15 汝、人を知りたくば彼の人の藁人形を見よ
~シャーリー視点~
夜会を利用して、クラウスを始とした王族に詳しい人間に秘密裏にアリスを見てもらったが、やはりアリスはマティルダの娘である確立が高いようだ。
それが証明されただけでも十分な収穫だが、もう一つ、思わぬ出会いがあった。
アルフレッド・アーサー・リオンハルト、隣国・アメノマの第二王子だ。
ゲームの知識とシャーリーの記憶で大体のことは分かっていたが、想定していた以上の人物だった。てっきり“祝福平和論”に染まりきっているかと思ったが、少し早とちりが過ぎた。
汝、人を知りたくば彼の人の藁人形を見よ
アルフレッド王子の藁人形にはこれまでに見たこともない特徴がある。
形や大きさ、使っている藁の品種などは一般的な藁人形と大差はない。注目すべきは藁人形の断面だ。
藁人形には両手足と頭に計五つの断面がある。王子の藁人形の断面を見ると、使われた藁の太さが均一でないことが分かった。太いもの、細いもの、形状がやや個性的なもの、断面だけでも様々なタイプの藁が見てとれた。
普通、藁人形を作るとき、藁の太さを均一にして断面に隙間が生じないよう作る。
しかし、この藁人形は太さが不揃いな藁を使っていながらも隙間がない。一見すれば乱雑にも見えるほど、無造作に藁が束ねられているのに無駄がない。
アルフレッド王子は、藁人形は人が集まり作る国のようだと言った。
それならば、王子が望む国とは、この不揃いな藁を見事に纏めた藁人形の如く、様々な人間が集まって作る国ということになる。
強い者、弱い者、なにを信じるかも関係なく、人々が互いに支えあって国とする。それこそが“国”であると言っている・・・そういうことだろうか。
「アリスは幸せね、あんな藁人形美人に惚れられるなんて」
~王子視点~
汝、人を知りたくば彼の人の藁人形を見よ
嘘を嘘で塗り固めた王侯貴族の社会でオレが唯一信頼する人の診方だ。
言葉や表情、仕草などは訓練すれば偽ることもできる。しかし、藁人形は違う。たとえ本人が作ったものでなくとも、藁人形は人物を正確に表す。
今日は面白い人物と知り合うことができた。
名はシャーリー・フット、ついこの間まで学院にも在籍していた才女だ。“呪い”の才能に恵まれ、常に“呪い”の首席に立ち続けた。次席として一度でもいいから追い抜いてみたいと闘志を燃やしたが、彼女が学院を去ってしまったため、倒頭オレは彼女に勝つことはできなかった。
彼女の実家、フット家が主催する夜会にアリスが呼ばれ、それに便乗してシャーリーに会ってみるも、自分の中にあったライバル意識のようなものがあっさりと消えてしまった。
夜会では、未だに魔術師でない者や祝福使いから忌避される藁人形が飾り付けられ、しかもこの国では一般的だと言う。
藁人形の交換にしても、シャーリーは快く応じてくれた。
なにより、彼女は藁人形について深い造詣を持っている。彼女が言葉の意味も知らず、出任せで言ってないことは、彼女が作った藁人形を見れば分かる。
芯のしっかりとした丈夫な藁人形は、折り曲げても元に戻る。まるで強い逆風や横殴りの雨にも負けない麦のように。
彼女は強い人だ、なにがあろうと決して屈することはない。何度でも立ち上がり、歪むこともないだろう。
「オレもそんなヤツとは友に成りたい」
そう言えば、この藁人形は何所となく、母が昔作ってくれた藁人形に似ている。