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ふぁんたじーわーるど  作者: あっぽ
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出し尽くす。

ぐっと息を止め、体中の酸素をエネルギーに換えるんじゃないかと思うくらい身体へ力を込めた。


最後の攻撃、下段から斬り上げる技へと身体はシフトした。

上段から振り落とされ、地面擦れ擦れで止まった剣は手首をぐるんと返し、斬れる刃を空へ向け、身体はまたもや行動を後押しされる形で低い体勢の攻撃を繰り出すのだった。


「なっ......」



 二段目の攻撃を軽く掠った相手は恐怖に(おのの)いたが、この三連続の剣技はとても回避できるようなスピードではなく頭では分かっていても、体は付いていく事が出来ない。

三段目の攻撃で体に大きな縦傷をつけたが、なんとか耐え凌いでいたが相手の剣は手元にはなかった。

体を守ろうとしたのか、それとも単なる偶然か分からないが即死には至らなかったようだが、武器を持っていない敵など相手にならない。

体の傷が痛むのか、そこから流れる血を止めようと手で押さえていたがその指からは血が零れていた。


「おまえっ......ぜったいに許さな......いからなっ......」


苦しみに耐えながら悲痛な声をあげていた。


「ああ、俺もだ。」


再び俺はクロスブレードを発動させた。



何も武器を持っていない相手に対し、最初の斬りで思わず体を守ろうとした両腕を落とし、ニ撃目では頭を縦に割り、最後に下半身から入り上半身から剣先を出した。


その死体は無残であり、見るに堪えない程と云えるものだった。


 それを見ても俺は何とも思わなくなった、人を殺すのに慣れてきたのだろうか。そうじゃない、俺は元々そんな奴だった気がする。

昔の俺をもう思い出す事はないだろう。


そんなことよりもルカだ、急いで助けなければまずい状況だがまだ敵は数名残っている。



戦いに加わる気の無かった奴等へ目を向けたが、仲間が殺されたというのに動くどころか、その場から身を消していた。


いまはラッキーだと思う他ならない、急いでルカのそばへ寄った。


「ルカ!大丈夫か?待ってろいま......」


返事はない、血が......人間の体からこれほどの血が出るのかと思うくらい出血していた。


「カズサ、ごめんね。わたし......」


ルカの頭を優しく両手で抱えながら真由花は涙を流していた、ルカを傷つけてしまった事に対する涙なのか、何も出来ない自分に対するものなのかは、真由花本人しか分からない。


「大丈夫だ、それにどんな理由であれ、とりあえず謝れば許してくれるだろ」


まだ息がある事を期待し、真由花へ言葉を掛けると同時に残り少ない俺の手持ちのポーションをルカの口へ押し込んだ。


 自ら飲む意識がない以上、無理矢理しか方法はない。このポーション自体は恐らく喉を通せば効果を発揮するだろう。

息をしているならばと口元を掌を覆い、首を少し下へ傾け、ルカの鼻を摘んだ。


すると、ルカの体は呼吸をしようと空気を飲み込もうとしたお陰で、無事回復薬を飲ませる事に成功したのだった。


 呼吸で生きている事も確認できたので、あとは意識が戻るのを待つだけだ。ポーションは治癒の効果しか持っていないので眠りから覚めたり、脳が覚醒したりすることはないので後は時間の問題だ。


「真由花、安心しろ。もう大丈夫だ。」


肩に手を置き、少し引き顔になってしまったが笑顔を作ってみせた。


「あ......りがとう。」


何故だか、俺の胸におでこをくっつけるように俯いていた。

静かにその頭を撫で、少し辛い中腰姿勢のまま暫らく動くことはできなかった。


 泣きじゃくる奴を宥めるのは得意ではないが、一人の女の子を慰める位なら俺にでも出来るらしく、このくらいでいいのならば幾らでもやってやるが使う機会は少ないに越したことは無い、人の涙を見るのは別に面白いものでもあるまい。


それに女の子は泣かせるよりも笑顔にしたほうが可愛いしな。


「ほら真由花、そろそろいいだろ?ほら笑えっ」


胸から頭を動かし、俺の目の前に現れた目尻が赤い顔の頬を横に引っ張った。

その頬は柔らかく、手に吸い付くようだった。


「いだいよぉ~」


変な喋り方になり、少し面白可笑しく少し笑ってしまった。


「癖になる感触だな!お前が泣くたびやってやるから覚悟しとけよ!」


頬から手を離し、真由花の顔をじっと見つめる。



「痛いのは嫌だしね、私強くなる。」


 俺の言葉を聞いてなのか、自ら決心したのかそれとも両方であったかは、分からない。

人を殺すくらいの強さまでは要らない、自分の身を守る。それくらいであって欲しいと俺は願った、あともう一つ平和な日々に戻れるようにとも。




「んっ...ん......?」


寝言のようなものを呟き、ルカは意識を取り戻したようだ。


 真由花が大事に、膝の上で寝かせていた為非常にいい睡眠が出来たようだが、先程の奴等がいつ襲ってくるか分かったもんじゃない、と言うことで俺は一人周りを監視していたが目を覚ましたところで俺もそばへ寄り添った。


「おいルカ、俺が分かるか?体は大丈夫か?」


立て続けに質問を重ねた。


「えぇ.....私よく生きてたわね。確か剣でここを......」


そう言いながら脇腹をさすっていたが、そこには傷はもう無く。完全に回復しているようだった。



「まあよかった。真由花がとても心配してたからな。」


ルカから真由花へ視線を移す。


「そんな事言って~!ルカ、本当はね?カズサも相当心配してたんだよ?ちょっと恥ずかしがっているみたいだけどね。」


事実その通りなのだが、言葉に出すのは恥ずかしかったので省いたのだけど、真由花が口にしてしまったので今更恥ずかしがる理由もあるまい。ここで否定すれば余計にからかわれそうだし。


「ああ、本当に心配したんだぞ。あと一秒でも遅かったら死んでいたかもしれないし焦ったぞ。」


「ごめんなさいね、貴方にも心配を掛けたようで!ぷっ......あははは......普段そんな心配してなさそうだからなんだかこそばゆくて」


笑える元気が取り戻せたらならば、俺はこいつを助けられた。それだけで俺はとても満足だった。

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