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31 時代劇の時間だ!

 “フット家に謀反の疑い有り”こちらとしては正直痛い所を突かれた。何せ、事実無根のでっち上げとは言い切れない部分があるからだ。

 事実、フット家は玉座を狙っている。自らが王となろうとしているのではなく、あくまで王位継承権を持つニコールを推してのことだが。しかしこれはまだ謀反とは言えない段階だ。王位に着ける候補者の中から一人を立てて、それを支援しているだけのこと。そしてこれは最悪の事態、かつて国から逃亡したマティルダの娘が王位に着かないための保険だ。


 この事情は公の場で口にすることは出来ないが、後継ぎに恵まれていない王家に伝わらない話ではない。上層部の前国王にも仕えていた者達ならば、理解してくれるはずだ。


 問題は、フット家を陥れたい者達の力がどれほどなのかだ。

 この国の最高教育機関である学院はすでに祝福平和論者の手に堕ちている。そして、貴族社会にも既に敵方に着いた者は多いと聞く。国家の中枢がどれほど祝福平和論に毒されているか、そしてこの国の主である現国王の真意は何所にあるのか・・・これが今回の焦点となるだろう。


 この登城は些細なイベントなどではない。すでに悪役令嬢のストーリーで言う所の断罪シーン級にまでランクアップした修羅場だ。


 謁見の間に通され、フット伯爵を先頭に親子で跪くと、王家謁見のための手続きが始まる。

 今も昔も、公的な行いには手順には作法というものが存在する。この国の王家には、謁見の際に先ず客人は跪く。そして文官が客人の紹介を行った後に、脇の部屋から待機していた国王が部屋に入室し、上座の玉座に腰掛ける。

 その後、国王の許しが下りた後、客人は表を上げる。


「苦しゅうない、表を上げよ」

「はは。国王陛下に置かれましては本日もご機嫌麗しく」

「堅苦しい挨拶は良い。それよりも久しいなヘンリー、お前も王家の一員ではないか。

誰だ、フット伯爵にこんな扱いをしたのは・・・すまんな、ヘンリー。近頃は人にも苦労するようになってな」

「お望みとあれば、うちの若い者を何人かお貸ししますぞ」

「そうか、せっかくの申し出だが、止しておこう。今はこの宮すら居心地が悪いでな。フット家に掛けられた疑いなら、わしが何とかする。気にするな」

「それは我ら一家としては有り難きことにございます」


「のうヘンリーよ、最近は議会すらわしの手を離れつつある」

 一瞬の間をあけて、国王陛下は疲れを露にした口調で話しを続けた。


「お前や、お前の娘にも苦労をかけた・・・まさか腕に墨まで入れて己の無実を証明しようとするとはな・・・非力なわし、どうか許してほしい」

 墨を入れる・・・それは貴族社会では考えられないことだ。入れ墨とは罪人の証、それを自ら入れると言うことは自らを貶めることだ。

 その昔、とある王国で世継争いがあった。王には二人の息子がおり、後継ぎは長男と最初は思われたが、次男は誰の目から見ても王に相応しかった。そしてそれを誰よりも理解していた長男は自らに王位を狙う意思がないことを示すために全身に入れ墨を掘ったという。

 入れ墨とは自らに玉座を狙う意思がないことを意味しているのだ。

 ただ、嫁入り前の娘まで入れ墨を彫り、それを人目に晒すのはやりすぎだ。


「陛下、どうか、そのことに関しては御心配なきようにお頼み申します。これは我ら親子が考えた末に決めたこと。これで世が乱れることがなければ、安いものです」

「すまん、ヘンリー・・・そしてシャーリー、お前のことはよく知っている。わしの姪、アリスをあの日、助けてくれたこと心から感謝している。そして、お前のことをここまで追い詰めてしまったこと、深く理解しているつもりだ」

「どうか、お気になさらないで下さい・・・私にも責がございます」

 シャーリーは自分の境遇について誰も恨んでいない。恨んでいるのは己の弱さと醜さだけだ。一連のことも全て自分のしたことの結果、自業自得と解釈していた。


「いや、そうは行かぬ。この上はせめて、良い嫁ぎ先だけでも探させてくれ。わしにはそれがせめてもの償いだ」

「かつて私は、伯爵家の娘として生まれた者の心得と教わり、それを胸に今日まで生きてまいりました。

我が命、我が物と思わず

あくまで家のため、国家のため

その使命如何にても果たすものなり

なお、進みし道は戻れぬ物なり

それを志して生きて来た者でございます、この上はこの命、あくまで天下国家のために役立てたく思います」

「・・・見事、これ以上は何を言っても蛇足となろう。ヘンリー・フット、シャーリー・フット、両名の真意、しかと受け止めた。この上はわしもその方達に掛けられた疑い、何としてでも晴らそう」




 話が終わろうとしたその時、ようやく敵がその姿を現した。

「なりません、兄上!このような者共の話、耳の毒になります!」

 謁見の間の扉を吹き飛ばさん勢いで、どたまピンクのオバサンと仰々しい武装をした騎士風の集団が雪崩こんできた。


「マティルダ、控えよ!」

 国王は突然部屋に侵入してきた妹を諌めようとするも、マティルダは止まらなかった。

「ああ、兄上、おかわいそうに。きっと、悪魔の魔術によってお心を惑わされてしまったのだわ・・・この上は妹である私が兄上の仇を討ちましょう。祝福平和騎士団の勇者達よ、そこにいる悪魔を倒すのです」

「「仰せの通りに!!」」

 マティルダは、配下と思われる祝福平和騎士団を率い、強引な手段でフット家を潰しにきた。


「お父様・・・」

「ああ、やはり来たようだな・・・マティルダとは、もう話ができないようだ。シャーリー、俺から離れるなよ」

 フット伯爵は、腰に差した王家の家紋が入った刀を引き抜いた。今回は峰には返さない。


「ワッハッハッハハハ・・・悪党共が到頭本性を見せたようですな」

 フット家と祝福平和騎士団、一気触発と思われたその瞬間、謁見の間に第三者が介入した。

 本来は国王のみが使う、謁見の間の脇から、絹織物を纏った白い髭のご老人が杖を手に現れた。その後に御付の者を二人引き連れて。


「何奴っ!?」

「ほほう、儂が分らぬか。その昔、先代の王にも仕えたこの儂が」


(・・・え、嘘!?あのお方はもしや!?)


「ええい、構わん!あの年寄りも斬捨てぇい!」

 祝福平和騎士団の中で一際仰々しい鎧を着た男がマティルダに代わってその場の士気をとった。


 対して、ご老人はそれに抵抗する意思を示した。

「スケイル、カクサス、少し懲らしめてやりなさい」


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