火熱。
燃え盛る炎の中を掻き分け、いくつかの火傷を負いながらもこまめに回復することで和らぐが、すぐさま炎々と燃え続けるのでいくらあっても足りないがそこまで大きな屋敷とかではないので、この工房くらいを探すのであれば手持ち分で持ちそうだ。
「ま.....ゆか......っ」
喉が焼けるような熱さで上手く発音できず、呼吸も厳しい。
自分が出来る精一杯を尽くすと決め、二十分の間探し続け回復が底を突きそうなくらいになったところで全て探し終わり工房から身を出した。
ここにはいなかった、亡骸のような物も見つからなかったし無事避難出来ているようでほっと胸を撫で下ろしたがまだ行くところは山積みだ。
宿にも行き、フラとレイも確認に行かなければなるまい。
そろそろルカが森を出た頃だ、被害に気づきうなだれているか、俺よりも先に宿へ向かっている事だろう。早く合流しなきゃな、周辺に敵が居る可能性もあるし単独行動はまずいだろう。あと真由花がどこへ行ったのかも調べる必要がありそうだ、一応戦えるルカが宿屋に行ったとすれば敵が居てもなんとか耐え忍ぶくらいは出来るだろう。だが普段から戦闘を好まず、職人の道へ踏み出している真由花は相手が一人だったとしても危ない。多少は戦うことは出来るかもしれないが時間の問題だろう。
宿屋へ真由花が向かっている可能性もある、ここは宿屋へ向かい状況もあるが、安全だと確認できたのならば真由花探しが最優先だ。
これからの行動が決まったとなれば後は動くだけだ、行動に移すのみ。
「ここから走れば十分程か、まだ体力は大丈夫だ。」
焼けた喉の回復具合を確認し、体にはもう少しだけ頑張ってもらおう。
燃焼し続けている工房を背景に俺達の住処へ、一心に足を動かす。
五分程だろうか遠目ではあるが宿屋が見えた、もしかしたら......というほんの少しの希望は打ち砕かれた。
「そんなうまくいかないよな......これも俺があいつ等に手を出したからか。」
自分がした行いを今更悔いるような事はしたくないが、行動に疑問を抱くようになった。
「やっぱり俺は一人で居るべきだったのかもしれない......俺が誰かを助けたいなんて痴がましかったんだ......」
ふと今までの自分を振り返るような台詞を溢す。
そこへ思いもよらない人物が声を掛けてきた。
「どうしてそんな事を言うの?カズサは誰かの為にいつも頑張ってると思うよ?」
一度は死を覚悟していた人物、俺が死ぬほどの思いで探していた人。
いつもと変わらない髪形で少し顔に煤がついてそれを拭おうとしたような痕が見られるが、特に怪我をしている様子ではなかった。
「そう言ってくれる奴がいてくれるなら俺はまだ大丈夫だ、無事だったんだな......」
感極まりそうな気持ちになるがいまはぐっと堪えた。
「こんばんは!こんな時にまた会うなんてね、突然の事で驚いたけどなんとか生き延びれたよ。宿屋のみんなが心配になり放火魔が居る可能性も考えて影に身を隠しながら静かに歩いていたら突然走ってくる人が居るんだもん。必死で息を潜めていたら見たことある影だったから、安心して声を掛けれたよ。」
自分の家とも呼べる工房が燃えても、彼女はいつもと変わらないくも感じられるようではあったが、少しだけ苦しそうな笑みを作った。
「そうか、これからどうする?俺は引き続き宿に向かう、付いてきた方が安全だと思うが。」
「最初からそのつもりだったし、一緒に居た方が色々心強いでしょ?頼りにしてるよ。」
即答でそう言われ、少しの照れくささはあるが今は他にやるべき事がある。
「少し走るが大丈夫か?痛いところとかないか?」
見た目では気づかないところを怪我している可能性を危惧した。もしも敵が襲ってきたとき逃げられないとなったら困ってしまう為だ。
「大丈夫、気づくのが早かったお陰で殆ど無傷。戦うことは出来ないけど走る位なら出来るよ。」
大丈夫だと体でも訴えかけるように軽く飛び跳ねたり、ストレッチをしていた。
これなら安心だと、再び肩で風を切りながら駆けた。
顔だけ振り返ると少し遅れるくらいで、軽い足取りで付いて来ているようで顔を戻し前だけを見た。
建物に近づくに連れ、熱気が凄まじいが工房よりはまだ燃え広がっていないようだ。
入り口の扉の前には誰の影も見当たらないが、真由花のように身を潜めている可能性もある。その場合は恐らく顔見知りが出てきそうなので真由花だけ残しても大丈夫だろう。
宿の目の前で足を止め、続く真由花の足も止まった。
「真由花はここで待っていてくれ、さっきみたいにどっかに隠れているかもしれないしルカも周辺にいるはずだ。中は俺が確認するから何かあったら叫んでくれ。」
そう言葉を残し、頷いたのを確かめてから迷わずに火の海への扉を開いた。
工房よりも広く燃えていた、足場など無く足元が焦げるようだ。
みんなで囲っていたテーブルや椅子、キッチンなども全て全焼し燃え止しだけが残っていた。
日々を思い出し、涙腺が若干緩むが物はまた買えばいい。皆さえ無事ならば幾らでもやり直せる、その日々を取り戻すべく火傷や痛みに耐えながら必死で駆け巡った。




