手紙の騎士
※
血臭がこもっていた。
どうして、この屋敷に足を踏み入れた瞬間に気づかなかったのか。
ネロは己のうかつさを呪った。
「構造のせいじゃろうな」
影に潜んでいては、わしも匂いを感知できんしな。メルロが言った。
アレクタール家の屋敷前部には客間をはじめとする接客用の施設が集中し、比較的オープンな構造であるのに対し、家族のプライベートな居室は、そこから一本の通路だけで繋がる奥まったエリアに存在する。
開かれているようで実は隔離された構造なのだ。
ネロは客間に隣接する厨房に人影はないことを確認した。だが調理用の炉に残り火があった。人がいた証拠だ。
それを確認してから、屋敷の奥へと向かった。
そこで血の臭いが鼻先を掠めた。
「かんべんしてくれ」
護身用のナイフを確かめ、ネロは血臭の源、ダイニングルームに足を踏み入れた。
そこは文字通り、血の海だった。
全部で十数名、人間が倒れていた。臓物がぶちまけられていた。
メイド、園丁、下男――使用人とアレクタール家の家族に混じって、グレコがいた。
卓上にはポットが置かれ、湯気を立てている。卓上に燭台があり、蝋燭の炎が頼りなげに燃えていた。
「だから言ったのに、お父様ったら、わたしたちはこの家を離れては生きていけませんのよ? それこそ――獣にでもならないかぎり」
「ルシル――」
名を呼んだネロをルシルは振り返り、微笑んだ。さきほどと、すこしも変わらずに。
あら、と恥じ入るようにつぶやいた。返り血が頬に散っていた。
「ごめんなさい。とんだ身内の恥をさらしてしまって」
「これは……これは君がやったのか?」
「わたくしが? いいえ、とんでもない。わたくしでは無理ですわ。こんなふうに噛みちぎったりできませんもの。これは――狼、狼の仕業ですわ」
かちかちかちかち、とどこかでだれかの奥歯が鳴っている。
それが自分のものだと気がつくのに、ネロにはすこし時間が必要だった。
「じゃあ、そいつは、その狼はどこにいるんだ」
「そんなもの――いるわけありませんわ。これだけの大人の男たちを組み伏せ、食い殺すことのできる狼なんているわけありませんわ」
見れば床には火かき棒や斧、暖炉の上にかけたあったのだろう刀剣の類いも転がっていた。
男たちは無抵抗でやられたのではないのだ。
ただ、力の差が圧倒的だった、というだけのことだ。
「いや、いる。いるさ――すぐそばに」
「まあ、こわい。でも……もし、いるのだとしたら、それは物語のなかにだけ――悪い夢のなかにだけ――だと思いませんこと?」
理想の恋と同じで。
雨戸を閉め切っているために、臓物と汚物と血液のむっとするような臭気が立ちこめる食堂の血溜まりのなかに立って、ルシルは笑っていた。
「安心なさって、ネロ。これは夢、夢ですの。そう――悪い夢」
「ちがう、ルシル、これは」
食い下がるネロを気にもとめず、ルシルは言葉を続けた。
「わたくしね、すこし前、ひどい病気をしましたの。人狼病という病気で」
「人狼病?」
ぶるりっ、と悪寒が背筋を走った。
「水を飲み込もうとすると引き攣れるように痛いんですの。風が吹いても、強い光を浴びても痛いんですの。大好きな方にも会えず、嘘を吐かれ、好いてもいない老人と結婚しなくてはならず……いっぱい、いっぱい我慢してきたのに、わたくし、気が狂いそうな痛みで、病で死ななければなりませんでしたの」
ぼろろ、とその瞳から大粒の涙がこぼれて血の海に混じった。
「苦しかった。でも、生きていたいと思った。あなたからの手紙が欲しかった」
どうして、どうしてもっとはやくに名乗ってくださらなかったの?
どうして、さらいに来てくださらなかったの?
食いしばったルシルの唇から嗚咽が漏れた。
狼のように狂おしい。
ごつり、とルシルの足がグレコを蹴った。
「こいつはね、わたしの心を金ヅルにしようとしたんです。最初は真摯なふうを装っていたけど、父に取り入り、わたしが騎士さまへの恋をあきらめるように仕組んだ。
ネロ、あなたは知らないはずです。知ってたら、あんな手紙、書けないもの。
こんな茶番ね、初めてではないんです。なんども、わたしを騙そうとした。
でも、ぜんぶ、ぜんぶ、見抜いてやったわ。
わたしね、嘘が匂いでわかるの。手紙も、人間も、すうって嗅いだらすぐにわかる」
ルシルの瞳が焦点を失い、こんどは父親を踏んだ。
「父はね、この死に損ないはね、わたしのためだ、って言って六十も年上の男を許嫁にしたんです。冗談じゃない。しわしわのお爺ちゃんだわ。お金だけはある。
でも、そんなのわたしのためじゃないわ、家のためよ。
じゃあ、どうして最初からそう言わないの? 家のために犠牲になってくれって。
そうすれば、子供のわたしにでもすこしは覚悟できたのに。でも、それでも、それでも我慢できた。できていたんです」
あなたから、手紙をもらうまで。
「――知らなかった。だれかから強く想われること、愛されることが、こんなにもしあわせな気持ちに人間をするんだって。
そして、それが叶わないことが、どんなに人間にとって残酷かって。
ヒトのしあわせはね、だれか別の人間では計れないし、決められないの」
こいつらには、最期まで、それがわからなかった。さげすむように死体を見下ろしルシルは言った。
「でも、わたしがもう助からない病気だってわかったとき、父は掌を返した。せめて娘の今際の際の願いくらい叶えてやろうという気になった。わたしは、それでやっとあなたに会えた」
だからね、わたし、病気になってよかったな。
「人狼病ってね――助からない病気なんだってしってますか? 一度、みんななってみるといいんだ。自分が無理矢理引き裂かれるみたいな痛みが、ずっとずっと続いて、憎しみや怒りが抑えられなくなるの。いままで自分を抑圧していたものすべてへの」
だんだんと狂熱の色を帯びてゆくルシルの言葉を、ネロは止められない。
「医者にも匙を投げられたわたしを助けてくれたのはフレアさんだった。フレアさんは言ったんです、わたしに。『病に呑まれるな。病を我がものとせよ』って。『汝、人狼を装うべからず。汝、人狼となるべし』って。『奴隷としての無為な死か、それとも超越者としての主となるか、選べ』って」
もちろん、わたしは選びました。超越者となる道を。ルシルの瞳が語っていた。
「ある日、目覚めると痛みも熱も去っていた。わたし、主になったんです。病の」
「人……狼……」
「はい。それからは毎晩、わたしは狼になる夢を見ました。なんの制約もなく世界を駆け回るのは楽しかった。夢の内容は……よく覚えていないんですけれどね?」
まってくれ、とネロはうめくように言った。
「じゃあ、それと、この目の前の死体の山が、どう繋がるっていうんだ」
「父は全快したわたしのために、性懲りもなく縁談を探していたし、このグレコは悪びれもせず――あなたには重要なことを伝えもせず――またしても、破廉恥にも、こんな席を設けた。でも――それはいい。それはいいんです。だって、あなたに会えた。やっぱり、あのお手紙はネロだったって、わかったから」
「じゃあ、じゃあ、なんだって」
「こいつらが囁きあっているのを聞いちゃったんです」
『恋などはしかのようなものだ。時期を過ぎればやがて忘れる』
『夢に幻滅することで子供は現実を知るものです』
『この件が決着したら、縁談の演出を君に頼みたい。娘の夢に――似た、な』
「……わたし、あの病以来、鼻も耳もすごくよくなって。それで――ふざけるなっ、て思って。その《夢》さえまともに装うことさえできなかった奴らがっ! わたしの、わたしたちの《夢》をバカにするのか、って!」
そう思ったら、
「こいつらこそ《夢》にしてやったんです」
ネロは絶句した。
「だから、だからって使用人たちまで……巻き込むなんて……」
「彼らは《夢》を理解できない人たちでしたから。父の道具。母のいいなり。どれだけこいつらがわたしのこと、陰口し、密告してきたか――わたし、ぜんぶ、ぜんぶ知ってるんだから。それでもまだ……父や母の味方をするから……」
この牢獄のような屋敷のなかで、ルシルがどんな孤独を強いられてきたのか、そのことをネロは思った。病によって噴出した人狼は、この屋敷がルシルのなかに流し込み、撓めてきた無味無臭・不可視のバケモノなのかもしれなかった。
ふらり、とルシルが不安定に傾いだ。
「どうしましょう」
心細げに笑って、ネロを見た。
「わたくし、ひとりになってしまいました」
ネロはそのとき、どうすればよかったのだろう?
壊れてしまったルシルのために手を差し出し、ともに墜ちてしまえればよかったか?
それとも彼女をかどわかし、逃避行に出ればよかったか?
あるいは彼女の騎士として、バケモノに成り果てた彼女を仕留めてやるべきだったか?
しかし、ネロの取った選択は、そのどれとも違った。
気がつけば、眼前のルシルは、いつか見たあの強大な銀狼に変化している。
彼女の言う《夢》が現実のルシルに勝ったのだ。
そして、ネロの手には、ルシルに味わってもらおうと持ち込んだ貴腐の酒があった。
背中にメルロの体温を感じた。その背中を護るように、いつの間にか現われていた。
酒を手渡してくれたのは彼女で、いつでも飛び出せるように準備してくれていた。
それでも、最後の決断をネロにまかせてくれていることが、うれしかった。
ごう、とネロの掌で《スピンドル》が渦を巻いた。
※
「こんなに美味しいのに、どうしてせつなくて、涙がでるのか――」
ネロの造った貴腐ワインを飲みながら、メルロは、はらはらと涙を流す。
「うん」としかネロには言葉がない。
長雨続きの晩秋――いや、もうすぐ冬だ。ふたりは昼間から飲んでいる。
つまみはよく焼いたパンの細片とオリーブオイルだけ。貧しいのではなく、最高に贅沢な飲み方だ。極まったワインは、ほとんどの料理を拒絶するからだ。
つまり、醸し上がったネロのワインは最高の出来だった。
ネロのヒザにはメルロがいる。
最初は差し向いで飲んでいたのだが、いつのまにかこうなった。
その気持ちがネロにはわかる。
事件は一応の解決を見た。
ネロからの通報を受けたスパイラルベインの動きは素早かった。
さらに聖堂騎士団が動いた。
血塗れのアレクタール邸は一時封鎖され、徹底的な検証を受けた。
その血塗れの床にルシルの変わり果てた死体があった。
やせこけ、憔悴しきった、細すぎる身体だった。
ネロの《スピンドル》と、その導体となったワインが引き起こした結果だった。
ネロは重要参考人として拘束された。
三日三晩、昼夜を問わず取り調べを受けた。
それから四日目の朝、いきなり釈放された。
ネロは三日の間、唯々諾々と取り調べに従っていたのではなかった。
いや、むしろ、自分のどこにこんな熱い血がまだ眠っていたのだとネロ自身が戸惑うほど激しく、取調官に食ってかかった。
いわく、
「オレのスパイラルベイン資格を剥奪したいならそうしろ! どんな刑罰だって受けてやるッ! 死罪? できるもんならやってみろッ! だがな、アイツだけ――あの女だけは取り押さえろ! フレアミューゼル! 白衣医師団のフレアを、だッ!」
それこそ必死の形相で訴えるネロに取調官は気のない様子だったが、実情は違った。
すぐさま、スパイラルベイン精鋭と聖堂騎士の混成部隊:五名が、ネロの供述にあるフレアの診療所を強襲した。
そして、三名が死亡。二名が重傷。
スパイラルベインは返り討ちに遭い、フレアの逃走を許した。
その消息は、いまだに不明だ。
「拝病騎士団?」
その禍々しい名をスパイラルベイン・ギルドマスター・ナッシュヴルフの口から聞いたのは釈放の朝だ。
拝病騎士団――病魔を崇拝し、病こそ恩寵――次なる次元へのきざはし――だと信奉する一派。“進化”という名の狂気に取り憑かれた邪教徒たち。
病に対する広範で深遠な知識を有し、それゆえに、施療師の身分を騙って地方、都市を問わず流入しては持ち歩く病原体を活性させ、凄惨な事件を起すのだという。
おかしい、とはネロも血塗れの食堂にスパイラルベインが到着する間、考えていた。
ルシルに憑いた人狼病がどこから来たのか、をだ。
感染源は例の婚約者=しわしわのご老人が贈ったという犬だが、それは猟犬ではなく、愛玩犬だった。贖った店も、貴族ご用達、信用第一の店舗だった。そして、贈られた飼い犬が、人狼病に接触する機会はまずない。夜間は室内で寝るのだし、屋敷の敷地から外へ出ることもない。
聖堂騎士団とスパイラルベインの活動で、感染源、温床となるような野犬、狼の群れはエクストラム近隣からは駆逐されて久しい。
山間部の農村地帯ならともかく、ここは百万人都市:エクストラムだ。
では、あの人狼病はどこから来た?
ふつうならありえないことだ。
ただひとつ――だれかが、人為的に、植え付けたのでないかぎり。
それはただの勘かもしれなかった。だが、だからこそ、ネロは素早い確認を望んだ。
結果は悪いほうに出た。ネロの予想通り……最悪のシナリオだった。
ルシルは拝病騎士:フレアミューゼルの格好の検体、実験台にされたのだ。
拝病騎士:フレアミューゼルの逃亡を知り、驚愕したネロに、さらなる追い討ちが待っていた。
耐えきれぬほどの精神的な衝撃が。
いや、それは朗報――と言うべきなのか。
ルシルベルカの引き起こしたアレクタール家の惨劇の死者の数だ。
一名、と知らされた。息女:ルシルベルカ・アレクタール、一名。
なんだ……これは、と報告書に目を通しネロは絶句した。
ナッシュヴルフが禿頭を掻いた。
主犯であるルシルは、誰も殺してなどいなかった。
全員が気絶しており、リビングにぶちまけられていた血や臓物は、使用人たちの食事に使われる予定だった豚の血液、未処理の臓器であった。
すべては演出――《夢》だったのだ。
失われたのはルシルベルカの命だけ。負傷者はアレクトール当主だけで、これも後頭部を陶器かなにかで殴られたものだ。
あの一瞬――雨戸を開けた瞬間に。
「人狼などの魔物の咆哮には至近で聞いただけで心神喪失を引き起こす力があるのじゃ」
バインド・ボイスというのだとメルロが説明するのを、ネロは、うわの空で聞いた。
ふらふらと、街に彷徨い出て、どこをどう歩いたものか、気がつくと冷たい雨にずぶ濡れになりながら自宅に帰り着いていた。それから、ふさぎ込んだ。
まともに泣けたのは、数日後、見かねたのだろうメルロが、あのワインを差し出してくれたときだった。
飲む気になどとてもなれない。無言で退けようとした、途端だった。
ふうわり、ととても言葉にできない優しい香りがネロの鼻腔に届いたのだ。
ぼろろ、とまったく予期せぬ涙が、ネロの左目からこぼれ落ちた。
それから、堰を切ったように、ネロは泣いた。
這いつくばり、胸を掻きむしって。
ルシルは――あの優しいラベンダーの香りの娘は、それでもなお、家族を愛していたのだ。
心の奥底では憎みきれず、だから、殺せず、あんな方法で復讐を成し遂げた。
たぶん、とネロは思うのだ。
たぶん、ルシルはネロに幕を引いて欲しかったのだ。
だれかの描いた勝手な夢に翻弄され、呪縛された人生と、そこから逃れるために人狼に成り果てた自分を救ってくれる――現実の騎士として、ネロを頼った。
その役割を自分は全うできただろうか、とネロは思う。
ネロの《スピンドル》とその力を伝導された貴腐ワインは、ルシルの肉体と精神を包み込むと蒸留するように分離した。
結果として、人狼病の走狗となった肉体は床に転がり、その心と精神の抽出物は霧散した。
渦を巻く貴腐ワインの奔流のただなかで、一声、心にいつまでも忘れられない遠吠えを残して。
芳香を放つ酒をまとったまま、ネロの開けてやった鎧戸から、飛び去っていった。
「自由になるために、生まれてきた――か」
ゆっくりとグラスのなかの液体を回しながら見つめ、ネロは言った。
卓上にはルシルの絶筆がある。
アレクタール邸のルシルの部屋から見つかった。
ご丁寧に、その隣りには貴腐葡萄の房が、ひとつ添えてあったのだという。
驚いたことに、ネロ宛だ。
日付を信じるなら、グレコがネロを訪う以前、あの会談の約束が取り付けられるより前、彼女が人狼病に冒されていたときに書かれたものだ。
「わたくし、わかっておりました。
あなたなのでしょう? ネロ・ダヴォーラ。あのお手紙は――
でも、この手紙をあなたが読まれるとき、
きっとわたくしは、もう、この世にいないから……」
震える文字で書き綴られた、そんな一文で始まる手紙を、ネロはまだ直視できない。
必死に塞いだはずの心の堰が、また崩れてしまうからだ。
ルシルはネロの心根の優しさが、あの日々、交わされた書簡にはあったと指摘し、また、その優しさを備えるネロが、今回のことで自分を責めすぎないで欲しい、とも書かれていた。
遺書だったのだ。
騎士:シュマイゼルから――自分が生きている間に――返信が届かなかったときのための。
ネロを――自分を責めるだろうネロ自身から――解き放つための。
偽りであっても――楽しかった、と。あなたで、よかった、と。
それから、ある詩からの引用があった。
荒れ野に咲く野の花のように、風雨に打たれても咲く、ラベンダーの花のように。
ヒトの住まう地、街道を踏み越えたとて、荒野を駆ける狼たちのように――。
『自由になりましょう……わたしたち』
たぶん、きっと、そんな、意味だ。
「かなわねえよ――」
ネロの唇は震えて、また涙がぶり返してきた。
「……この酒自体が、さびしい味がするのではない――この酒はな、ネロ、だれかが心の奥にかけてしまった頑なな錠前を、外してしまう魔法の鍵なのじゃ。
そう――マスターキー。だから、ルシルの縛鎖も解いてしもうたのだ。
アレは――荒野を駆ける狼の心を得て――自由になったのだよ」
メルロがネロの心に開いたその傷を、手を当てて塞ぐように、優しくつぶやいた。
「ああ、ああ」
ネロは頷くことしかできない。
去りゆく晩秋の雨は止む様子もない。
追補:命を拾ったグレコは、あの事件のあとも性懲りもなくネロを訪ねてくる。
ロクな男ではないが、それを言うならネロも同類で、あきれながらも迎え入れると、またあの人懐っこい笑顔を見せた。
もちろん、あの事件をネロは反古にする気はない。
しばらく、酒の肴に困ることはないだろう。
そんなグレコが、この間、酔って帰ったと思ったら、すっ飛んで戻ってきた。
なんでも、近くで狼の遠吠えを聞いたのだそうだ。
「そりゃあ、いるだろうな」
「ああ、人狼じゃろ? もう鎖には繋がれていないぞ?」
冗談だと笑うネロとメルロのリアクションに、蒼白になり震えあがった。
秋風にたしかに、その声を聞いた気がした。