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19 初日の出

 新年を表す日の出とともに、国王が夜会の会場に姿を現す。それがこの夜会のフィナーレを意味するイベントだ。

 新年の夜会には合計三回国王がその姿を現す慣わしがある。先ずは序盤、まだ夜も更ける前に。次に夜晩く、会場が熱気に包まれてから。そして最後に夜明けと共に国王は家臣の前に現れる。

 フレイ、フット、両家とその一派はそこを狙って行動に出る。


 地平線の向こうが、ぼんやりと明るくなるころから、出入り口を固め、国王が日の入りに合わせて会場に入場するさい、王位継承権を持つニコールがそれを向え、新年の挨拶をする。

 たとえ公爵家であっても、本来なら拒まれ兼ねない行為だが、先頭に立つのは成人前の子供。それも現国王の血の繋がった親類ともなれば話は変わってくる。そんな僅かな良心に漬け込むのが今回の策だ。

すでに主だった人間の了承も得ている。下手な人間にさせるよりも、国王の縁者である子供にさせた方が無難だという意見も貰っている。


「国王陛下、明るき新年のお祝いを申し上げます。今年も良い一年になることをお祈り申し上げます」

 騒がず、緊張することもなかったニコールは体力を残している。徹夜明けとは思えないほどすっきりとした顔で国王に祝辞を述べる。

 この瞬間、今年、誰よりも早く公式の場で国王と言葉を交わした人物がニコール・フレイとなった。


 ニコールに続くようにフレイ家、フット家、そして両家に従う一派が国王に傅く。あたかも、自分達が最も忠実な家臣であるかの如く。それに遅れて周囲が少しずつ両家に習った末には全ての者が国王に頭を垂れた。それはまるで、ニコールが全ての臣下の先頭に立ち、国王のすぐ下まで上り詰めたかのようだ。


 これで、ようやくニコールが王位継承にその存在を知らしめ、玉座に対して一歩を踏み出したことになる。




 日の出と共に夜会は終わりを告げる。国王の来場により静まった会場は先ほどと打って変って清々しかった。これから新年の行事として、朝食会と言う名のパーティーがもようされ、日の出まで夜会に出席した参加者は皆そちらにも参加する義務がある。つまりは二次会だ。


「ニコールなにか飲みたいものはある?」

「コーヒー、ブラックがいい」

 事前に仮眠をとってきたが、やはり一徹後は眠い。新年のパーティーはまだ色々と続く。それに自分達は最後まで参加して顔と名前を売らなくてはならない。

 すでに周囲には休憩状態に入っている人間もいるが、まだまだ寝落ちすることは許されていない。

 せめてもの気休めにニコールと二人、コーヒーを飲みながら身体を蝕む疲労に耐える。


「だいぶ減ったかしら」

「リストに載ってたのは何人か仮眠室にいってるよ」

 序盤から勢いよく動き回っていた“祝福平和論者”のほとんどがすでにリタイアしている。原因は二日酔いと疲労だろう。

 新年のパーティーには耐久マラソン的な部分があり、長い宴は参加者の体力を奪い、一度脱落してしまうと、もう復帰は叶わない。慣れた者ならペース配分を上手く考え、最後まで完宴しようとするが、自信がなければ早目にリタイアするに限る。社交界でのしくじりは時として一生に及ぶからだ。

 ちなみに我等が派閥からも多数の脱落者が出てしまい、その先頭にお父様がいらっしゃる。これ以上犠牲を出さないためにも、こちらは慎重になって体力を管理しなくてはならない。


「ニコール、眠くても我慢するのよ。この後のお茶会まで凌げば一休みできるから」

「うん・・・お姉ちゃんも頑張って」

 なんとか耐えているニコールだが、その意識は朦朧としているようだ。

 だってこの子、ベーコンをまるのまま齧ろうとしてる。


「お姉ちゃん、このパンかたい・・しょっぱい・・」

「ニコール、それはパンじゃないわよ。ちょうどここにケーキが・・・」

 自分の皿に乗っていたのはケーキではなく、チーズだった。

 やばいわね、私もちょっとイカれてるかもしれない。


 徹夜が強要される新年のパーティー、これを生き抜いた者には特別な栄誉として今夜、再び行われるパーティーで国王の舞踏会に参加することができる。舞踏会の参加者は他の招待客とは違うパーティー会場で、選びぬかれた招待客のみが集う特別な社交場で、より高位な人間と会う機会が与えられる。私とニコールは、その舞踏会への参加を目指して睡魔と闘っている。


 新年のパーティー、情報によるとそこに極めて重要な人物が珍しく参加するらしい。すでに第一線から退き、隠居してしまった人物だが、その存在は大きく、国内の有力者達に対しても強い影響力を有している。

 私達はその人物を味方につけようと画策している。


 これはただの権力闘争ではない。私達には、前国王の曾孫の世代にはやらなくてはいけないことがある。その人物と話、伝えることがさえできれば、希望が見えてくる。


「ニコール、私達は寝てはいけないわ」

「うん、分かってる。ボク、絶対に寝ないから」


 まだ幼さを残すニコールにこんな負担をかけて、自分がさせていることとは言え、やはり釈然とできない。本当は私もニコールにはこんな我慢大会をさせたくない。しかし、今は心を鬼にしなければならない。

 ニコール、あとでお姉ちゃんがうんっと甘やかしてあげるからね。


 ただ、そんな拙い努力は一瞬にしてその意味を失ってしまうことになる。アイツが、マティルダ・グレイスが会場に姿を現すことで。


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