19 油断大敵
「よっこいせっと…」
稼働機によって破壊されたバリケードを引き倒す。
その向うにはひっくり返って動かない稼働機が二体。二体まとめて葬る為に、あえてバリケードを築いたかいがあるというものだ。
とりあえず、解体してマテリアルだけ外そう。
スコップ片手に稼働機に近づて、一体目のボディの継ぎ目に差し込む。魔砲のエネルギーで倒したわけだが、熱を持っているせいか、中の回線が溶けたような匂いがする。
まあ、下手な部分を触らなければ火傷はしないか。
手早くマテリアルを…
ガシャン!
音がしてみると、階段に稼働機がいる。上から飛び降りたのか片膝をついている。
違う。それだけじゃない。すでに腰を落として安定した状態で、左腕の砲塔をこちらに向けている。
ヤバイ!
避けられるか?
ポシュン!
砲塔が光を放つ。その瞬間、避ける事は無理だと悟る。光に目がくらみ、ドワーフの目が機能を失う。場所は広くもない通路だ。
この状況で、唯一できたのは両手を組んで守ることくらいだ。
ホワイトアウトした視界の中で、衝撃がオレを襲う。
「グハッ」
衝撃に吹き飛ばされる。地面に当たる激痛と、ゴロゴロと転がって上下感覚を失い、混乱する三半規管。
どこかで、ガランガランと軽い金属の転がる音は、頭にかぶっていたバケツヘルメットが脱げて転がったからか。
「クソッ。もう一体いるぞ!」
目を開けるが光の影響か、それとも吹っ飛ばされた影響か、視界はかなりにじんでいる。それでも、部屋の状況は少しはわかる。
通路から部屋の陰に移動しようと這いずる。稼働機の光弾は連射できない。次弾を打つまでのタイムラグがある。それがどれくらいかはアプリによってまちまちだが、その間に影に逃げ込まないと、この状況で次はまずい。
「世話やかすんじゃないよ」
途中で、襟首をつかまれて引っ張り込まれる。声からしてリースか。
倒れたバリケードの隅に引っ張り込まれてから自分の状態を確認。
にじんでよく見えないが左腕が真っ赤だ。直撃を受けたからか。右腕の感覚はある。だが、スコップがない。
ガションガション
稼働機の稼働音。
バリケードの陰からのぞくと、ガラハドとドリスが迎え撃つようだ。盾を構えたガラハドと、その後ろにドリス。
ガション
「うおおおお!!」
稼働機が部屋に入ってくると同時に、ガラハドが雄たけびとともに突き進む。
ポシュン!
ボゴッベキ!
再び稼働機の光弾が部屋を照らし、オレの目を焼く。同時に、粘土の盾の破壊音。
ガコン!ギン!
「おおおお!!」
「たあああ!!」
視界を焼かれたオレの耳に、二人の気合の入った声と、金属を叩きつける音がする。
すぐに目を開けてみると、状況は一転していた。
稼働機の正面には、砕けた盾を捨てたガラハド。そして、稼働機の後ろに移動したドリスが、腰や足などを攻撃しているようだ。
盾を犠牲にして光弾を受けて、次弾装填までの時間に接近したのだろう。
「よく研究している」
「?」
リースの言葉に疑問の目を向ける。
「あんな稼働機と戦った事があるのか?」
「最初の時に一回」
ただ、あれは射撃タイプで両腕が砲塔だったタイプだ。
「正面は囮。メインは後ろからか。新兵教練の通りじゃないか。結構結構」
楽しそうに笑みを浮かべるリースに、再び戦いに目を向ける。目が慣れてきたので、さらに状況がわかる。
ガラハドは戦槌で、自分に向うとしている砲塔を攻撃。稼働機の鉄棒は、右腕の小手で殴りつけたり、腕自体をつかんで抑え込んでいるだけだ。時たま、鉄のブーツで相手の膝や腰を蹴り飛ばして体勢を崩している。
そして、後ろに回ったドリスが、両手で握った斧で、体勢の崩れた稼働機の足や腰を攻撃している。
ガラハドの攻撃はたいして効いていないが、それは意図しての事だ。だから囮か。主となるドリスの攻撃で、稼働機がバランスを崩して倒れる。
「ッらあーーー!!」
ガラハドはそれでも油断なく、稼働機の左腕を踏みつけると、両手で握った戦槌を深々と稼働機の胸に叩き込んだ。
耳障りな金属音とともに稼働機の動きが止まった。
「セージ、大丈夫?」
稼働機を葬ってた後、ドリスが駆け寄ってくる。ガラハドは、さっきと同じことがないように、通路の向こうを警戒している。
「ああ、まあ生きてはいるよ」
資格が戻って実際に怪我の具合を見ると、左腕はそこまでひどい状況ではなかった。
まあ、ひどいといえばひどいが、致命的ではない。血が出ているが、傷が長いだけで深くはない。あとは軽いやけどと衝撃の影響だな。
ドリスが水で血を洗い流しながら、手当てをする。
「左手の状況は?ちょっと押すよ。痛い所を言って」
「指を動かすくらいはできる。ツッ。今のところが痛い」
「ひびが入ってるかも、固定するわ」
そう言って包帯を巻いた腕に、粘土を水で濡らしてベチョリ。添え木の代わりだ。乾燥すれば、ドワーフ式の簡単ギブスが出来上がり。雑菌?ドワーフの頑強さを甘く見てもらっては困るな。
「逃げ場のない通路での解体は失敗だったな。スコップ取ってくれ。解体だけはしないと」
「大丈夫?」
「右手は使える。時間がかかるから、それだけさ」
暴走暴発の危険は避けたい。【鉄屑拾い】の時に、動かないと思って、持って帰ろうとしたところで暴走した話を何回も聞いている。
転がっていたスコップを拾って、まずはガラハドたちが倒した稼働機を解体。
その後、ロープで結んで、安全な入り口前まで引きずって二体の稼働機も解体。
「う~ん…」
「どうした?」
さすがに片手で手間取ったが、それだけではない。ガラハドたちが倒した稼働機はまだいい。執拗に攻撃した砲塔部分はボコボコだが、他の部分で十分価値はあるだろう。
問題は、オレが倒した二体の方だ。
魔砲によって中身がぐちゃぐちゃだ。エネルギーによる攻撃によって、回線や基盤が完全に焼き切れている。
マテリアルはその程度では壊れはしないほど頑丈だが、それ以外の部分は正真正銘の鉄屑だ。使えるのは装甲くらいか?
「思った以上にボロボロだ。まあ、マテリアルだけでも十分価値はあるけどな」
マテリアルだけで小型が3個と中型が3個。これに、稼働機の部品でガラハドとドリスを【銀階級】に昇格させる事ができるだろう。
まあ、現金が折半なので、金目のものを漁らないとまずい。
前は、重量制限があったが、今回は丸ごともって帰れる。
「このスクラップを外の騎士団のとこまで運ぼう。持って行ってもらう位はしてくれるだろ」
オレの言葉に、リースが肩をすくめる。十人以上で行動する騎士団の物資は結構な量になる。食料に水に治療用品。武具の簡易修繕資材に、野営道具。
ちなみに、坑道を移動する為、馬車やリヤカーのようなものはない。一輪車。現代でいうネコが主流だ。もし必要なら、さらに解体してバラケさせて、分散させればいいか。
なにせ、騎士団十数人がいるんだからな。




