13 お誘い
エドワード視点です、短めです。
エドワード・パーソンズは近衛騎士の家系に生まれた嫡男だ。祖父は前の近衛騎士団長を勤め、父も騎士団長の任についている。近衛騎士団の家に生まれた男子として、エドワードは王族を敬うよう教えられ、身分の違う人間に対してどのように接したら良いのかを学ばされた。
そんなエドワードにとって現在、シャーリー・フットの存在は非常に微妙な位置にある。
フット伯爵家は前国王の孫が立ち上げた家だ、そのため王族の親類に当る。そして、フット家の当主は国王から法を預かる裁判官を務めている。そのフット伯爵の実の娘、シャーリー・フットはエドワードの想人、アリスを呪った敵だ。
まだシャーリーがどんな呪いをいつ掛けたかは分からないし、証拠もないが、アリスに対してなんらかの感情を抱いているのは間違えない。
しかし、ここでエドワードはパーソンズ家の教えと自分の秘めた想いを天秤にかけなくてはいけない。
先日、シャーリーから“アリスに会いたい”と話を持ちかけられ、それに乗ってしまった。それだけでもシャーリーの思う壺なのに、今度はアリスがシャーリーに会いたいと言うのだ。
アリスからの返答を持って、シャーリーを訪ねてみれば、シャーリーはすでに学院を自主退学した後だった。
それでもアリスのために今日、休日を利用してシャーリーの実家、フット家までエドワードは足を運んだ。
(どうする・・・女子寮の前ならアイツのことなど考えなくてもよかったが、フット家では違う。あの、ヘンリー・フット伯爵の邸宅ではシャーリーをシャーリー・フット伯爵令嬢として扱わなくてはいけない)
それに聞く所によれば、フット伯爵がシャーリーの退学を許したのも、学院の関係者がシャーリーを侮辱したのが原因なのだとか。
もしも自分の行動に僅かな非礼でもあれば、フット伯爵の怒りを買うことになるだろう。
だが、それを恐れてシャーリーを増長させるのは気分が悪い。
「まったく、俺はどうしたらいいんだ・・・」
シャーリーにどんな顔をして会えばいいのか分からぬまま、エドワードはフット家邸宅前までついてしまった。
貴族のタウンハウスにしてはやや規模の控えめな屋敷だったが、間違えない。フット伯爵家の屋敷だ。
呼び鈴を鳴らし、使用人に取り次いでもらった上で、屋敷に入れてもらった。
「ようこそ、エドワード殿。私のことなら今は気を使わなくてもいいですよ、父や母は現在留守なので」
家の中にいたシャーリーはまるで農夫の娘のような服装をしていた。服の仕立ては良く、汚れ一つついていないのは貴族だからだろうが、それでも貴族の娘なら普通はもう少し上等な格好をするものだ。
「いや、それでもここはフット家の屋敷。パーソンズ家の者として礼節は守らせてもらう」
「作用ですか。少々お待ちください、今、お茶の用意をさせていますので」
「いや、すぐに帰るから気遣いは不要だ」
「そうですか・・・それで、アリス様はなんと?」
シャーリーは自分の用件が分かっているようで助かった。
「アリスはシャーリー殿に会いたいと言っていた、場所は何所でもいいと。
これは俺の見立てだが、アリスはシャーリー殿の実家に遊びに行きたそうだった、もう一度言うがこれは俺の見立てだ」
「そうですか、では、返事は後ほど手紙でお伝えいたしますので、そうお伝えください」
「分かった」
それだけ言い残して帰ろうとすると、シャーリーに呼び止められた。
「そうそう、私に付き添ってアリス様にお会いするのでしたら、まずはお互い口のききかたを直さないといけませんね。どう見ても仲が良いようには見えませんし」
「勝手にしろ」
口ではそう言ってしまったが、後日、シャーリーからの返答を見て、エドワードは後悔することとなった。