01 南無阿弥陀仏
「南無阿弥陀仏」
その一言を言い遺し、自分はこの世を去ったはずだった。
南無阿弥陀仏とは、僧侶でも権力者でもない人々が解脱するにはどうすればいいのか考えた御坊が辿り着いた呪文だ。
阿弥陀仏は修行の末に解脱を成し遂げた、そんな仏様に人が自分の行く末をお任せする意思表示、それが南無阿弥陀仏。
気付けば自分は雪の中で寝ていた。
身体は自分の物でないかのように重く、動かそうにも動かない。
只々寒く、辺りは静かなだけだ。
朦朧としていた意識は少しずつはっきりしてくる。
少しだけなら指先も動くようになって来た。
そんなとき、頭の中で記憶が湧き上がる。
『どうか、私の無念を晴らしてください。代わりに私の全てを差し上げます、だからどうか、どうか私、シャーリー・フットの無念を晴らしてください』
雪のように色素の薄いプラチナブロンドと碧眼の痩せた少女が懇願する。
これは御仏の導きと言うものだろうか?「南無阿弥陀仏」と死後の処遇をお任せしたのは他ならない自分だ。なら、最後まで貫き通すしかないだろう。
「承った」
かくして、自分はシャーリー・フットと言う存在を引き継いだ。
シャーリー・フットとは、自分の記憶通りなら生前ハマった乙女ゲーム〈ギフテッド・チルドレン~祝福と呪いのワルツ~〉に登場する伯爵令嬢で、ヒロイン、アリス(どたまピンク色のふわふわした女)の絶対敵として描かれていた。いわゆる、悪役令嬢と言うやつだ。
実は個人的に一番好きなキャラクターだったりもする。
母親の代からアリスの一族を憎み、シャーリー自身にとってもアリスは仇も同然だった。
それはゲームの主な舞台となる学院でもシャーリーの立ち位置を決定付ける要因ともなった。
と言うより、このゲーム、発売から半年後に出たファンディスクで明かされる真実が凄まじくて、人によっては悪役のシャーリーを応援するために第一作からじっくりやり直すこともある。かく言う自分もバッチリ全エンドとスチルを回収した。
確かにシャーリー・フットとその母、イザベラ・フットは許されないほどの罪を犯した。ただ、その背景にはちゃんとそれだけの理由があった。
なにより、第一作の時点でのシャーリーの扱いが酷過ぎる。
悪役であるはずなのに、シャーリーは学院内で孤立無援。悪役令嬢でおなじみの使用人もいなければ、友達もいない、それどころかまともに話をしてくれる知り合いもいない。
一方、アリスは入学初日から攻略キャラのイケメン三人のルートが出現している。
その後、三年間に渡る学院生活の間にシャーリーは追い詰められ、実家諸共没落する。エンドの中には二年目の時点で死亡する物もある。その場合、シャーリーの母、イザベラだけが最後に処刑され、父親は国王の従兄弟だったこともあり助命される。
ちなみにこのシャーリーの父親は裁判官をしているのだが、頭に超が付くほど良い人。
本格的にはファンディスクで、第一作では限られたエンドでだけ登場するのだが、没落させるのが申し訳ないほど良い人だ。時代劇で言うと大岡越前守様級、いや、根岸肥前守級の名奉行、もとい名裁判官だ。
攻略キャラの中に一人義賊を名乗る怪盗がいるのだが、怪盗ルートのラストでは見事な名裁きによって罪を減らしたのだ。
最後の、
「女を泣かせた罪だ、生涯をかけて償うことを命じる。ほら、いってやれ」
は、感動物だった。
と言うか、彼氏の命助けてくれる裁判官をエンドが違えば没落させるとか、ヒロインマジない。
そして出生と父親以外にもう一つ、シャーリーに好感が持てることがある。
シャーリーは元々ヒロイン並にまっすぐな少女で、幼少時代にアリスの命をその身を呈して救ったことだ。それは友好エンドと言われる、二年目でシャーリーが死ぬエンドで明らかになる。
ちなみに死因はアリスを守るため、アリスの命を狙う刺客団を女子寮の前で迎え打ち、激戦の末に相討ちになること。
門の前で仁王立ちし「ここから先は一歩も通さん」から始まり、
最後はズタボロになりながら、「無事でよか・・た」で終わる壮絶な名エンドだ。
おいー!!誰か助けろよ!ヒロイン逆ハー持ってるんだから誰か一人くらい助けに来いよ。
ってか、加勢しろ!
いただろう近衞騎士とか剣の天才とか、今登場しないでいつ出る!
そう思わなかったときはなかったが、それでもあのエンドは凄かった。見ていて任侠映画かと思ったくらいだ。
こんな義理人情に溢れたシャーリーに無念を晴らしてほしいと頼まれたのだ、たとえ闇の殺し屋に身を落としてでも、
「その怨み、晴らします」
まさか自分が転生物を書こうとは思ってもみませんでした。(突然の思いつきで始めた)
どうか、温かく見守ってやってください。