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ふぁんたじーわーるど  作者: あっぽ
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瀕死。

火とは恐ろしいものである。火が誕生した事で文明が発達したと言われるほどの力を秘めているのだ。


 汗が幾ら拭ってもまるで噴水のように噴き出る、それほどまでに室内の温度は高く、自らの体温も上昇しているということだろう。

強靭な精神の持ち主ならばちょっと熱すぎるサウナだと考えて耐えられるのかもしれない、だがサウナとは我慢した先の水風呂があるのが救いとなり、相対的に我慢する力を高めているのだと思う。

 本来サウナとは痩せる目的が多数を占めているだろう、中には健康や汗をかくのが気持ちがいい人がいる。俺は特に痩せる理由も無ければ、健康や汗をかくのは充分間に合っているというのも起因しているかどうか不明な所ではあるが、苦しい。

 とてつもなく呼吸が出来ない、それにこの宿の広さだ。工房とさほど変わらないかと思いきや部屋数が段違いに多いのだ。

部屋のノブは溶け、とても触れた物じゃないためドアを蹴破っているのだが扉も燃えているので足まで燃え移ってしまうのだ。その時の体へのダメージ、それに呼吸もしにくいという精神的苦痛も少しずつ積み重なって、もう諦めてもいいんじゃないかという精神の葛藤も存在した。


「待ってて......くれてるもんな......」


 喉から僅かに掠れ声だが声を出す事がまだ出来た、自分の指、手は真っ赤に変色し皮膚が少し剥がれている自分の腕を見て体は大切にしようと思う反面、もう少しだけ追い詰めるくらいなら持ちそうだ。限界まで達したならば残り少ない回復という手段も残っているが、ある程度の熱さになれば感覚など無くなり、痛みもないのだが回復した直後は皮膚も再生されるようなので再び燃える、火傷という痛みを再度味わう事になってしまう。

 

 誰かの為に俺は頑張れるといいな......



「ここが最後の部屋か......」


目の前のこの部屋というより建物が形を崩し始め、時間はそう残っていないようだ。


急いで中を調べようとするが、扉に蹴りを入れてやってもびくともしない。何かが引っ掛かっているのだろうか?


 蹴っても動かないとなれば斬ると言う発想もあったが、この熱さと腕の状態では振る事はおろか握る事すらままならないだろう。

ドアも燃え盛っているが、他に方法が思い浮かばないので残りの力を全て使うくらいの力を振り絞り体でこじ開ける作戦にでた。


「ふぅー......んっ......」


肺から息を全て吐き出し、余計な煙などを吸わないように息を止め、渾身の力を込めた体当たりをした。


しなやかな木が折れる音と同じくらいの勢い、音と共に扉は開かれた。扉に移っていた火が服に引火し、なんとか消化というほどの事はできないが火を掌で握り潰した。


「っ......」


手に火傷が増えたが、感覚など既にないので痛みは感じないが、条件反射的に反応をしてしまった。


 ここの部屋に何も無ければ急いで脱出なのだが、煙が強く、目を開く事が出来ない。

目が痛みを感じるため体が勝手に目を瞑らせてしまうのだが、回復すればこのくらいは幾らでも回復できる。今は痛みに耐えるだけだ、あと少しの辛抱だ。


 目に入る煙でピントが合わないが、ぼやけて見るくらいはなんとかなりそうだ、辺りを見回すが人らしき物体は見当たらない。

この部屋にも何も無さそうだ、死体が既に燃え尽きてしまっているとも考えたがこの宿に入ったとき全体には燃え広がっていなかったのでそんなに時間は経っていないと推測できる。


「戻れ...るのだろうか...?」


意識がぼやけはじめる、手足を上手く動かせない。全身が麻痺しているみたく、体重を支える力も抜けていきそうだ。


なんとか回復を使用する事が出来ればいいのだが、意識がはっきりしないからかストレージを表示する事ができない。

手足の力が抜け、膝がガクンと折れその場に倒れ――




倒れそうになった俺の体を誰かの腕が支えていてくれている、この火の中へ誰かきたのだろうか。危ないから早く逃げてくれ......


「しっかりしなさい!こんなにぼろぼろになって、ほら飲みなさい。」



「うっ....げほっげほ......」



回復ポーションを口にねじ込み、喉に液体を通してきた。

傷が癒える感覚が体に感じられ、全身の力が戻り、意識もはっきり鮮明に処理を行える状態に回復したようだ。


 俺の体を支え、この火の中まで来た人物はルカだった、俺を助けに来る可能性があるのはルカ位だろうと思っていたが本当に来るとは......情けない。あんな果敢に飛び込んでいってこれかよ......真由花に合わせる顔がないな。



「すまん、急いでここを出るぞ。話はあとだ。」


体を起こし、ルカの手を引いた。



「ちょっと!手......まぁいいわ......」


 手がどうとか言っているが、そんな事を気にしてる余裕は無かった。急がなければ再び火達磨を味わう事になりそうなので、天井から落ちてくるコンクリートなどを避けさせるべく誘導しつつ、出口に辿り着いた。


「危なかったところ助かった、改めて礼を言う。ありがとう」


先程までは皮膚が焼け、笑顔を作る事も痛かったが、回復してくれた事に心からの感謝を表す言葉と苦手な笑みを作った。


「ええ、間一髪ってやつだったわ。それとこっちなんて貸しがいくつあったか分かったもんじゃない、今更気にしなくてもいいわよ。それよりも――」




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