盗。
洞窟の中とは何故こんなにも涼しく感じるのだろう、単に日が入らないから涼しいというのもあるかとは思うが、見た目から清涼効果を感じるのが大きい気がするのである。プラシーボ効果という言葉があるように、想像力という力は大きいのだと思う。実際にそんなに涼しくなくても、ここは涼しいはずと強く思えば涼しく感じる。
心頭を滅却すれば火もまた涼しという、ことわざが生まれたのも頷けるということだ。
俺達は薄暗くけれども何も見えないというわけでもない、洞窟の中を歩いて百メートルかそこらの辺りでとんでもない物と出逢ったのだ。
「なぁ、あれは俺の想像通りのやつで間違ってないよな?」
俺は若干しどろもどろになりながらもルカの方へ顔を動かし、小声で呟いた。
「ええ、私も同じ事を考えていると思うわよ。すぐさまここから離れるべきよ、とてもじゃないけどあいつ等は・・・。」
俺達が発見したのは盗賊のような山賊のような四,五人集まって何やら話をしているらしく、薄暗い事が幸いしたのかまだ気づかれてはいないようではあるが、時間の問題だと思う。
大人しく退散するというのは正しい判断だと思う、とてもじゃないが人間相手に戦える程の精神力と実力は持ち合わせていない。いくら、どんなに悪いやつ等だとしても、人の姿をしたやつを殺すことは慣れてないし、馴れてはいけないんだと思う。
と考えていたその時、あいつ等が一斉に息を合わせたようなタイミングでこちらを見た。
「おい、誰かいるぞ!」
「何!?捕まえろ、コレを見られたかも知れん!」
いかにもって感じの髭を生やしたボス的な男が、洞窟に響く大きな声で叫んだ。
「ばれたわよ!逃げなきゃ!」
逃げなきゃ行けない事は分かっている、だがあいつが俺達を捕まえようとする理由は、見られたらまずい物を見られたくらいで俺達を捕まえようとする。そんなにも見られたらまずい物をあいつ等のような盗賊の様な輩がそう手に入る物だろうか?
物じゃなく、者の可能性が高いという事だ。
だがしかし、人の声などはしなかったがばれてはまずいのに声などを出せる状況にしているとは考えがたい、恐らく人でも攫って売り飛ばせば金になるのだろう。
それはこの世界でも普通にあるということだ、それにこんな何も無い村の周りであるなら尚更人目に付きにくいと言う訳だ。
盗賊などが生きていける理由はそれが無くなる事がないからだろう、需要は十分という訳である。
真相がどうであれ、人を助ける余裕など無く自分の命も危ういという状況なのによくもこう頭が回るものである。
我ながら関心しながらもルカの言葉に耳を傾け、返答していた。
「そうだな全速力で走る以外ない!しっかり着いて来いよ」
俺はそう言い残し、自慢の体力をフルに発揮とはいかないにしろルカが追い付けるか危ういレベルのスピードを維持する事で、徒競走などで速いやつと走ると足が速くなる的な効果を期待して早く走っていたことも理由の一つではあるが、何より振り返り、あいつ等に捕まったら何をされるのか考えてびびって走れなくなる、または躓いて転んだりされたらどうしようもなくなってしまう為、常に全力疾走レベルで走っていないと俺を見失うという優先度の高い別の目的へ集中させる効果も考えていた。
一、二分走ったところで、オークと戦った場所へ戻ってきたがオークはまだ再復活していなく、足止めを喰らわなくて済みそうだ。
何時かはどのくらいで復活するのか検証をしたいところではあるが、気が遠くなりそうなのでやはり辞めておくとしよう。
森の中へ入り三分程経ったところで足を止め、ルカと合流した。
ルカは相当息を切らしており、足がおぼついている為また走るのは厳しそうな所ではあるのだが、あいつ等に見つかったらまた走らないといけない為出来るだけ休ませてやりたいところではあるが、そんな状況で息を潜めろとは無理な話だと思うが、ここは獣というかゴブリンがたくさん生息しているので潜める必要は大して必要ではない、ゴブリン如きであるなら俺一人でも余裕で片付けられるので出てくるのも構わないのだが、今の状況では辞めていただきたい。
「大丈夫か?あいつ等はまだ追ってきている気配を感じたか?」
森に入るまでは追ってきているのをルカが着いてきているか確認するついでに視ていたのだが、森の中は視界が悪くルカを確認するので精一杯だったのだ。
「そうね、大丈夫じゃないけど大丈夫よ。分からない。アンタを追いかけるのに夢中だったわ。」
大丈夫と言える元気があるなら大丈夫なんだろう。具体的に何が大丈夫なのかは分からないが、酸素は大丈夫か?血液は足りているか?などと細かいことを聞いていったらきりがないので、自分の事は自分が良く分かるらしいし本人の判断に委ねるとしよう。俺を追いかけるのに必死なのは目論見通りでいい事なのだが、生憎俺はアイドルや人気ロックバンドなどではないので追いかけはやめて頂きたいところである。それに、人によってはある意味告白をしているのと変わらないくらいの大胆な台詞であるのだが、ただの言葉通り追いかけさせたのは俺であるため何も言えない。
「まあここにいても安全って保障はないし、とりあえず今日は帰るか」
ルカも静かに頷いたので、俺達はのんびりだが周りに気を使いながら帰路に足を向けた。




