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「あいつの奥に洞窟のようなものが見えないか?」
確かにオークが歩き回っている奥に空洞が遠目だが確かに見えるのだ。
「え?見えないわよ、あんた凄く眼がいい?それとも嘘?」
「嘘じゃない、確かに見える気がするんだが...お前の所為で気のせいかもって思うようになったじゃねえか。」
「まああんたの気のせいか、本当かはあいつを倒せば分かるでしょ。成長した私達の力を見せてやりましょ」
自信気な顔をしながらも少しビビッているらしく背中の剣の柄を握ろうとする手が震えている。
「よしじゃあ作戦はこうだ、俺が突撃する。続いてお前が攻撃する!以上だ!」
初撃というのは重要だ、どんな獣やモンスターであれ最初に目視した物を狙う傾向があるとこれまでの浅い僅かな経験ではあるが、感じている。
「そうね、それ以外にないし。お互い危なくなったら離脱後、回復という形にしましょう」
「ああ、分かった。剣技に関してはあいつの動きを見計らって使うことにするよ」
「頼んだわよ、それの威力は相当の物だから。要といっても過言ではないわ」
その名に恥じない程の威力を発揮するが外した時の隙が大きいなんて物ではなく、リスクは相当に高い。特に一発が大きい相手では連発などは怖く、相手が避けるなどのアクションをする可能性もあるのである。
「よしいくぞ」
俺は前回より大きく感じるオークに向かい、草木をぼきぼき折りながら走り剣を抜いた。その後ろから俺を追いかける形でルカも走り出した。
今回のオークは一味違った。
オークは驚く事はなかった...落ち着いて斧を持ち上げこちらに向かい迎撃体制をとったのだ。
振り下ろしなどの単調な攻撃は前回見ているので回避することは容易いが、回避するだけなら前回と大して変わらない、俺はこの一週間近くを無駄にしていた訳ではなく、こいつを想定してずっとずっと...脳内で戦っていたのだ。現在戦える上で最高クラスの相手なので相手にとって不足はなかったし良いイメージトレーニングになった。
走る俺に向かい、横振りで斧をプロ野球選手のスイングのような速さで風を切りながら斧は迫ってくる。
が、俺は今は一人ではない。
斧さえ何とかしてしまえば後ろに続いているルカが攻撃を与えられるし、俺が避けてしまうとルカが被弾してしまう可能性もある。ルカも俺を信じているのか、斧が迫りつつある状況でも避ける動作はせずいつでも攻撃できる態勢を作っていた事もあり、俺は多少迷ったが斧を何とかする方向に決めた。
何とかするといっても方法は限られるが一番安全かつ現実的なのは前回同様弾くがいいと考えた。
俺は握っていた剣で、斧の下側を狙い斧を空に打ち上げる感じをイメージして横から迫ってくる斧に若干の恐怖を抱きながらも、ここでびびっていてはこれから何が起こるか分からないこの世界では生き残れない気持ちが、俺の背中を後押ししてくれているようでもあった。
金属バットでボールを叩いたような綺麗な音を出すことはなく、鉄の剣で石を叩いた時のような鈍い音が静かに鳴ったと同時にオークの重い斧を綺麗に弾いていた。
「ッ!いまだルカ!」
俺は顔を動かす事はなく、だがルカに聞こえるくらいの声量でそう発した。
ルカは待っていたと言わんばかりに両手で握っていた両手剣を大きく振り下ろし、着実にダメージを与えた。
その瞬間、
「まずい!ルカ避けろ!」
俺が声を出したら俺に気を取られるとも思ったが出さずにはいられなかった。
俺が上に弾いたからなのか体制を崩しながらもルカに標的を合わせ、空高く上がった斧が勢いよく振り下ろされたのだ。
前と同じような光景を感じられずには要られなかったが、あの時とは違いルカも成長したようで、俺の見様見真似なのかは分からないがあいつなりにオークに思うところがあったのか斧を、武器を弾く修行はしていたようで、俺のような武器の性能もなく、ましてや華奢な女の子であるルカは完全に弾くのは難しかったみたいだが受け流す事には成功したようで無傷のまま攻撃を避けることができた。
ルカは先ほどの事に集中力を使ってしまったのか、少し息を切らしているようで連続で狙われたりしたら危ういので俺がターゲットを引き受けるとしよう。
ヘイト値というものがあるのなら攻撃を弾いた俺よりも剣で攻撃を与えたルカが狙われるのは必然だ。
ならばそれよりも攻撃をすれば此方に標的が移るという浅い考えではあるのだが、大体攻撃に出向いてやればこちらに相手も集中するだろう。
横目ではあるがルカに向かいアイコンタクトのようなものを送り、あいつも頷いたようなメッセージを送ってきたような気がしたので俺がオークに斬りかかった。
荒い息を上げながら興奮しているオークではあったが所詮はオーク。多少考える力があるのかもしれないが、人間には及ばなく理性で行動している部分が多いため一撃で俺を葬ろうと大降りの攻撃をしてくるのだが、これが初めてであったなら俺は死んでいたかもしれないが、一度喰らっている。
腹に傷を受けたこともが死への実感を強くしたのか、それとも慣れたのか定かではないにしろ攻撃が読める、思った通りに攻撃をしてくれるから、そこにカウンターを入れると、簡単に聞こえるが物凄い集中力を使う。普段の戦いでは汗は全く欠かない俺だがこの時ばかりは欠かずにはいられず、精神を削る思いであったがオークも疲労したからか動きが鈍くなり始めた所でルカも体力が回復したようで、加勢をしてくれたお陰かオークがどちらを攻撃するか一瞬迷った隙に、俺は迷うことなく今回初となる剣技を発動した。
「クロスブレードッ」
言葉に発する必要はないのだが、此方の方が発動するタイミングを合わせやすい感覚が俺の中にあるため、普段は言わないがこういう時は手を抜く事が命取りになるため全力を尽くす。
言葉を発すると同時、コンマ0,5秒くらいの遅れくらいの感覚で剣が動き始め、左から弾丸のような速さで斬りつけ、その後の上段からの振り下ろしの後レベルが上がった事による、追加された攻撃。
下段からの振り上げを終えると同時にオークは血しぶきを上げてその場に倒れた。
「やっと終わった...やっぱ強いな」
「そうかしら?案外余裕だった気がするけれど」
「見た目だけだよ」
強気なセリフを勝ちを誇る顔で言い放ったルカがハイタッチを求めてきたので、仕方なく俺も乗ってやることにした。
掌と掌が勢いよくぶつかり、綺麗な音を奏でた。
「お疲れ」
「お疲れ様。」




