閑話2
一方首都に到着したアレックスは先生の事が心配だったが、それ以上にスイレンの事が心配だった。
すでに落ちつたとは言え、スイレンの中では自分が動物を殺し、自分が食べたという事実、そしてそれ以上にそれをおいしいと思ってしまった自分が受け入れられないでいる。
双葉とアレックスはスイレンの心を軽くしようと、優しい言葉をかけるが、スイレンはそんな二人に気を使わせないように、明るく振舞う。
だが、それが強がりである事は明確で、だからと言ってそれ以上にどうする事も出来ない。
その日の夜、スイレンは今までの食事ものどを通らなかった。
そして、その日の夜スイレンは何度も悪夢にうなされ、眠る事が出来たのは午前2時過ぎの事だった。
双葉はスイレンが眠ったことを確認すると、その手を離しそっと寝室を後にした。
「、、、ふう、」
「スイレンは落ち着いた?」
地上300階、最上階のゲストハウスから眼下に広がる街を眺めながら、双葉に尋ねる。
「アレックスさん起きていたんですか、、、」
双葉はアレックスに促され、対面の椅子に座り、アレックスと同じように下の街を眺める
「あんなつらそうなスイレンの声を聴いて、眠れるわけないよ。」
「そうですね、あの、提案なのですが、スイレンさん、カウンセリングなど受けられてはどうでしょうか。」
「、、、、心の傷をいやしてもらうか、たぶん駄目だと思うよ。彼女は元々そういう心のケアをする仕事をしていたんだ、ノウハウを知ってしまっている。それに原因が原因だ。共感してもらえる事は難しいと思う。」
「アレックスさんは大丈夫なんですか。」
「僕は、そういうものだというならそういうもなんだろうと納得しまっているんだ。
それに双葉の時代は当たり前の事だったんだろう?」
「えぇ、でも食肉文化はむしろ食文化の中でも恵まれた食文化にありました。牛や豚を育てる為には大量の飼料が必要となります、それだけの飼料を育てる土地でより多くの食物を育てたり、燃料にしたりできますから、正直、私の時代では食肉は特別な時だけでした。でも、それは珍しいだけで、みんな喜んで食べていました。
それに食べる時に、その元の姿なんか想像しません。
『生きているもの』と『食べているもの』が同じものであるという認識はありますが、、、、だからと言って、スイレンさんの様に深刻に考えたりしません。
スイレンさんの中では、小学校のクラスのみんなで育てている鶏を、給食の後にさっき食べた鶏が名前を付けて可愛がっていた鶏だって言われたようなものですよ。
それは、流石にシャレになりませんよ。」
「よく分からない例えだけど、深刻だってことはわかった。で、問題はどうすればいいかってことだよな。」
「、、、難しいですね。何かアイディアでも?」
「そうだね、グロリアさんが僕たちの権利を、1級市民権まで引き上げてくれたんだ。
それを使って、明日スイレンと一緒にこの街を見て回ろうとかと思ってる。
楽しい事で今日の事は忘れて、それでいい気分転換になるかなって。」
アレックスは窓ガラスにデバイスをかざし、見ていた観光案内の画像を映し出す。
「それはありですね。」
「それで先生の方が双葉に任せてもいいかな?」
「二人きりで、デートするってことですか?」
「デート?それもよく分からないけど、別に双葉がスイレンの気分転換に付き合って僕が先生の所でもいいんだけど、スイレンとの付き合いは僕が一番長いし、スイレンも僕の方が気を遣わなくていいかなって思ったんだけど。」
「分かりました。了解しましたそっちのほうがきっとスイレンさんも喜んでくれると思います。」