29 シャーリー
本話は悪役令嬢、シャーリー・フット(本人)の視点でお送りましす。
私は弱かった、負けまいと必死に堪えて来たつもりでいたが、結果は全てを物語っている。努力した所で人を呪うことにしか能はなく、祝福が尊まれる今の世の中では人材として無能も同然だ。かと言って子供を産む力もなく、女としても役立たずだ。
長い療養生活は膝を抱えるように過ごし、激痛と孤独に向き合い幼少期をドブに捨てた。
その後、回復した途端、学院に流された。最初こそ友人との出会いや、学びの喜びなどを純粋に期待していたが、それも周囲から向けられた針のような視線ですぐに冷めた。
そして、それに耐えかねた私は自分で自分を呪った。
『こんな自分はもういらない、なくなればいい。誰にも認められず、何もできない屑など消えちゃえばいい』
それは並に呪使いでは到底実現できない次元の外法だった。魔術の源である心の奥底から、術者である自分自身を呪う自害だ。何かの力を強化したり、弱体化したりする魔術本来の範疇から外れた、魔術の到達目標すら凌駕しえない次元にあった。
しかし、自分のことをこの世から消し去るつもりで打ち込んだその呪いによって、何の因果か、私以外の他人の人格が私の身体に入ってしまった。私自身も消滅することなく、心片隅に残り、新たに入った人格を他人のように傍観する立場になった。新しい私には、無念を晴らしてほしいと言い残して。
そして、気楽な立ち位置から今日までずっと新しい私のことを見ていたが、その日々は嬉しくもあり、楽しくもあった。
彼女は強く、そして大胆な人だ。流されるまま学院に入り、留まり続けた私と違い、彼女はすぐにそこから堂々と出ていった。
出た先で彼女は私に教えてくれた。私、シャーリー・フットは決して一人ではなかったこと。そして、自分から手を伸ばせば、友達だって作れたこと。
アリスの目の前で彼女の恋人と友情を育んだ所など痛快だった。
何よりも嬉しかったのは、彼女が私のことを探してくれたことだ。
私の無念とは何かを考え、私の足跡を辿り、私を理解しようとしてくれた。彼女がそうやって私のことを気遣ってくれているときは、まるでかくれんぼをして遊んでいるようだった。そして、最後には私の本心を見つけてくれた。
本当に楽しかった。そして、嬉しかった。
もう、過去の無念などとっくに晴れている。彼女は十分すぎるほど、私に尽くしてくれた。
とは言え、まだ私は消えるわけにはいかない。
なぜなら、かつて私を罠に羽目、我がフット家を貶めた怨敵は我が同法、我が一族、そして私の大恩人に刃を向けた。
学院の中で私一人を狙っていたのであれば、まだ許せた。しかし、事がここまで大きくなった今、放置するわけにはいかない。いや、これまで野放しにしていた私にも責任がある。
「腹はくくった。もはや、逃げも隠れもせん!」




