暗。
皆が寝静まったであろう深夜一時。
俺はまだ眠れずに居た、いや正確にはこれからの安眠のために戦わらなければならなかった。
俺とルカの部屋は遠く、ちょっと物音を立てたくらいでは気づくことはないため部屋から出るのは容易なのだが問題は宿屋の大きな扉である。
鍵は掛かっていないと思うが、ここは宿屋だ。いつ誰が来るか分からないがいつでも気づけるようにフラの部屋は近い。
音を立てれば百パーセントばれる、普通ならな。
だが今日は違うのだ、偶然にも毎週この日は村のおっさん共が飲み会に誘いに来るのを俺は知っていた。
それも一人じゃなく何十人と誘いに来るので行かざるを得ない状況にされるのを嫌がっていたがそうでもしないとフラは拒否するので大人数で押しかけてくる、それに紛れて抜け出すのが最初の関門だ。
その様な事を考えていると、もうすぐその時間になりそうなので部屋から出る用意を済ませた。
五分後...
――きた!
今がチャンスだと睨んだ俺は部屋から勢いよく飛び出したい気持ちを抑えつつ、静かに扉を開き、大人数を躱しながら酔っ払いに紛れて宿屋を抜け出した。
「はぁ」
軽く息を吐いた。
第一関門で息が詰まりそうになっていたので、突破して少し安堵しそうにもなったが、これからだと気を引き締めた。
音や声を気にしなくてよくなり若干身軽になった事で、頭がすっきりしこれからやるべき事を呟いていた。
「まずは武器装備で、それからはあの洞窟目指そう。だが辺りは真っ暗で何も見えないが森に関しては、ほぼ真っ直ぐでいいから迷うことはなさそうだな」
声に出すことにより自分に言い聞かせ、森へ向かい歩みを始めた。
「ここからは敵が出るから武器装備しなくちゃな。」
ストレージを開き、ドュリンダナを装備し、背中の剣をさすった。
「よし、いこう」
勇気と剣だけを持ち、暗い森を歩いた。
だんだん暗さにも目が慣れてきた頃、ゴブリンが出てきていい腕試しになったと思いきや、なんと俺のレベルが上がってたのだ。剣技ではなく俺自身の。
何時もなら、何の変化も無い為気づかないが、今日は特別自分の能力などを確認した事で気づけたのだ。
なにが変わったのかと思いきやいつも通りなのか、まだレベルが低いからなのか特に変化がないように思えた。
が、
人間、普通レベルが上がれば何が変化したのか全部のステータスを確認するはずである、剣技、スキルを確認した時に気がついた。
「剣技 スレッド・・・?」
スキル、剣技の欄には確かにそう書かれていた。
まだ一度しか経験がないが、前と同じく何の説明もないので使ってみないと分からないが、前と違い全く分からないのでゴブリン相手に使ってみるとしよう。
できれば朝方までには終わらたいので時間はそれほど無いが、ここに割く時間は無駄ではないだろう。
二回ほど使ってみたがスレッド、この剣技は納刀状態から発動するらしく、所謂不意打ちのような攻撃だ、納刀状態で剣柄を握り発動させることにより鞘から剣が抜かれ高速で目の前を縦に斬り下ろす。威力は相当高い分当てるのが難しい剣技のようだ。
暗い森を抜け、オークが出現していた場所へと辿り着いたが、まだ出現してないところを見ると再復活は相当時間がかかるらしい、今日の場合は有り難い限りだ。
オークが第二関門だったのだが、無事クリアできて関門も残すところあと一つ、一番大きな門だ。
ここからは足音を出来るだけ消しながら洞窟に近づく。
洞窟の周りの見張りのような奴らはいないようだ、だが夜になってもいないところを見ると、もうここにはいないんじゃと考えが巡るが、さすがに昨日の今日で急いで拠点を変えるのは厳しいだろうと思う。
いなければいないで諦めて帰れるのだが、洞窟の中を見ないと分からないが無闇に入るのも躊躇われる。
いつまでも立ってても仕方がないので、できるだけ静かに歩んでいくが手で呼吸音を塞ぐのはいきなり出くわした場合対応できないので、右手は剣の鞘を握ったままだ。
五十メートル歩いたところで、三十メートルくらい先から、なにやら話し声というより、でかい寝息のようなものが聞こえる。
正々堂々と戦うということに拘ってるつもりは無いので、寝込みを襲うのも普通に戦法の一つだと思いこの時間なのだが、殺せるのは精々一人だ。
一番強そうな奴を狙うのがいいと思うが、そういう奴に限って図体がでかく死ににくい傾向にありそうなので、確実に一人を減らせる弱そうな細い奴を狙う。
ここから見える人数はおよそ4人、ゴブリンのときより多く、恐らく強い。
だが、人質のようなものは見えないので俺の勘違いだったかとも思ったが――
「助けてええええ」
女の甲高い悲鳴のような声が洞窟に反響した。
突然の声で俺も驚き、動けなかったがすぐさま岩の陰に隠れた。
まずい、全員目覚めてしまい四対一になってしまう。そうなると俺の勝機は限りなく低くなる。
「うるっせぇなこのクソアマ!死にたいのか?おい起きろ侵入者がいるみたいだぞ」
一番強そうな筋肉が隆々としてると思いきや、ただの脂肪がついた中年のような奴が目を覚まし、仲間を起こしている。
「へへ、久々の獲物か~?女だといいなぁ、この人質には手出せないからなぁ」
「この洞窟は一本道だ、お前らいけ」
「「「うーす」」」
左右を散策しながら此方へ向かって足音を鳴らしている。
姿形は分からないが、恐らくの身長は昼間見たので暗闇でも対処できるし、あいつ等はまだ寝起きだ。目が慣れていないに違いない。
攻めるなら今だ。
そう決心した俺は手下のような三人組へ向かい走った。




