戦終。
左の岩陰からそいつは現れ、高らかに笑いながらも斧を振り回すのではなく、俺の頭部を目掛けてスイングをした。
咄嗟の判断ではあったが、じめじめして踏み込みにくい足場の中で右足で地面をキックし、右側に転がるようにして回避を試みた。
「がっ..っ...」
隠れる場所がいくらでもある場所に救われたというべきか、全方位に警戒していたからこそ左足に致命傷を受けただけで逃れられたのだが、左足が使い物にならなくなってしまった。これでは戦いもままならない。
「お前...まさか昼間の奴か!!戻ってこない野郎共を見る限り殺したな...?その歳で人を殺すとは正気の沙汰じゃないなッッ」
強面の身長百九十近くはあるだろう賊のボスらしき男は、声に力を込めてそう述べた。
この肉塊野郎の言う通りではあるのだが、こうさせたのはお前らの所為でも有り、ここに来てしまった俺の所為でもある。
つまりお互い様ってことだな。
言われるだけは性に合わないのだが、ここで変に刺激しては反撃を考える前に殺されそうなので頭の奥底へ仕舞っておいた。
「ガハハハ怯えて声もでないか?そんな奴にあいつ等が殺されるとは思えないけどよぉ~」
先ほど大きく避けた際にドュリンダナは二メートル前に転がっている、こいつの目がある今拾おうとすれば間違いなく殺しに来るだろう。
だが、それが狙いでもあるのだが一か八の賭けになりそうだ。
最初に考えてた秘策は潰れたのだが、新たな剣技を手に入れたことにより新たな秘策はあった。
今やれる準備は一つあるのだが、いかにして動くかだ。
下手に動けば狙われるのは分かっているのだが、少し動かなければ準備を完了することができない。
そこで俺が考えたのは、こいつはさっきから話ばかりをしていて殺しに来ない。きっとこいつは喋ることが好きなのかもしれないし、仲間を殺されたことにより気持ちを昂ぶらせているのかもしれない。
それがどっちだとしても俺の一言や二言くらいは聞く可能性は高かった。
「なぁ一ついいか?」
煽らないようにできるだけ落ち着いた声で話を振った。
「なんだ?」
「あっちにいるのはお前達が拉致したんだよな?」
と人差し指を指すことで一瞬、視線が完全に外れることは無いにしても指一本動かしたくらいじゃ気づかれる事はなかった。
拉致という言葉を使うことで戦闘心に火をつけてしまう可能性もあったが、もうこいつは戦う気持ちは溢れんばかりに持っていると踏み、このくらいじゃ驚かないだろう。
「そうだが?それを聞いてどうなる、お前この後に及んで何かしようとしているのか?」
そこに怒りはなく、余裕から生まれる話し方そのものだった。
だが俺の準備は終わった。
あとは動くだけなのだが、左足の痛みが心配ではあるがそこまで激しい動きをするつもりはないので大丈夫だと勇気を振り絞った。
「どうだろうなっ」
と言い放つと同時に目の前に落ちている俺の愛剣を拾おうと軽く地面を、残っている右足で地面を蹴った――
「まだ動けたのかクソガキが!死ねえええ!」
一気に臨戦態勢に戻り、再びデカイ斧を振り回した。
不意打ちで動いた事もあり、俺のほうが速かった。
剣を拾い直した俺は、迫り来る斧を迎え撃つべく行動に移そうとするが、左足が上手く動かなく体のバランスを崩し倒れこんだ。
「ガハハ、あの世で俺の手下どもと仲良くしてやってくれッ!!」
勝利を確信した笑みで倒れそうになっているところへ迷わず斬りこんで来たが、俺は精一杯の力でなんとか愛剣で斧を受け流す事に成功したが、剣を弾き飛ばされてしまった。
「ほう中々やるじゃないか、だがお前の剣はそれ一本のようだな?じゃあこれで仕舞いだ!!!」
再び斧を振りかぶり、俺を真っ二つにするべく渾身の力を込めているが、
――俺はこの時を待っていた!
もう俺に成す術はなく、目を瞑ってでも殺せると確信している今、こいつは僅かではあるが俺が何かをしてくるはずはないと油断し、確実に殺すために距離を詰めている。
「じゃあ!死ねっ!!!」
「悪いな、まだ死ねないんだ。」
左足立ちの低い体性のまま、出現してくるだろう剣の柄の部分に手を当て、俺は【装備しますか?】に対し、【yes】をタップした。
俺は声を発した。
「スレッド...」
そう頭の中で思想しながら、技名を言うことで発動を確かにし真由花から借りた、この片手剣が鞘から引き抜かれ振り下ろされた。
この大男すら剣技には耐えられなく、スレッドがもろに身に刻まれ人は肉塊になった。
「危なかった、本当に危なかった...」
戦っていた時間は短いが、とても長く濃い時間に感じられて、疲労感がオークなんて比じゃない程精神的にも肉体的にも消耗したが、このままじゃ左足が使い物にならないので回復ポーションを使用し身体は回復した。
「四人も殺した...しょうがなかったんだ。」
自分が手を下した事から逃れないように、忘れないように自分の言葉で改めて体に、心に実感させた。
はじめはただの保険で借りてきた真由花の剣だったが、結果的に俺の命を助けてくれた。
「真由花に感謝と汚しちゃった事を謝らなきゃな。」
ちなみにどうやって背中の鞘から真由花の剣を出現させたかといえば、いつも真由花が作ってくれた鞘にそのまま剣を入れるだけでその剣は鞘有りってことになり、次回から背中に鞘と剣を背負うことになるのだが、スレッドを取得した時にこれを思いつき使えるんじゃと思い、一度二本の剣をその場に出現させ、俺のドュリンダナの鞘がぴったり真由花の剣が入ったので鞘に真由花の剣を一度入れ、鞘有り状態にしてから真由花の剣を抜き、鞘は仕舞わずに剣だけをストレージに収納した。
その後ドュリンダナを鞘に仕舞ってしまうと、鞘はドュリンダナの物になってしまうのだがドュリンダナは手に握ったまま行動していたので鞘には仕舞う必要はなかったし、何よりこの作戦を奥の手にしていた。
ぶっちゃけ最初は使うつもりはなかったのだが、この手を準備しておいて本当によかったな。
あとちょっとした準備の時はアイテムストレージを開き、【装備しますか?】の状態を表示したままあいつと向かっていたのだ。
もしアイテムストレージの表記が他人に見えるや言葉に発しないといけなかったら勝ち目はなかったと本当に紙一重だとも思うが、その場合は違う方法を使っていたかもしれないな、思いつかないが。
「さて、囚われのお姫様を助けに行こうとしよう」
声が聞こえた奥に向かい、のんびり歩き始めた。




