1本の剣。
「うわぁ…」
汚なすぎる、埃とか遠目でも見えるくらい乗ってるよ?乗りすぎで嵐の日にビックウェーブしちゃう勢いだよ?
埃っぽい所は嫌いなのだが仕方ない、勝手に掃除する訳にもいかないしな。
「なんだあれは?」
埃まみれの部屋で壁に飾られている剣。
剣には埃が被っていない、それどころか光ってる様にも見えるくらいの光沢感。
どうしたら剣にだけ埃が被らないように出来るのだろうか?剣だけメンテナンスしてるということはないだろう、扉のノブは埃があったしな。戻って聞いてみるか。
踵を返し、真由花がいる部屋に戻った。
真由花は俺の鞘作りに勤しんでくれているようだ、邪魔するのも気がひけるが気になるししょうがない。
「なぁ真由花」
「ん?何かあった?」
話し掛けると作業を中断して、こっちに顔を向け首を傾げた。なにその動作。超絶可愛いんだけど。
「あの部屋の中すげー埃だったんだけど」
「ごめんねー、こっちでの作業が多くて中々入らないから掃除してないんだよね。」
申し訳無さそうな顔ではにかむ。
「そんな気はしてから、気にしてない。それよりも、あそこに飾られている剣はどうなってるんだ?埃が一切被ってなかったけど」
「あぁ、あそこに飾られている剣は特殊な材料も使っていてね、埃くらいなら弾いちゃうんだよ。」
「そんな事があるのか、凄まじい斬れ味を誇ってそうだな、埃だけに。」
「たまたま手に入っただけなんだけどね、滅多にこの村に入ってくることはないよ。」
俺の渾身のギャグをスルーするとはやるな、見えない心のヒットポイントが削られる気分だ。
「ちなみに値段はどんなもんなんだ?レアな素材使ってるから相当高そうだけど。」
「そうだねぇ、売る気はあんまりなかったんだよ。この村で剣を買う人なんて殆どが護身用だからある程度の強さで満足しちゃうからね、一颯みたいな戦闘系の人のお客さんは久しぶりだよ。」
村の外を歩いてる人も少ない、この村はそれほど活発ではないのは分かっていた。客足が少ないとはいえ素人目の俺でもあの剣は途轍もなく強い。俺の直感がそう言ってる。
「売る気はないということか?値段次第では考えたんだけどなぁ」
「私が持ってて使わないから使って貰いたい気持ちはあるけど、いかんせん強力過ぎるからね。悪い奴とかの手に渡ったら大勢の人を殺しかねないからね。」
それが真由花がこの村で鍛冶屋をやってる理由なのかもな、人通りの少ない村ならあの剣を目にする奴は限られてくる。ましてや護身用ならば奥に行く必要はないし。
それにこんな何もない村に、あんな剣が有るとは普通思わないだろう。 そんな理由がなきゃ儲からないこんな村にはいないだろうしな。
「そうか、そんな理由があるならしょうがないな。今日会ったばっかりの奴をそこまで信じるのも可笑しな話だしな。」
「ごめんね、でも私は何故かあの剣は貴方が使うものだと、そんな気がする。」
「俺も何故かそんな気はしたが、そんなのは気のせいだ。ウッドエレメンタル。
作業の邪魔して悪かったな、続けてくれ。俺はあの椅子で寝てるから出来たら起こしてくれ。」
座ったら壊れそうな椅子に腰掛けギシギシと音を鳴らしながらも腕組みをして目を瞑る。静かな中に作業をする音が心地よく、俺は眠りについた。
「起きてー?起きてよ!」
黒髪のポニーテール少女は眠っている俺の体をそう言いながら軽く揺する。
「あぁ、悪いな。ちょっと疲れてたんだ。お礼にキスしてあげるよ」
「ちょ、まだ寝ぼけてるの?キスとかいいから仕上がりを見て!」
ポニーテール少女は顔を紅潮させながら慌てふためく。
こいつはあれか?純情なのか?からかうと面白いと頭に刻んでおこう。
「おお、いい感じだな。安っぽさは否めないが十分だ。いくらだ?」
なめし革のような革だ。1番安いのだしそれでも予想以上だ。
「安いのだとこれが限界ね。殆どが革だし、値段は2000pzだよ。ある?」
「ああ、それ位なら安いもんだ。ありがとう。」
俺は鞘を受け取り、アイテムストレージを開いて、所持金10140pz から2000pzを実体化させて渡した。
「毎度あり!確かに貰ったよ。この額をサラッと払っちゃうのね。一颯意外とやり手なんだね?」
「そんことはない。まあ武器のメンテナンスとかにも利用させて貰うよ。これからもよろしくな」
「うん!基本暇だし、最優先にしてあげるからこれからも贔屓にしてね!」
「あぁ、悪いな、またくる」
入ってきたときと同じズッシリと重い扉を開け、俺は踏み出した。
一颯
所持pz 8140
武器 鞘あり両手剣 刃先のない剣