笑う。
「おい、ガキ。お前今までどれだけの人を殺したんだ?」
相手の男は憎しみと悲しみを目に宿し、俺に言葉を掛けてきた。
俺はその言葉に対し答える気など無かった、いつ隙を突かれるか分かったもんじゃないし、それを話したとして何が変わると言うんだ。
人が人を殺すのは思ったより単純な理由なのだ、ある奴は快楽、ある奴は憎しみに駆られ、あとは誰かを守る、助けるためだ。
暗闇で剣の輝きは分からない、でも相手の剣には僅かながら光を感じられる。
俺の剣にはその輝きが失われていた、返り血で染まって。
軽く剣を振り、乗っかっているだけの血を払い落とした。
その動作に反応し、相手も臨戦態勢を再び作り直した。
「小僧、俺を舐めてもらっちゃ困るぜ?お前に殺されたそいつは油断していたようだが、俺はそうはいかないぜ」
相手に戦う意思を感じたところで俺も武器を構えなおした。
言葉を発しない予定だったが、一言ばかり掛けた。
「そうか......」
たった一言、抑揚のない呟き。
こいつのようにペラペラ話すほどの明るい気持ちにはなれず、ただ悲しかった。また一人殺してしまうのかと。
「クールぶってんのか知らねぇが、お前みたいなガキに負ける訳にはいかねーんだよ!!」
自分に言い聞かせるように男は言い放ち、右足で地面を蹴り飛びかかった。
間合いはそれほど距離は開いてなく、飛び掛ってくるまで点一秒も掛からなかった。
男は剣を両手で持ち、右肩と右腕を背中に引っ張り、左腕は脇を締め右手を支える形で握られていた。全身全霊の力を込めて険しい形相でその身ごと、俺にぶつかる位の勢いを纏い俺が、仲間らしき奴を刺した場所へ剣を突き刺すべく狙いを定めてきた。
「しねっ!」
戦いの最中に話しかけてくるような奴は殺された仲間と深い関わりが有り、そいつが死んで悲しい事を殺した奴にぶつけようとするとか考えている。自分の仲間を殺した奴をあっさり殺してしまっては面白みに欠けるというものなのだろう。
その結果、相手に屈辱的な敗北を求めたりするものだと思い、すると殺された時以上の辛さまたは、それか仲間同等の苦しみを味わせようと心臓を狙ってくるのだと最初から考えていた。それに心臓以外を狙っても意味はない、一撃で殺さなければ俺にはルカという仲間がおり、それ以外の場所を攻撃したとしても時間は幾らでも稼げてしまい回復は容易い。
それに比べて心臓を一刺ししてしまえば生命活動はすぐさま停止し、死へと到達するのだ。
以上の理由からして一撃で仕留める他ならない。
予想通り、心臓目掛けて放たれた突き攻撃。
心臓は真ん中に辺りにあるという想定で身を翻し、相手の渾身の剣は空を切った。
「えっ......」
相手は攻撃を立て続けに出そうと剣を戻そうとする。
避けた時点で攻撃へとシフトしていた俺は、相手の剣を握っている手首を目掛けてドゥリンダナを振った。
「ああぁああぁぁぁ...........」
相手は絶叫し、手首から大量の出血をし強固に握られていた剣は地面に落ち、軽い金属の音を鳴らした。
男に戦う武器は無くなったが、それでもまだ負けてはいないと手がダメなら足と言わんばかりに蹴りを繰り出した。
「お前だけはっ!絶対にっ!!!」
その声からは怒りしか感じなかった。
その蹴りは遅く、先程の攻撃とは比べ物にならなかったのだ。俺は止めを刺すべく、空気を振動させてカチャンという音を響かせた。鞘に剣を仕舞った。
見た奴は俺以外全て死んだという悪魔的な異名が付けられそうな技、
――スレッドの準備を終えたのだ。
男に掛ける言葉は見つからなかったが、早く戦いを終わらせたかった。
いまの俺は余計な事を考えすぎてしまっていたので、発動を確かにするべく小声で呟いた。
「・・・・・・スレッド」
近くに居た男はその言葉が聞き取れたらしいが、何の意味かも分からない様子だった。
回避しなければならない蹴りであるが、多少受けてでも強引に持っていくことができた。
予想を裏切らず、腕が引かれ鞘から剣は飛び出し、薄明かりで鋭い輝きを放つ刃は相手の体を二つに切り裂いた。
「はぁっ......はぁ。」
連戦での体力の消耗は著しく、余裕に見えても息を止め動いている事は多かった。
戦いを終え、ルカが此方へ向かい歩いてこようとするがこの現場を見せるのは刺激が強すぎし気が引けたので、此方からも歩いた。
「あんた......どうして、いやまずはお礼ね、助けてくれてありがとう。アンタが来なかったら私......わたし......」
透明な無数の水滴が瞬きと一緒にはじき出される。
見かけによらず涙脆いやつだな、一日に二度泣くなんて滅多にある事じゃないだろうに。しかし、こいつがそう言ってくれるのだったらこのくらい大したことじゃない。あんな俺を見てもなお未だ、仲間だと思ってくれているという事だ。
「そんなに泣いていたら喉が渇くぞ?あ、でも痩せられるかもしれないな?」
精一杯の明るい気持ちで泣き止ませようと試みる。
「そう......ね。痩せられても、泣いて痩せたんじゃ誰にもオススメできないものね......」
「だから笑え、笑って痩せれば誰にでもオススメできていいだろ?」
目指していた、他の誰かには笑っていて欲しい。それはこいつ等の為に掲げた台詞でもあった。
「えぇ......帰りましょ!」
彼女は少し微笑み、少しだけ声のトーンも高くなった気がした。




