05 おお、同志よ!!
一日周囲から向けられる悪意に耐えながら学院生活と言うものに耐えてみた。
「地獄だ・・・」
これが今日一日の感想。
流石はシャーリーと言うべきか大抵の授業にはちゃんとついていけてる。“呪い”は学年首席だし、国史や言語学もできる。ただ、“祝福”の授業は鬱になりそうだ。
なにせ“祝福”の授業を担当する教師はヒロインの攻略キャラなのだ。
“祝福”は愛の力だのなんだの言って“呪い”を冒涜し、世界が“祝福”で満たされればこの世は平和になるとか訳の分からない理論を展開する。教科書を見れば“祝福平和論”としてちゃんと紹介されているのでテストに出る。
なお授業中は女子生徒の黄色い声と先生に向く視線で自分に向く悪意もいくらかは軽減されるも、授業中は周りの生徒は皆“祝福”を使うのだ。そして自分だけなんどやっても上手くいかない。
周囲が光の玉を出しても自分にはできない。疎外感の中、頑張ってみたらドス黒いモヤが湧き出てきたのだ、静かに黙って握りつぶした。
授業中アリスはと言うと人一倍大きな光を出し、先生が隣にべったり張り付き、周囲から尊敬の眼差しを向けられていた。
(うん、やっぱりこの授業好きにはなれない)
ちなみに授業の中で一番好きなのは“呪い”の授業。先生が某魔法学校の副校長を連想させるような厳し目の女性で生徒全員に精神攻撃をしかけてくるのだ。別名、減点のグレンデール。
ちなみにシャーリーは平気だった、真面目に受けていればグレンデール先生はなにも言わないし、先生一人のお優しい精神攻撃なんて生徒から飛ぶ敵意に比べればなんてこともない。
周りの生徒が潰れている中、一人だけ平然としていられるのは気分がよかった。
全ての授業が終わると最後は自習の名目で生徒には時間が解放される。
ようするにある程度好きなことをしていていいのだ。ゲームではヒロインはこの時間を使って高感度を上げたり、デートをしたりする。
ちなみに普段シャーリーはなにをしていたのか記憶を確かめてみると、藁人形を木に打ち付けていました・・・しかも拳で。
うん、アリス一人良い思いしてたらそうなるよね。
自分もシャーリーへのリスペクトを込めて藁人形を殴ろうと思ったが今日はやることがある。お父様への手紙を書いて、ここから脱出する手筈を整えなくてはいけない。
手紙は長ったらしくない程度の書き、売店から出す。
この学院の売店は生徒に届く郵便物を預かったり、逆に届けたりするサービスも行っている。
ちょうど手紙を出し終えたところで、人と遭遇した。
「あら、フットさん。こんにちは、お買物?」
「アレキシスさん?どうされたんですか、普段は私に声もかけないのに」
アレキシスこと、本名アレックス・カーン、長い赤髪と濃紫のドレスが特徴的な攻略キャラ、性別:男。“呪い”の成績はトップ三位。
人と話をしてシャーリーの中身が摩り替わっていることがバレないか心配したがすぐにその必要がないことを思い出した。シャーリーはアレキシスと交友がほとんどない。
ゲームではアレキシスルートを進めるとアレキシスがシャーリーを殺しに来る、シャーリーからしたら要注意人物だ。
「もう、そんな言い方しないで、同じ“呪い”の優秀生じゃない。これから仲良くしましょう」
「それでアレキシスさんはなんの御用で?」
「相変わらずツンの部分が強いわね、まあいいわ。ここじゃなんだから場所を移しましょう」
アレキシスの用件とはどうやら人目を憚るもののようだ。これは気を引き締めないといけないかもしれない。人気のないところに誘導され、闇討ちされるのはゴメンだ。
「では森に行きましょうか、あそこならお互いにとって都合がいいでしょう」
「いいわ、そこにしましょう」
森とは、藁人形がびっしり打ち付けられた儀式場のことだ。学院創立以来、長きに渡ってたくさんの生徒や教師達があそこで藁人形を打ち付けてきた。“呪い”を得意とする者の集会場だ。
森は鬱蒼とした陰樹林で入ってしまえば昼でも暗い。
そこを魔法の明りで照らし、藁人形の密集地帯付近にある広場で落ち着く。
シャーリーはいつも“呪い”で作った紫色の明りでこの森を歩いていた。
「“祝福”が使えないって本当なのね」
明りを見てポツリとアレキシスがつぶやく。
「努力はしたつもりなのですが、どうも上手くいかなくて。“祝福”でできることを“呪い”でもできないか模索して代用の魔法を作ってはいますが、なかなか」
「大変ね・・・」
「まあ、何事も慣れですから」
「・・・ねぇ、フットさん」
「はい」
「貴女、最近の学院をどう思う?」
「と言いますと?」
「アタシ達の世代って“祝福”優位、“呪い”不利な感じしないかしら?
だって学院長は“祝福”の達人、副学院長も元は“祝福”の研究者。“祝福平和論”なんて数年前まで異端思想として学院がマークしていたほどなのに授業で平然と教えられてるでしょ」
「初めて聞きました、そんな話」
それは考えてもみなかったことだ。ゲーム中、学院長やら副学院長やらはモブキャラ同然、どんな人物かはノータッチだったのだ。だが、もしアレキシスの言うことが正しければ、シャーリーに対する風当たりの強さにも納得がいく。
「それとね、実はあんまり大きな声じゃいえないんだけど、っと言うより、ごめんなさい、最初にこれだけは言わせて、謝らせて。
フットさん、実は入学初日にね、貴女のいないところでシャーリー・フットには気をつけてって言い歩いてたオバサンがいたの」
「はい!?」
初耳だ、シャーリーの記憶にそんなものはないし、〈ギフテッド・チルドレン〉全シリーズにもそんな内容はなかったはずだ。
「アレキシスさん、それは、どんなクソババァですか、覚えている“限り”のことを“全部”“私に”教えてください!」
「そんなに怒らないで、まあアタシもそんなことされたら怒るけど。フットさん、貴女体から怨みが目視できるレベルで漏れでてるわよ」
「あら、ごめんなさい」
口元を手で隠し、茶目っ気を演出する。
「恐ろしい変わり様ね、これだから女は油断できないわ・・・
まあ、それはいいとして、“呪い”が劣勢なのは流石に不味いと思うのよ、とくに私達が学院を卒業するころが。私達はここで学んだ実績をもとに就職先を探さないといけない、そのときに呪使いよりも祝福使いが優遇されるようなことになれば」
「私達の仕官は困難になる・・・アレキシスさん、貴方、ご実家は?」
「貴族の宮廷魔術師よ、領地はなし。王宮に仕官できなきゃ家からたたき出されるわ」
「奇遇ですね、私の父は裁判官です、領地は没収されましたし、私には嫁の貰い手が見つかりません。今は卒業まで生きていられるかが心配です」
「・・・・・・・・・??」
「・・・・・・・・・??」
ガシ!!
「おお、同志よ!」
「共にこの辛い時代を乗り越えよう!」
アレキシスのモデルは某米ドラマに登場する性転換したあの人。