海辺。
現在時刻は午後九時四十七分、普段なら暗くなり始めたくらいなのだが、火明かりに灯されているので暫らくの間周辺は明るいままだろう。灯火が消えるまでがタイムミリットだろう。暗黒の中、彷徨うのは危険だろうしな。
いつ消えるか分かったものじゃない火なので、行動は早く動くに越したことは無いだろうが中々に疲労感の蓄積をしているので若干の眠気はあったが、頬を両手で叩き気合を入れなおした。
「うしっ、行き先は決まった。急ぐぞ!」
俺の声よりも、突然俺が自分の頬を引っ叩くのに驚いているようだった。
「そう。で、どこへ向かうの?」
相変わらずな関心の薄さを感じさせる口ぶりだったが、最近はこういう奴だと理解し始めたのでこれがデフォルトだと分かる。
他に行く場所が思い当たらない俺だったので迷わずに即答する。
「海だ、ここから少し行ったところにある。」
そう、フラに進められてランニングコースの最終地点である海。
他に行く場所が思い当たらないと問われればその通りであるのだが、海以外の場所は知らなく道筋も危ういのだが海へならば、何度も足を運んでいるし、そこまで複雑な道でもない。
あとここから離れれば辺りは夜だ、眼が慣れたといって昼間と同じくらいに見えるわけでもないだろう、レイだと違うのかもしれない。開けた道の方がいいのは確かなのだが、此方からも見やすいってことは相手からも丸分かりという事なので多少はリスクが上がるだろうが、それでも此方三人だ、真由花は戦えないが俺達の仲間だと思われることが威嚇にも繋がるので人が大いに越したことは無い。並びとして先頭に俺が立ち、真ん中に真由花を挟み最後にルカを立たせれば陣形の完成である。
「私はどうしたらいいかな?一緒に行っても何も出来ないよ?剣を貸す位なら出来るけど......」
戦えない事を後ろめたそうにしているが、真由花にはそのままの真由花でいて欲しいという俺の気持ちもあるので、普段から慣れていないととてもじゃないが一方的にやられるだけだろう、基本的にはルカに守ってもらうとして俺が戦おうと考えているので、真由花の出番は無い事を心から願った。
「いや、ここいても同じ事だ。それに剣なんか無くたって、俺を仲間だと思ってくれるその気持ちさえあれば俺は何百倍にでも強くなれそうだ。」
その後に訪れる沈黙......
「う、そ、そうなんだ。じゃあ、あと十回云えば千倍になったりするのかな?あはは」
真由花は何故か照れて言葉が震えていた、気持ちの持ちようの話だったのだが。どっかの正義のヒーローのような、臭い台詞を吐いたと、気恥ずかしい気分にもなったが緊迫した気持ちが和らいだようにも思えたし、期待に応えられるよう頑張ろうと思えた。
「こう言ってまうとアンタに全て擦り付けるみたいで嫌だけれど、頼りにしてるわよ。」
珍しく、いや珍しくというより初めて、ルカのデレを感じたので、なんだか嬉しい反面不気味でもあったが今は、ふざける場面でもないし、誰かに頼りにされてもらうというのは心地がよかった、自分の居場所があるみたいで。
「ああ、精一杯頑張らせて頂く。」
そう返答すると同時に全員で顔を合わせ、俺が先導し海へ向かった。
「私ここはじめてくるかも。」
「えぇ、私もよ。」
女子二人は海に行ったことがないらしい、男の俺よりもこういう事には興味がありそうなものだが。ルカはこの世界の初日から、ほぼ一緒に行動してるから分かっていたが、真由花も初だとは思わなんだ。まあ、一人でこういう場所に来てもつまらない物だとは思うけどな。
「この時間だし海は眺められないけどな、足元と周りに気をつけろよ。」
ランニングコースにしてるだけあり、森の獣道とは違い歩く道は出来ている。周りが静寂に包まれており、動物の音や風で木が揺れる音も感じられない程の無音、無風で逆に怖くなるくらいである。
ここで何らかの人物がいれば音が立ち、直ぐ気づく事は出来るが、暗闇での戦いは難しい。
洞窟での戦いで多少は慣れているが突然の事態には対応がしづらい部分はあるが、一人ではないので周りを頼りにするというのも一つの手かもしれない。勿論戦うのは俺だが、第三者からしか分かりにくい部分とか。
「意外と気が利くのね。先導してる貴方に比べれば私達は安心よ。」
ふふと微笑するが、表情は暗闇で伺えないのだが、怒っていないことは分かる。
「カズサはいつでも意外と紳士だよ?ね?」
と俺に投げかける、答え辛いので止めていただきたい。
「ま、まあ誰からも恨まれないがモットーで生きているからな。」
適当に思いついた言葉を並べたつもりだったが、少しは本音も混ざっていた。
「何それ、変な生き方だけどカズサらしくていいと思うよ?」
真由花はからかうような上擦った声だったが、辺りに人の気配がしないうちは気分が紛らわせていいのかもしれないな。
「そりゃどーも。」
どうやら最近俺を持ち上げて反応を楽しむという悪質な行為が蔓延っているようなので、男側にも仲間が欲しい。女の子が嫌だと言う訳じゃないが、男の親友が欲しいです。
いそいそ歩き、漸く海が見えた。




