物音。
「んっ......?ふわぁ......」
不意に目を覚まし、眠たい目を擦りながら現在の時刻を確認する。
現在朝方三時五十分、流石の俺もこんなに早く起きる習慣は身につけた覚えはないんだがな。
体が起こせたのでもうくっつき虫は退いたみたいだ、ちらりと覗いて見る。
真由花は、まだルカにしがみ付いているようだ。ルカは暑がって額から汗を流し、頬を赤く染めているその姿は妙に艶やかだった。
少しどきどきしたが、その二人は仲睦まじくとても穏やかな気持ちになり、もう一眠りしようかと思ったその時――
外から何やら足音が聞こえる。獣だろうか?それとも......
目で確かめれば分かると思い、二人を起こさない為に出来るだけ静かに外へ出た。
あれ?俺はこんなに目が良かったっけと自分でも思うくらい視界が広がっており、空はまだ真っ暗なのにも関わらず夕方の薄暗いくらいにしか視えないのだ。じっくり目を凝らせば百メートル先ならば見て取れる程だった。
獣だろうか、とりあえず戦うかもしれないと思いストレージを開きドュリンダナを装備し背中へ重圧感を乗せる。
柄を握りながら辺りをほっつき歩くが、何も見当たらないので気のせいかとテントへ戻ろうとする。
自然に溢れていて、身を隠す場所なら幾らでもありそうだがこの暗さでは普通の人間は俺の姿を確認する事が出来るのだろうか?
いや無理だろう、"普通の人間"ならばな。
草むらを縦横無尽に駆ける足音、それは一つではなくいくつかの者から成っている様子だった。
海近辺の林のような森でテントを張った俺達だが、戦ったあの場所からそう離れてはいない。探そうと思えば探せるくらいの距離ではあるのだ。
まだ姿は確認できないが、恐らく何からの人物だろう。獣ではなく人だ。
それは俺の勘、いや直感がそう告げていた。
そう思ったところで一層柄を握る力を強めたが、ここで戦うのはまずい。あいつ等の存在もばれているといってもいいだろう。巻き込みたくないので別の場所へ移動する事も考えたが、もし他にいて寝込みを襲われてしまう可能性もあり、動けずにいた。
そっちがその気ならば正々堂々と一人で戦ってやろうと、覚悟を決めた。
テントから十メートルほどのところで俺は足踏みを止め、立ち止まった。
「誰だよ、俺を狙ってるならここにいるぞタコ野郎」
それほど大声でもなく、五メートル付近にいる人物だったら聴こえるくらいの声量だ。四方八方木に囲まれているその場所だが、オークが居たあの場所に似ており三百六十度身体を動かす事は出来る。
テントからそんなに離れずに戦える場所と言ったらここくらいだろう。周囲を視回したが草木だらけでとてもまともな足場になっているのは此処以外に見当たらなかった。
俺の言葉に反応する音もなく、シーンと静まり返っていた。
「なんだよ、気のせいか」
踵を返し、わざと敵が潜んでいる場所へ背を向けた。
一歩、二歩踏み出したところで――
突然、短剣を握り顔をマスクで隠しているアサシンとでもいえそうな人物が現れ、背中へその短い刀身を刺すべく動いている。
勿論俺は来ると思っていた、すぐさま身体を翻し迎え撃つべく柄から剣を引き抜かせた。
剣を勝手に動作させる、つまり剣技を使ったのだ。
以前の俺ならばまだ何人いるか分からない状況で使う事は無かっただろう、しかしもう出し惜しみをして後悔するのは嫌だった。
「っ!」
ナイフのような剣と一メートル以上ある剣とじゃリーチの差は歴然であり。俺の剣技は見事決まり、相手の身体を引き裂いた。
「き、貴様......」
即死には至らず、少し喋れるようだったが相手は瀕死でありその場に倒れていたが、右手の剣を両手で握り直し背中から心臓へ向かい突き刺した。
大量の出血をし、相手は無言のまま体の力が抜けていった。
「おい、お前らの仲間一人死んだぞ?仇とったほうがいいんじゃないか?」
一人を殺してもなお、身を隠し続ける者達へ再び言葉を発した。
その者達は中々身を出さず、もういないんじゃないかと思うくらいの技術を持ち合わせていた。
さっきの奴といいお前らは忍者かよ、この暗い中そんな格好しなくとも普通は視えねーよ。
剣を体から抜け出したところで一斉に三人が三方向から陣形を組んだ形で襲い掛かってきた。
一人目は先程と同じ短剣、二人目も同様。三人目は短剣と片手剣の中間のようなリーチの武器を持っている。短剣のリーチは先程で大体掴んだので注意すべきは三人目だろう。
一人目の攻撃はただの突き、短剣ならではのスピードを生かそうと考えているようだがその程度なら見極められる。
短剣を握っている手首を左腕でぐっと握り攻撃を止め、右で剣を腹へ刺し、引っ張り抜く。
そこへ二人目が攻撃を企み、またもや短剣で攻撃してくる。
今度は突きではなく、複数回に亘る横振りで即死よりも致命傷を取ろうと意識しているようだが、一撃目をしゃがんで回避し、左手で拳を作り鳩尾へ殴りを入れ、一時的に行動を止め三人目に備えた。
なんとも間合いの取り辛い武器である、リーチの長さでは勝っているが振りの速さや小回りでは勝ち難い。
他二人とは違い、むやみやたらに武器を振り回すのではなく俺の心臓を狙っている。
縦でこれば横で弾き、横でこれば縦で受け、突きがこれば目先で回避する。受け止めた剣はしっかり一撃一撃に力を込められていた。
いつまでもやっていては二人目が復帰し、再び劣勢に立たされるので片をつけるべく動いた。
取り難い間合いも次第に慣れており、これなら充分だ。
新しい剣技――




