発動させろ」
矢が到達するよりも早く盾になりそうなモンスターを呼び出す。
大型シャムシールにグフのようなデザインの蒼い鎧に身を包んだ体長7メートルを超える人型の巨人が姿を現す。
「空塊創成」
タイタンが咆哮を上げるのと同時におれたちの前の空間が歪む。
空塊創成は巨大な空気の塊を創り出すタイタンのスキルだ。
ガツガツ
弓矢らしくない音をたてながら、矢が見えない壁に当たって落ちる。
「見た目はまんま破魔矢だな。しかし相手も馬鹿ではないという事か」
紅白に塗り分けられ、鏃が茄子型の重りという縁起物っぽい、しかし対スケルトン用と考えれば実用的なデザインの矢が落ちてくる。
助かった。危うく骸骨龍とかガシャドクロのほうを召喚するところだったよ。
『敵は聖攻撃の準備を完了させている』
悪韋と張緋に念を飛ばす。
特に張緋は彼以外がアンデットだからな。
『岩石創成がある問題ない』
『索敵を厳とします』
悪韋と張緋からの返事が返る。
「アルテミス。敵の編成を」
「ざっと弓兵30槍兵30騎兵60全て人間」
なるほど。件の辺境伯軍ではないということか。
ありがとうございます。