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12 最悪の悪役令嬢

 乙女ゲーム〈ギフテッド・チルドレン〉は全部で三作ある。

 第一作では、ヒロイン、アリスを“呪い”で妨害する悪役令嬢、シャーリーが登場する。だが、ストーリー上ではシャーリーはエンディングを迎える前に死ぬ。そのため、二作目以降で別の悪役令嬢が用意されるのは当然の流れだろう。

 第二作、〈ギフテッド・チルドレン~宝石箱~〉では、傲慢な悪役令嬢、フィオナ・ロックウィルが登場する。

 そして、第三作ではシリーズ最悪と呼ばれる悪役令嬢、もとい公爵の嫡男、ニコール・フレイが登場する。


 ニコール・フレイは最初こそ新攻略キャラともファンの間で思われた、年下で甘えん坊な美少年キャラだった。実際、それっぽいスチルがサイトでも公開されていた。しかし、いざ発売手前になると非攻略キャラだと明かされ。そして、プレイしてみれば、ニコールは天使の皮を被った悪魔であることにファン達は気づかされた。


 それまでの作品に出てくる悪役令嬢達は実は二人共、ヒロインの男を盗ろうとしはしなかった。最後の作品で恋愛の邪魔を積極的にするキャラが登場しても不自然ではない。むしろ、妨害に来るのが子猫のような美少年だ。逆に喜んでしまうプレイヤーが続出した、あのエンドを見るまでは・・・


 悪名高き〈ギフテッド・チルドレン~祝福された贈り物~〉ではヒロインが序盤で妊娠する。そして、その後、好感度の一番高い男が父親になる、順序が逆のスキャンダラスなゲームだ。

 ただ、このゲームでは、ニコールの妨害を受けると、攻略キャラとの好感度が下がる。しかも、後になるに連れて減り方も凶悪になっていく。

 もし、どの男ともヒロインが十分に好感度を維持できなかった場合、ヒロインは流産する。ヒロイン(もはやプレイヤーの娘)のお腹が順調に育っていく様子を見守りながら、穏やかな気持でゲームを楽しみ、時折イケメンと美少年が戯れる姿を見て、それはそれは楽しく遊んでいたところに、突然の流産が襲ってくる仕組みだ。


 もはや悪夢としか言いようがないバッドエンドだった。しかも、戦略的にならないとニコールの妨害からヒロインは夫を守りきれない。だからプレイヤーも必死になってニコールを振り切ろうとする。それは計算用のアプリまで出回るしまつだった。


 そんな悪夢を見せたニコール・フレイを時間軸的には第一作の時点で表舞台に引きずり出そうというのが、執事・クラウスの提案だった。


 もちろんクラウスがゲームのことを知るはずもない。

 クラウスが目を付けたのはニコールの別の要素だ。


 まず、フレイ家は公爵だが、前国王の孫が王の臣下に下って出来た家だ。つまり、当主はお父様の従兄弟にあたる。

 次にフレイ家の嫡男はまだ前国王が存命のころ、直々に王位継承権を受けている。つまり、たとえ現国王が世継にアリスを指名した場合でも、こちらはニコールを持ち上げ、戦うことができる。

 また、先に次代の国王候補として名乗りを挙げることも可能だ。その場合は、まだ無名のアリスを消しても後は力で握り潰せる。


 問題があるとすれば、それはニコールがまだ十二歳だということだ。その若さではまだ、本人の意思など定まるものではない。それにフレイ公爵家が親類とは言え、格下のフット伯爵家の提案に乗るとは考え難い。

 その上、病弱と言う噂まであり、療養のため表には顔を出さないという。


 家臣達から見れば、現実味がないように思われる提案ではあるが、フット家の家族は違った。


「よし、アキレス・フレイには私から話を通そう」

「フレイ家ならあそこの奥方とは学院時代からの仲よ」

「私もニコールのことは療養時代から知っています」


 これはシャーリーの記憶だが、シャーリーとニコールは前国王の計らいで同じ場所で療養生活を送っていた。子供などいない空間で、シャーリーは自分の体力が許せる日のみ、ニコールの部屋に遊びに行った。

 まだ、小さいニコールのために本を読んだり、”呪い”を見せたりとシャーリーは面倒見が良く、ニコールには懐かれていた。


 そしてこれはゲームからの知識だが、ニコールは十四歳という若さで妊婦から夫を奪おうとしたのには、理由がある。


 敵討ちだ。


 ニコールにとってシャーリーは病気が理由でベッドから出られなかった自分を励まし、一緒に遊んでくれた優しいお姉さんだった。ようやく病気を克服して、シャーリーに一目逢おうと病室の外に出てみれば、かつての恩人は反逆罪で処刑された後・・・

 フット家は跡形もなく消え去り、断罪されたシャーリーには墓すらなく、人々はシャーリーを悪く言い、罵る。そんな現実を突きつけられた少年が在りし日の温かい思い出を胸に泣きながら復讐を誓った。

『・・・お姉ちゃん、僕、元気になったよ、お姉ちゃんとの約束ちゃんと守ったよ・・・お医者さんのいうことも聞いたし、苦い薬だって飲んだよ・・・でも、なんで、なんでいないの・・・お姉ちゃん・・・』


 最悪の悪役令嬢の名に恥じない、見事な動機と精神力、そして己を顧ない行動力。とくにシャーリー好きのファンの間ではニコールも人気の高いキャラだ。


 そんなニコールが今度はアリスとガチで殺り合う。

 子供を前線に出すのは気が引けるが、ここまで来るとなにか因縁のような物すら感じられる。


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