突然。。
粛として声もなしという言葉が、ぴったり当て嵌まりそうな静けさを憶える。
耳に聞こえるのは揺らめく波の音。
海はいい、語りかけても同情や憐れみを受ける事もない、そう海は寛大な器の持ち主だと思うのだ。
そんな海を見習って同じく大きな器を有したい俺だが、何を言われても怒らず、何も言わないだけの存在は人間としての器の大きさとは違うのだと思う。それはただの無関心な人間であり、その心を持ってしても人間らしい器の持ち主とは呼べないのだ。
他人に無関心な人間も人間らしいといえばらしさだと取れるが、そのような人間は存在しないだろう。
ただ誰かに干渉する事を恐れ、関わる事から目を背けるに過ぎない。その結果俺のようなぼっちが存在するのである。
だが最近はぼっちとは無縁になったのは、誰かに関わろうとする意識が俺の中で膨れ上がったのだろう、なのでここで俺がぼっち脱却の秘訣を伝授しようと思う。
とりあえず剣を持ち、その辺をぶらぶらして危ないところを助ける。
是非みんなにも試していただきたい。恋人が出来ただとか友達ができました!とか色々なお便り待ってます。
とくだらない事を考えてる俺に二人揃って裾を引っぱられる。
「ちょっと、誰もいないじゃない。それに風や音が感じられなくてなんだか不穏だわ。」
「私も、誰もいないんだけど、何だか不安な気分になるよ。」
裾を引っ張る姿は女の子らしくて可愛いなぁとか思っている俺とは裏腹に、なにやら漂う不穏な空気を胸に抱いていたようだ。
「まあお前らがそういうのは分かった、けどな他に行くところもねーし。ここまで着たんだから今更という訳にも」
二人を宥めるような、説得するような言葉を掛ける。
「そうね、私達の杞憂だといいのだけれど。」
「それもそうだよねー。行くしかないかー」
多少の不満は残りつつも、この場での足踏みを終えられそうで安心した。
コンクリートで出来ている防波堤の先に何が待っているか俺達はまだ知る由もなかった――
「慎重によ。慎重に。」
「分かってるよ、そう急かすな。」
「なんだか忍者みたいでわくわくするね。」
誰もいないだろう場所なのにも関わらず、忍び足の三箇条を忘れずに守っていた。
先程あんな事を言って仕方無さそうにしていた俺だが、何故だかワクワクしていた。
皆で何かをやるというのは新鮮味に溢れていて、とても楽しく感じられた。
が、ここにレイも居ただろうなと思うと、そんな気持ちはどこかへ消えてしまった。
あいつがどのような事情を抱えていようとも、もう俺達の仲間であり。独り欠けるなんてとても寂しいじゃないか。
まるで独りぼっちの俺を思い出すかのような気分にさせられた。
独りの俺は周りからとても惨めに思われただろう、親に心配も掛けたかもしれない。だけどそんな俺だからこそ、ここでこいつらに出遭うことができたのなら後悔などあるわけがない、むしろ感謝するレベル。
そう思うことができるというのはとても幸運だろう、だからこそ守らなければならない。
この平穏を壊そうと企む奴がいるのならば、そいつとは戦う運命にあるのだろう。
「なんだか怖い顔......してるわよ?」
顔に出ていたらしく、ルカに指摘される。
「生まれつきこんな顔だぞ、今までよく見てなかったからそう思うだけだ。」
悟られても構わないが、余計な事をさせたくなかったという俺の気持ちがあったので誤魔化す。
「そうだよ、カズサはいつ見ても格好いいというよりは可愛い系かな?アイドルとかにいそうな感じ。」
褒められるのに悪い気はしないが、男としては格好いい、渋い系を狙いたいところである。だからといって髭を伸ばしても似合わないだろうし、すぐこいつらに剃るように勧められそうだな。
「ありが――
そう言い掛けた所で周りの茂みから人影がざっと十人程の人物が登場なされた。
俺は踵を返し、突然の事で驚いていたルカと真由花を背中に携え、握っていた剣を構えた。
「一応聞くがお前らは敵か?」
強襲を狙ったかのような相手の颯爽とした現れ方、全く人の気配など感じなかった。俺もまだまだ修行が足りていないみたいだな。
相手は有無を言わずお互いの顔を合わせ、何かを確認したような仕草をした後に、第一陣らしき五人が俺達を囲うようにして武器を振りかざした。




