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05 稼働機とアプリ

扉を開けると玄関だった。すでに誰も住人がいないために使われなくなった家具やゴミがそのままとなっている。廊下には敷物があったのだろうがボロボロになっている。

ドワーフの文化では、家屋に入るときは靴を脱ぐ習慣がある。その為に、玄関には靴置きがあるのだが、そこを調べて数個の靴の残骸を発見する。

想定通りここは個人住宅のようだ。

ガラハドたちと靴を脱がずにそのまま上がる。


ドワーフの住居や施設には、同一の間取りというものがない。一定のエリアを好きに掘り進んで家屋とするためだ。穴掘り職人のドワーフの腕の見せどころでもある。

まあ、よほどの変人でなければ奇をてらった構造にはしないが、間取りに関しては予測もつかない。

施設が大きくなれば、その規模は加速度で気に膨れ上がる。もっとも、個人住宅では広さが決まっている。

廊下を進むと、分かれ道だ。まっすぐ進めば半開きの扉が見える。右側には壁一枚を挟んで広間のようだ。こちらには扉はない。

ガラハドが盾を構えつつ部屋の方に足を踏み入れる。後に続こうと部屋を覗き込んだとたん。視界の端、部屋の奥にうずたかく積もった何かがくるりと動いた。


「シンニュウシャ。シンニュウシャ」

「?」

「まずい、下がれ!!」


トレジャーハンターとして曲がりなりにも残骸を見ていたオレは、それが旧時代の自動機械『稼働機』だと認識したが、忠告は遅かった。

ガラハドはオレの声に反応したがワンテンポ行動が遅れる。

稼働機の折りたたまれた両腕が開き、腕の先端の丸い穴の開いた銃口がこちらを向く。


ポポン!


気の抜けたような軽快な音ともに、両腕から放たれる二発の光弾が、ガラハドに向かって発射される。発射時の光がコチラの目を一瞬くらませる。オレはすでに壁の向こう側に身を潜ませていたが、ガラハドは身がすくんだのか避ける事はできなかった。

ただ、大盾を前に構えていたせいで、二発とも大盾にぶつかる。


バゴバゴン!!


軽快な発射音からは想像できないような大きな音ともに、大盾の粘土が派手に飛び散り、ガラハドが吹き飛ばされる。


「ガラハド!!」

「こっちに来るな!!オレは無事だ」


ドリスが悲鳴を上げるが、ガラハドは即座に起き上がると、廊下の陰に隠れる。


稼働機と呼ばれる防犯用の自動機械。防犯と銘打ってはいるが、家族を何よりも大事にするドワーフが、一家を脅かす者は殺してもかまわないと言わんばかりに、こんな殺傷兵器を普通に装備している。

こんなのが、一家に一台レベルで配備されているわけだ。昔の治安が激しく意味不明だが、そんなことを言っていられる場合じゃない。

とっさに飛びのいたオレと違い、吹き飛ばされて慌てて移動したガラハドは、広間に入る入口の反対側の陰に逃げてしまった。オレたちのいる玄関側ではなく家の奥側だ。

扉もない場所だ。顔を出そうものなら、あの凶悪な光弾が飛んでくるだろう。

砕けた為に、ガラハドの盾はもうボロボロだ。もう一度受けて、ガラハドが無事でいられる可能性は低い。


「シンニュウシャ。シンニュウシャ」

ガション。ガション。


金属的な音ともに、こっちに向かってくる足音がする。さっき見た部屋の大きさからしてここまで10mとないだろう。オレ達だけなら玄関から外に逃げられるが、向こう側のガラハドは・・・


「でも!?」

「ちょっとまってろ!」


まあ、逃げるつもりはサラサラないんだけどな。

ドリスの悲痛な叫びを抑えて、ポケットからマテリアルを取り出し、表面をなぞる。

マテリアルに搭載されているアプリが表示される。


「三つ数える。それで突っ込むぞ。いち!」


そういって見ると、覚悟を決めた目でガラハドが武器を握っている。


「にぃ!」


カウントと共に、マテリアルのアプリの起動ボタンを押す。かすかな駆動音をマテリアルが上げる。


「…さん!」


と、飛び出しながらカウントする。ワンテンポ早いオレの突入にガラハドが驚いた表情を向ける。

もちろん間違えたわけではない。命を懸けた大博打だ。オレが最初に危険に乗らなければ誰もついてこない。


目の前には銃口をこちらに向けたままの稼働機がいる。

人型の稼働機でポーンタイプと呼ばれるものだ。胴体から二本の足がついて、両腕が砲塔。軽快には動けないが、安定した射撃能力があるオーソドックスな防衛タイプだ。

飛び込んだが、稼働機までの距離は5歩か6歩。稼働機の光弾がおれを吹っ飛ばす方が圧倒的に早いだろう。

だが、稼働機はピクリとも動かなかった。


もちろん、理由はオレのマテリアルによるものだ。

もし、オレのマテリアルの表示画面が見られるなら、こう読み取れるだろう。


『黒髭ベアーズの宅配サービスです。○○様宅に荷物を届けに参りました。承認の為に…』


オレが手に入れたマテリアルには旧時代の宅配サービスの宅配員用アプリが入っている。正確にはそのアプリ入っていたマテリアルを遺跡から入手したのだ。

この家に入る前にマテリアルに確認させたのは、配達先の住所と一致するかどうかだ。防犯用の稼働機に『この家に配達に来た宅配サービス員』だと誤認させる為に。

もちろん、一か八かの賭けだ。事前に確認なんてできるわけがない。だが、稼働機は攻撃をやめた。

オレはこちらに向けたままの砲塔の下に体を滑り込ませると、全身をかけて稼働機を引き倒す。

二足歩行の稼働機だ。安定性はそこまでよくない。もちろん稼働機だって起き上がる能力くらいはある。だが、そのためには砲塔になっている両腕を使う。


「ガラハド。頭を狙え」


ボディープレスで稼働機の体を抑えこむ。だが、オレ一人の力では、完全に抑えきれない。ゴリゴリと暴れつつ起き上がろうとする稼働機。

少し遅れてガラハドとドリスが到着する。


「ドリス。足だ。足を抑えろ!!」


暴れる稼働機を二人がかりで抑え込む。

同時に、ガラハドが両手で握った戦槌を稼働機の頭に振り下ろす。だが、暴れる稼働機の小さな頭になかなか当たらない。

ドリスが稼働機の足に取り付き動きを制限させたおかげで、少し余裕ができた。片手でスコップを引き抜き、稼動機の胸部の隙間に振り下ろす。何度か振り下ろして、隙間を作るとスコップの先端を差し込んでグリグリと隙間を広げる。稼動機が暴れるせいで先端がすべる。

クソッ。おとなしくしろ。


ガコン!!


ガラハドの振り下ろした一撃が稼働機の頭に当たる。頭部が大きくへこみ、稼働機の体が一度大きく跳ね上がった。

振動するようにガクガクと動くが、抵抗する力は明らかに弱っている。

その隙に、ようやく空いた隙間にスコップを強引にねじ込む。

ブチブチと何かが切れる感触とともに、稼働機は動きを止めた。


「はぁはぁ…」

「ふぅふぅ…」


3人の荒い呼吸音だけが続く。しばらく様子を見たが、稼働機が動くような気配はない。

オレは、差し込んだスコップをひねり、テコの原理を利用して力を込めると、蓋のような胴体の一部が外れる。

同時に中の様々な配線などが零れ落ちる。オレがスコップで強引に切り飛ばしたせいで、そのいくつかはちぎれている。

内部に手を突っ込むと、邪魔なケーブルを引き抜きつつ、目的のものを見つける。

基盤のような台座に固定された直系30㎝ほどのマテリアルだ。

固定している部分を外してマテリアルだけを引き抜く。

オレの持っている小型より1ランク上の中型マテリアルだ。当然、性能も格段に高い。大きさが大きさなのでかさばるのだが、それくらいしかデメリットがない。

表面には、稼働機を動かしていたであろうアプリが表示されているが、複数のアプリを連動させている事はわかるが、内容に関しては複雑すぎて解析できない。

そのまま、稼働機の頭に取り掛かる。ガラハドの一撃でひしゃげた外装を取り外し、同じようにケーブルと台座に固定されたマテリアルを見つける。こっちは直径10㎝ほど。オレの持つのと同じ小型のマテリアルだ。

これも台座から外す。これで、暴発も暴走の心配もなくなった。

マテリアルはエネルギー源にして制御装置だ。稼働機の原動力であり中枢でもある。

同時に、マテリアルさえなければ稼働機もただの鉄の塊だ。


「は~…」


ようやく一息つける。大きく息を吐いて座り込む。


とりあえず、初戦闘に勝利…っと。




「ガラハド。怪我は?」


いまだにへたり込む仲間に声をかける。


「そうよ。大丈夫なの」


オレの言葉にドリスがガラハドに駆け寄る。

ガラハドは笑顔で攻撃が当たったらしい左腕を見せる。多少赤くなってはいるが、ケガらしいケガはない。盾を粉砕しただけで済んだようだ。


「問題ない。ピンピンしているぜ」

「よかった。心配したのよ」

「大丈夫いさドリス。君を残して死んだりはしない」

「ああ、ガラハド!」

「うるせぇ。お前らマテリアルぶつけるぞ!」


突然いちゃつきだす二人に怒鳴り返す。

リア充爆発しろ。いや、ロリとオヤジだから、通報されろ。

無事を確認して、起き上がる。ここでのんびりとはしてられない。素早く解体して金目のものを漁ろう。


「じゃあ。ドリス。奥を頼む。ガラハドはドリスの護衛だ。この規模の家に、もう一機稼働機がいるとは思えないが、用心してくれ」


オレの言葉に、二人とも真剣な表情でうなずく。


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