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20 タフネスのダフネs

新キャラ出ます。

 私とニコールは耐え切った、眠気に負けることなく無事に朝食会を通過し、夜のパーティーへの招待状を手に入れた。それは、飲めや歌えやの新年のパーティーを前日からぶっとおしで参加し、眠ることなくパーティーに明け暮れた者に与えられるご褒美。それがあれば国王主催の特別なパーティー会場への入室ができる。

 そこには、他のパーティーにすらほとんど顔を出さないVIPや重鎮などが数多く出席し、集まる情報も深くなる。

 私達の目的はそこに顔を出すと言われている、前宰相に会うことだ。

 前宰相は、名君と誉れ高い前国王の右腕と言われた人物で、隠居こそしたものの、影響力は健在だ。ニコールの継承権についても知り、シャーリーに離宮で治療を受けるよう指図したのも前宰相だ。


(ようやく・・・)

 前宰相の支援を受けることができれば。いや、ニコールの継承権について再度確認してくれれば、私達はマティルダとまともに戦える。スタート地点に立てる。


 自分達が追い詰められつつある状況はフレイ家が加わったところで大して変化はない。こちらは時間もないし、孤軍であることに変わりはない。ニコール・フレイの存在がはっきりと見直されることで初めて王位継承争いに参加できるほどだ。

 逆にニコールが拒絶された場合、私達はまた新しい策を考えなくてはいけない。最悪、その場で積むことも考えられる。

 慎重になる必要がある。だが、同時に名前を売るため勝負に出る大胆差も求められる。難しい局面だ。


 指定された時刻に案内人に誘われ、私達は会場となる広間にやってきた。

 ここからが本番だ。そう気持を改め、広間の中へと一歩を踏み出そうとしたとき、横槍が入った。


「そこの子供二人、お前達、ここを何所だと思っている」

 広間入り口の内側に立つ警護の騎士が私達を呼び止める。その声は案内人と共にここまで来た人間に対する物ではない。


「さあ、わたくし達は呼ばれたもので」

 とぼけながら広間内を素早く見る、誰がいるのか、知った顔はいないか。おおまかなことだけ分かる程度に素早く。

 そして、部屋の奥にどたまピンクの性悪女を見つけた。


「お前達のような者が来るなど聞いていない、早々に立ち帰らなければ拘束する」

 騎士はなおも強気の態度をとる。

「ああー・・・先に言っておくが、わたくしとこの子は前国王陛下の曾孫にあたる。そしてここには正規の招待状を持って来ている。

確認をとるなら今の内にしておき。ねぇ、案内殿」

 入り口前で固まる案内人に話を振る。案内人もなにがなにやら状況が掴めていないようだ。


「ニコール、ここに長居は無用です、帰りますよ」

「っ、お姉ちゃん、いいの?」

 予定ではこのパーティーは大事なはず、と確認を取るように不安な顔でニコールは私を見る。

「ええ・・・(逃げるわよ、ニコール)」

 ニコール以外誰にも聞こえないように、小声で撤退を指示する。

 マティルダがいる、このままでは分が悪い。


 あの騎士にはマティルダの手が回っている。ということは、このパーティーそのものにはすでにマティルダの息が掛かっていると見て良い。

 そんな場所にのこのこと二人だけで入るわけにはいかないわ。

 なにより、この騎士気取りにはイラっときた。

 案内人の襟を掴み、無理やりパーティー会場内に投げ込む。

「私達、帰りの案内はいいわ」

 案内人を騎士に向って蹴る。ちなみに本日の履物はヒールだ。


 案内人が押し込まれたのと同時にニコールは広間の扉を閉め、廊下と広間を遮断する。中でその後、なにが起きたかは、こちらからではもう分からない。

「さあ、走るわよ!」

「うん!でも、お姉ちゃんはもういいの?」

「ああ、大丈夫よ。ちゃんと呪ったから」

 忘れてはいけない、ここはファンタジー世界で魔法があり、シャーリーは“呪い”の達人であることを。短時間の内に軽くエグいの仕込むぐらい問題ではない。

 案内人を押し込んだ理由は二つ、一つはちょっとした“呪い”のため、もう一つは自分達が何所に行ったか知られないため。

 すぐに広間から離れ、案内人や騎士の目の届かない所まで逃げる。そしてそこから、広間の様子を探る。


「ニコール、これからお姉ちゃんが言ったことを聞いてほしいの、いい?」

「うん、なに?」

「やってほしいことがあるの、それも貴方にしかできないこと」

「ボクにしかできないこと?やるよ、お姉ちゃん」

「ありがとう、ニコール。じゃあ、ちょっと男を一人誑かしてきてほしいの」

 かくして私は外法に手を染めた。








 狙うのはマティルダの客、マティルダにとって都合の良い若い男。例えば、アリスの攻略キャラだ。

 ゲーム、第一作に登場するキャラは六人。だが、シリーズを通して攻略キャラも追加された。その中には当然マティルダにとって都合の良い人間もいる。そんな男を利用すればマティルダの縄張りにだって楽に入れる。

 そしてアリスの手が届く男なら、ニコールは奪える。


「ここで少し待ってみましょうか、誰か良さそうな人が来るかもしれないわ」

 私達がパーティー会場へ案内されるときに通った、廊下の中で隠れられる場所を選び、待ち伏せする。

 いくつか候補があったが中庭に面した廊下を使うことにした。

 植物の多い中庭のすぐ脇の廊下は見通しが良く、中庭には隠れる場所が多い。今夜は月も出ているから光源も十分にある。私は“呪い”を使って中庭に隠れ、ニコールには廊下からも目のつく場所に立ってもらった。もちろん私のことは見えるよう配慮して。


 辛抱強く使えそうな男が通りかかるのを待つ。数名ほど広間に向うと思われる人間が通ったが使えそうなのはいなかった。


「本日は遠方より起こし大変ありがとうございます。マティルダ様も殿下のお越しにはお喜びです」

「なに、たいしたことではない」

 暗がりの向こうから誰かが来た・・・

(声からすると若い、もしかしたら使えるかもしれない)


 案内人に連れられて現れたのは、褐色の肌と長い銀髪、異国の豪奢な服を纏った若い男。

 あの男には見覚えがある、確か第二作〈ギフテッド・チルドレン~宝石箱~〉で追加された攻略キャラ、シーヴァ・シャルマ=ダルだ。

 時間軸的には登場するはずのない人物ではあるが、ここはもうゲームではない。ニコールが今舞台に立っているのと同様いてもおかしくない。


 イケる、そう思ってニコールにゴーサインを出した。




 指示は出していないのに、ニコールは廊下から目のつく位置に座り、男の気を引こうとした。

 月明かりの中に立ち、心細そうな顔で周囲を見回していた。否、そういう演技をしていた。

「すみません、ボクのお姉ちゃんを見ませんでしたか?」

 ニコールはシーヴァが十分に近づいてきた所で声をかける。


「こら、無礼であろう!」

 無礼はお前だ、使用人風情が!そう思いながらもニコールは口を噤み、不安気な表情を維持する。

「よい、俺はかまわない」

 叱咤する案内人を治め、シーヴァはニコールに向き直った。


「その方、いや、君の名前は?」

「ニコールです、ニコール・フレイ」


「今、姉上を探していると言っていたが、どうしたんだ。逸れたのか?」

「はい、招待状を持ってそこの広間に行ったのですが、入れてもらえなくて。帰り道にお姉ちゃんが・・・」

「いや、もういい。すまないな、酷なことを聞いてしまった。君の姉上はどんな人か教えてくれないか。それと、広間で開かれた宴席なら、俺が連れて行ってあげよう」


 ニコールはシーヴァに連れられ、二人でなにかを話しながら会場である広間に足を進めた。

「狙い通りだわ、それにしても中々才能あるわね、ニコールも」

 悪女の才に満ちているわ、シャーリーに懐いていてよかった。アレを敵に回したら骨が折れそうだわ。

 さて、ニコールが一仕事している間に私もやることをやっておきましょうか。


 悪役令嬢って生物は貴女が思ってる以上にしぶといのよ、マティルダ。


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