走る。
「あれ?ここはどこだ?」
ふと周りを見回す。
まだ日差しは高く、迷うような時間ではないはず。真っ直ぐ歩いてきたはずがいつの間にか知らないところまできてしまったみたいだ。ゴブリンはそんなにレアモンスターではなく、どんどんエンカウントするはずなんだが出会わないところにきてしまったようだ。
この森にPOPするモンスターはスライムとゴブリン以外は知らないため初見で戦うのはきついが、スライムやゴブリンとも初見で戦ったし案外いけるかもしれない。
ストレージを開き、念のため回復の残数を確かめる。
「十六か...」
多少心許ない数だがここから引き換えしていたら時間が勿体無い。それに十六個あればこの森くらいなら、
ドュリンダナもあるし、まだ使ったことは無いが剣技もある。あの黒い馬レベルのやつは早々出てくることは無いことを願うばかりだ。はっきり言って出てきたら勝てる気がしない。
同じ景色が続く森の中を迷う事のない様に真っ直ぐ進む。
十分くらい歩いたところで叫び声のようなものが聞こえ草木の奥に何か居るような気がする...?
音を立てないように忍者のような抜き足、差し足、忍び足の三テンポで近づく。
そこに見えたのはRPGのモンスターに例えるならオークと呼ばれる存在が1匹暴れている。ゲームの中だと小さいが現実で本物の大きさには驚嘆する。
一匹で暴れるなんて変な奴だな。とち狂ってんのか?
注視するすると誰かと戦ってることに気付く。
「誰だあいつは...?」
二メートル超えの相撲でも取ってそうないいガタイをしている図体で、見た目の割りに素早いオーク。あれは厄介そうだ。
そんなと対で戦っている奴は、オークと比べても小さいのは当たり前だが、俺と比べても小柄なのは確かだ。特別俺はでかいわけではなく高校生近くにして170とちょっと大きいかな?くらいである。
見た所身長は160なく、顔はよく見えないが体のサイズからして恐らく女だろう。俺は自身の戦闘能力に多少自身があると自負しているが、あのオークを初見で無傷突破することは困難というか不可能に近いと思う。
戦っている様子を見ていてもあの女は案外腕は立つようだが、それでもあのオークに押されている様子だ、いくら腕が立つとはいえパワーが違いすぎる。
オーク自身もスライムやゴブリンのように素手ではなく、斧のような武器を持っている。
それに比べてあの女が使っている武器は、前まで俺が愛用し鞘まで作って貰った両手剣と同じ物みたいだ。
スライムを狩っていたら剣を入手し、もうちょっと強い奴倒せるんじゃないかと思い奥まできてしまった。そんな感じだろう。
あの両手剣は重いが、それは俺が俗に言うもやしっ子だからなのだろう。普通にちょっと慣れれば女でも子供でも使える。
これは余談だが、腕相撲をして勝ったのは中学一年生の時に小学生と戦った時くらいだったかな、ちゃんと腕立てとか筋トレしてるんだけどなぁ。
オークが勢いよく上段から振り下ろした斧を剣で受けようとしている
あの攻撃で起こる衝撃は、人間のパワーではとても受けきれない。戦闘に慣れていない俺でも分かる、大振りの攻撃は回避するのが定石だと思う。
剣と斧がぶつかる音と同時にオークが斧を戻し、再度振り下ろそうとしている。
まずい、女は先程の衝撃とこれまで受けた傷から出血し、動けずにいる。
困っている人を全員助けたい、この世の犯罪を失くしたい、そんなことは思うのはいい事だと思う、だが俺はそんな事はこれっぽっちも思っていない。しかし、目の前で殺されるのを見て平気で居られる程俺は狂っちゃいない、自分が生きると同時に誰かを助ける力が欲しかった、だから俺は走った。
オークは俺に気付いたが振り下ろす斧を止めない。
走りながらも俺は新たな愛剣となったドュリンダナをしっかり握り、振り下ろされる斧が少女に当たる前になんとかできないか最悪俺が攻撃を受ける事も想定し、斧に向かう。
間に合った、俺は斧に対して使ったことのない剣技を発動させる。
この世界で考えれば存在する概念は発現する。今迄がそうであったように今回もそうであることを祈るばかりだ。
俺は頭の中でクロスブレードと思想する、瞬間――
体が勝手に動き始め斧に対し、風を切る音と共に左方向から金色に輝く剣が左から右に向かい高速に、上から降ってくる斧にドンピシャのタイミングで合わせ、パリィのような感じで弾くことが出来た。
クロスブレードという名だけあり、それだけでは体は止まらない。
斧が弾かれ驚くオークの体目掛けて体は、若干宙に浮いたように錯覚するほどジャンプし、頭から地面に向かい大きく斬り下ろした。
俺は唸り声を上げるオークを無視し、怯んでいた少女に向かい話しかけた。
「よく頑張ったな、もう大丈夫だ後は任せておけ」
決まった!一度は言ってみたいセリフ、ナンバー三には入るレベルのイケメン具合だな。俺が女だったら自分に惚れるね。
「あ、ありがとうございます。」
その少女は金髪につり目でとても気弱そうには見えないが、この状況ならば仕方なかろう、人間死にそうにもなれば誰でも弱くなるだろう、ここはもう一発くらい格好いいところを見せておくとするか。
興奮しているオークに剣を向け
「かかってきなブタ野郎!」




