26 バックヤード
遺跡に入ると、まるでカザル=ボーダーのメイン通りのような開けた空間に出た。二階層構造で、中央の通りが吹き抜けになっており上の階が見える。二階への階段が所々にあり、前世でいうショッピングモールのようだ。
通りの両脇には何件もの店が並び、広く取った販売スペースには様々な商品が並べられている。
とはいえ、長い年月でその多くが劣化し、実用に耐えられそうもないガラクタだ。それでも、その中には価値のありそうなものが見て取れる。同時に、どの店にも防犯用の稼働機やタレットといったものが、それらしく配置されており、簡単に手に入れる事はできないだろう。
ジーグに先導されてしばらく歩くと、吹き抜けの上を、上半分を切り取った直径3mほどの半球体がゆっくりと移動してくる。オレ達三人がギョッとするが、半球体は速度を変えることなく、そのまま浮き上がって吹き抜けの陰に消えていく。
「アレが、ここのルークタイプだ。ここにはアレと同型が複数機いる。見ての通り今のところは安全だ」
ジーグがオレの肩を軽くたたきながら笑う。
了解するようにうなずくが、あれが複数体襲い掛かってきたら、オレ達では逃げる事すらできないだろう。
区画の奥へと移動してしばらくすると、ジーグが一軒の店を指さす。
稼働機の店らしく店内には稼働機やそのパーツが並んでいる。
「とりあえず、店の中に入るまでは大丈夫だ。そこからが仕事だぞ」
そういうと、そのまま店へと入っていく。
オレ達もその後に続いた。
「イラッシャイマセ」
カウンターに人型の稼働機がいる。気軽に近づいたジーグがなれた様子で、その腰あたりに手をやると、わずかな抵抗もなく稼働機が動かなくなる。
ジーグの話では、前回のうちに、装甲の一部を外しておいたのだそうだ。
こういった場所の稼働機は、壊れた個所を自動で修復する施設があり、多少の故障は修理用の稼働機がすぐ直してしまうらしい。
いまだに、稼働する稼働機の多くは、そういった機能が生きているからこそ強力な能力を保持しているのだそうだ。
ただ、同時に故障にすらならない小さな破損は見逃される。その小細工の加減をするのが熟練の技なのだそうだ。
自慢げにジーグがそう言っていた。
「セージはハガロスと。ガラハドとドリスはオレと行動する。セージはハガロスの指示に、二人はオレの指示に従ってくれ」
ジーグはそういうと、売り場の奥にある扉を無造作にあけて中に飛び込む。ガラハドとドリスがそれに続き、オレ、最後にハガロスがバックヤードへ。
表通りの華やかさとは裏腹に、バックヤードは思ったよりもきれいだった。掃除用の稼働機が動いているのだろうか。
全力で走りだすオレ達だが、ドワーフという種族の特性である短い脚により、お世辞にも速いとは言えない、だが、当人たちは必死である。
2個目の角を曲がり、階段を下りて3個目のT字路に入ったところで、先頭を行くジーグが声を上げる。
「ハガロス。つぶせ!!」
そして、そのまま角を曲がる。そちらを見たガラハドとドリスが武器を構えようとするが、ジーグの怒鳴り声が響く。
「ガラハド、ドリス。そいつは後ろにまかせてついてこい!」
躊躇いつつ走り出す二人に送れて、曲がり角からみると、一機の稼働機がコッチに向かってきている。オレが魔砲を構える前に、ハガロスが間に入った。
「まだ撃つな。こいつは、こっちでつぶす」
そういうと、大きな盾を前に置いて構える。腰を落とし、肩を立てに当て、空いている手で盾を支えるように全力で盾で支える構えだ。
ポン!
軽快な発射音とともに、通路が明るくなる。
ハガロスの盾に入った細いスリットからも光が漏れるが、それはオレの目を焼くほどではない。
ギチッ!!
金属のきしむ音とこすれる音。
それだけだ。
ハガロスは光弾を抑えると、即座に前に出る。そのまま、横なぎに盾をふるうと、ガツンという音と共に稼働機が壁まで吹っ飛んで床に倒れる。
そして、床に倒れたところを盾のヘリを全力で撃ち落とす。
メキメキという音とともに、装甲を突き破って盾が稼働機の胸部をぶち抜く。それで終了だ。後は蹴り飛ばすと、いくつかの部品をまき散らして稼働機は転がる。
…あの、先輩。腰に下げた武器は使わないんですか?
「行くぞ」
魔砲を構えた状態でフリーズしているオレを押すように走り出す。
その後、別の道から襲い掛かってきた稼働機を、同じ要領でハガロスが難なく倒す先に、ジーグがいた。
両手で斧を振り固そうなドアの間に叩き込んでいる。その横には、ジーグ達が壊したであろうタレットの残遺が転がっている。
「よし。ハガロスとセージはここで敵の足を止めだ。ハガロス。要領はわかってるな」
「いつも通りだろ。セージがいる分、楽になるさ」
「ガラハドとドリスはオレを手伝え」
扉のカギを壊すと、そう指示をして二人を連れて扉の向こうに入る。
ハガロスはこれからが本番といわんばかりに肩を回しながらオレの前に立つ。
「よしバケツ頭。3人がバリケードを用意するまでここで敵を引きつけるぞ。光弾はオレが止める。向こうが次の弾を打つ前に、お前が撃て」
「そんなに耐えられるのか!?」
確かに、分厚いハガロスの盾は稼働機の光弾に耐えられるだろう。だが、それにだって限界がある。人を一人吹っ飛ばす威力だ。そう何度も耐えられるものではない。
すでに受けた数発で、盾には目に見えたダメージがある。
「大丈夫だ。備えはしている」
そういうと、盾の裏側に備え付けられた小型のマテリアルの表面をなぞる。アプリが起動し、文字が浮かび上がる。
【病人につき、緊急移動中】
「稼働機の攻撃力を削ぐアプリさ」
そう言って自慢げに笑う。
…ずいぶんとアグレッシブな病人がいるもんなんですね。




