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09 悪役令嬢と十二時の鐘(時限爆弾)

ドロドロです、そしてシャーリーが悪役やってます。

 シャーリー・フットは健気な少女だった、身に覚えのない逆境の中を微かな希望を胸にひたむきな努力を続ける努力家だった。しかし彼女が悪役令嬢なのは間違えない。ゲームのシナリオ上そうなってけど、実は・・・なんてオチはない。本当に悪役っぽい、と言うか、悪事そのものをやってのけた。

 それは自分がシャーリーを引き継いだとき、すでに仕掛けられていた遠大な時限爆弾。ゲーム時代の知識とシャーリー本人の記憶を照らし合わせることでようやく自分も気づけた罠だ。


「まったく、やってくれるわね、シャーリー。見事過ぎて今の今まで気づかなかったじゃない」


 シャーリーの最大の望みは花嫁だった。嫁ぎ、子供を産んで、母となる、それが彼女の夢であり、目標だった。ただ、運命とは残酷なもので、シャーリーから母になる力を奪った。

 そうして始まったのがシャーリーの執念による研究だ。シャーリーはあらゆる視点から妊娠と出産を研究し、医学的根拠に基づく、一切の幻想要素がない妊娠のメカニズムに辿り付いた。

 ただ、なんの悪戯か子の母になりたいがためのシャーリーの研究で分かったのは、自分の治療方ではなく、妊婦を流産に追い込むための知識だった。


 シャーリーはそれに嘆き、悲しみ、天すらも呪った。いつかは子供を産みたいと願った彼女に、母と子を永遠に引き離すようなことは、できるはずがないのだ。

 しかし恋人と楽しそうに笑うアリスを見て、シャーリーの心は砕けた。


『貴女も道連れよ・・・アリス・グレイス、

幸せにお成りなさい、恋した王子様と結ばれ、誰よりも愛されなさい。

そして貴女は愛しい恋人の寵愛を一身に受ける。

やがて天は仲睦まじい男女に贈り物を与えるでしょう。

卒業式は幸せでパンパンに腫れたお腹で大勢の前に立ち、歴史に名を残す祝辞を述べなさい』


 女の身体のプロフェッショナル、シャーリー・フットはマジでやった。アリスとその恋人に対して間接的に間違った知識を教え、とんでもない方向に二人を導いた。若い男女のストッパーを人為的に外し、暴走させ、保険にまで事前に細工を施す徹底ぶりだ。


 ちょっとドン引きするレベルの呪いだ、魔法なし、だから自分の前世でも十分使える巧妙な呪い、もとい、破壊工作だ。

 いや、まだ結論を出すのは早いか・・・そうでない可能性もあるし、良識が働いてなにもない場合だって考えられる。


 たが、もし、シャーリーの仕込んだ罠が実を結べば、自分の計画が全て台無しになる恐れがある。

 自分の計画ではアリスを山車にフット家の家名を守るのが目的だった。しかし、もしアリスがスキャンダルで表に出られないような状態になってしまえば、彼女が王位を継ぐことはまずなくなる。


「笑えないわね、実際ゲームでもあの子、十八で妊娠して、十九で出産してるし」

 もはや悪名高き、第三作目、〈ギフテッド・チルドレン~祝福された贈り物~〉ではゲーム序盤で妊娠が発覚し、中盤で結婚する。『順序逆じゃない!?』と言われがちの乙女ゲームとしてはスキャンダラスなストーリー展開だ。

 更に問題のある話だが、序盤から中盤までの間で一定の条件をクリアし、十分な好感度のある攻略キャラが旦那になる。清々しいほどむちゃくちゃな順序だ。

 〈ギフテッド・チルドレン〉このタイトルも今となっては不吉だ。贈り物を与えられた子供達、よくそんなタイトルを付けてくれたものだ。


「仕方が無い、事実を確認する必要もないわ、って言うか知りたくもないし」

 アリスには悪いが流そう。

 幸いそっちの知識もシャーリーは豊富だ。




 実家に帰ることが決まり、荷物を持って馬車に乗り込むまでの間、心が決まった。

 これから学院を離れるが、その間に準備を進めてしまおう。


「ここにいたか、シャーリー。手続きは済ませたからすぐに帰ろう、お前をこんな学院に入れてのが間違えだった」

「お父様!?」

 普段から冷静な名裁判官は戻ってくるなり、怒りに燃えた形相だった。


「お前がここにいられないのも無理はない、むしろよく知らせてくれた」

「あの、なにがあったのですか?」

「祝福平和論者がこの私の前でお前やイザベラを侮辱した!」


 ここに来て、また祝福平和論か。

 ゲームではそんな単語なかったはずだが、さてどうしたものか。


「カーター!今すぐ裁判所に向う、馬車を飛ばせ!」

「お父様、ちょっと」

ドスッ

「・・・・・」

「・・・・・」

 返事はない、ただの屍のようだ。


「カーター、屋敷に、安全運転で」

「畏まりました、お嬢様」


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