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不完全な人形、完全な人

グロリアは4人を家の中に案内する。

家の中も外見同様、木で作られ、いまどきほとんど見る事のない紙の本が並び、ほとんど電子機器など置いていない。

グロリアは4人を椅子に座らせると、キッチンに向い食事の準備をする。

双葉にとってはこの環境は知らないものとはいえ、まるで外国にホームステイしているような感覚で、居心地は良いが、アレックス達はどうも先ほどの草の匂いや、この木の匂いというものがどうもなじめないようだ。

匂いがして不規則な音がするこの状況が違和感だらけだ。

「意外かい、政府という者が巨大なもので大きな組織だと思っていたかい?

でも、意外そうでもない。

このシステムに管理された世界で、維持を目的とし、1000年以上同じ事を繰り返しているんだ。機械による監視と運用が主体、過去の蓄積で君たちみたいな例外は早々起きる事はない。だから君たちの世界を管理し、意志を示すのは一人でいい。決定権を持つものは少ない方が効率がいいからね。船頭多くて船沈む、会議の多い会社は何も決められないから会議が多い。それと同じさ

僕がそれに選ばれた、システムによって選ばれた、僕がこの世界の政府のそのものだよ。

さて、これでよし」

グロリアは見た事もない彩り鮮やかな食事を食卓に並べていく

「君たち来る事は分かっていたし、到着する時間も決まっていたからね。

残っていた作業は盛り付けだけだ。料理自体は昨日から仕込みをしているからそれなりに手間はかかっている。きっと気に入ってくれると思うよ。」

グロリアは見た事もない彩り鮮やかな食事を食卓に並べていく。

「あの、あなたはいったい何なんですか、システムに選ばれたって、僕たちはそんな話聞いたこともない」

「君たちとは違い、調整を受けていない純粋な旧世代の人間、数少ないオリジナル人間そのものだよ。

数少ないといってもいるところには僕のようなそういう人間は実はそれなりの人数がいる。

君たちにはわからないだろうけど、僕は女性の、母親のお腹から生まれる。

そういう意味では、君たちよりも、そこにいる牛やこの保護区にいる動物たちに近いと言っていい。

自然発生的という訳ではないし、無から生まれる訳でもないけど、君たちとは命のなりがたちが違う人間だと思ってくれ。

そういう僕たちは僕に限らず、こうしてこういう生活をしている。

機械に頼るのは必要最低限、というより、ぼくみたいな政府の仕事をしていない人はそうそう触る事はない。

生きる為に植物を育て、自然と共に生き、人を愛し、命をつなぐ、ばかげた事だろうでも、そうやって、かつての郷愁の中で僕たち本物と言われる人間は生きている。」

「昔の人間の生活をまねて生きているっていう事ですか」

「そういう事になるね。それも人が宇宙に出るよりもずっと前のね。でも、昔のままじゃない、僕たちがこういうかつての真似事をする為に君たちのような、進化した人間の力を必要とし、こんな生活をしている遥か後の時代の技術に頼っている。そこまでして僕たちを維持するのに何の意味があるんだろうね。」

グロリアはテーブルに食事を並べ終わる。

「、、、、さて、食べようか、緊張しているのも分かるけど、僕は君たちを対等な交渉相手として、この食事に招待したんだ。

スイレンさんのお話も、君たちも実に興味深い、だからこうしてまずは親睦を深めようとしているんだ。少しはその緊張をといてもらいたいものだね。

それともこうした食事は初めてだと思うけど、はやり合成食品ではなく、こういう天然の食事は受け付けないかい?」

「あ、いや、すみません。ちょっと見慣れないので、いただきます」

アレックスが彼にどう接すればいいか対応に困っている。

彼が嘘を言っているとは思えないが、想像していた政府最高権限と彼があまりに一致しない。それは双葉も含め皆が感じてる違和感だ。

グロリアは、対応に困るアレックス達をみて、率先して、料理をみんなの取り皿に取り分ける。

「君たちが普段食べているものに比べれば、奇抜な色や形をしているように見えるかもしれないけど、これが本当の食物だよ。

すべて僕が真面目に作ったもの、味は保障するよ。

これでも料理は得意な方だと自負しているよ。まぁ、あまりふるう機会はないのだけれどね」

グロリアが食べるのを見て、真正面に座ったスイレンは恐る恐る口に運ぶ。

「何これ、少し苦いけど、おいしい。」

「それは良かった、それは裏の作ったレタスさ。素材の味を生かすためにドレッシングはオリーブオイルとレモン汁、塩砂糖で作ってみたんだ。

喜んでもらえたみたいで嬉しいよ。」

スイレンは、グロリアの笑顔で警戒心が緩んだ。

アレックスと先生も、警戒をしていたがそれでも今まで食べた事のない食事の味の感動で、次第に警戒心が緩んでいく。

今までスイレンが、あの何も味をしないものを工夫しておいしくしてくれたが、味の種類、食感、彩、形、調理法、すべてが想定外だ。

3人が、食事に夢中になり警戒心が緩んだことを確認したグロリアはもう一人の双葉に目を奪われる。彼女は3人とは違い特に驚きもなく、テーブルの上にあった調味料を、さも知っているかのように使い味を調節している。

彼女だけ食事の明らかに3人とは違う、グロリアは彼女を注視しながら話を続ける。

「首都にある中央議事塔、あれはただの象徴の塔さ。中には機械しかなくて人なんてほとんどいないし、上層階は一応僕の居住スペースになっているけど、あそこは僕の別荘みたいなもので、誰も住んでいないよ。

首都にいたって人が多いばかりで、娯楽施設もあるけど、僕にとってはああいう作られた娯楽は苦手でね。退屈なだけ、統一され、計算されたあんな場所にいてもしょうがないだろう、それが僕の持論さ。だから僕はここにいる。

あそこに比べてここはいい。

ここは自然に雨が降るし、春夏秋冬四季折々、同じ景色はなく常に変化し、見方一つでこの世界は無限さ。

それにこうしてここで自分でそれなりの自給自足の生活も悪くない。

こうして天然の食材を口にする事が出来るからね。それもおいしいでしょ。6時間以上煮込んだ自信作さ」

グロリアはスイレンが口に運ぶ料理を指して笑いかける。

「はい、あの、私、おいしくできるようにいろいろやっていたんですけど、ここにある物は別格で、すごくおいしいです。特にこれ、何なんですが、味がすごく濃厚で、弾力があってめちゃくちゃお言いしいんですけど」

「あぁ、それは牛肉さ、それにほらあれ、あそこにいる牛がいるだろ、あれペットなんかじゃないよ。あれは家畜。食べるために飼っているのさ、

僕はあれを殺して食べるんだ。君たちもほら今食べているそれはあの子の親だよ」

そう言って彼は窓の外の子牛を指さす。スイレンが後ろの窓を見た瞬間、彼女の眼がその子牛と会ってしまう。

彼はアレックス達に常識を知っている、彼らが食べる者は全て調整された小麦粉から作られた合成された食物だ。

だから、肉なんて動物を食べる事なんて彼らが想像しない事も知っている。

「おぇぇ!」

気分が悪くなり、食べたものを吐き出そうとするスイレン。

「ス、スイレンさん。」

アレックスがスイレンの事を気に掛けるが、アレックスもまたショックが大きい。

「命をつなぐために殺す。いただきますとは感謝の念さ、命をいただくという感謝の念。

ここにある食べ物全てが君たちの普段食べている物とは異なり、不要も含んで構成される、中には有害なものを含むものもある、耐性のない君たちには今夜あたり腹痛や吐き気に苦しむことになるかもしれないけど、心配しなくても死ぬ事はないよ。

効率だけを考えた食事じゃない。これには 人を構成する栄養素が含まれているが、そのままでは吸収されない。消化分解し、再構築する必要がある。

その為にもエネルギーも使う。それが本来の食事さ。」

スイレンが必死に食べたものを吐き出そうとするが、それにも限界がある。

涙を流し、混乱するスイレン

「君が吐き出したところで、僕が殺した親牛は生き返らないよ。感謝をこめて最後まで食べる事は命に対しての敬意というものではないのかい」

「なんなんですか!あなたは、なんでこんな事をするんですか!」

スイレンは今まで見せた事がないほどの怒りでグロリアに詰め寄ろうとするが、アレックスが彼女を必死に止める。

「僕は何でもないただの人間だよ、生きるために命を育てそれを奪い、命をつなぐ、

本を読み知識を得て、人に触れ、他人に共感し反発し、女の人を愛し、それにおぼれ、仕事をおろそかにする。そう言う普通の人間、、、を演じるように決められ生まれた人間だよ。

君らとは違い、僕は80年程度しか生きられない。

あと10年もすれば髪が白くなり始め、しわが出てきて老化が始まる。ただの弱い人間だよ。」

顔は笑っているが、彼の心は少しも笑っていない。その場の誰もがそれを感じ、理解できない彼に恐怖心を抱いている。

「確かにあなたおっしゃられる通り、言い方に棘がありますが、あなたがおっしゃられるのは確かに、私の居た時代と同じ普通の人間のです。

でも、それは人間の説明で、あなたの話じゃない。

あなたは私の知っている人間じゃない。

貴方は怖い人間です、一切の矛盾なく、自分の感情さえも他人の目線で見ているようです。

貴方の言葉の端々には自分に対する卑下や憎悪すら含んでいますが、私にはそれさえも作られているかのように聞こえます。

あなたは不完全を演じようとする完璧な存在、そういうふうに思えます。」

「完全な存在が不完全を演じようとして、完璧に見える。それは演じ切れていない不完全という事じゃないかい。せいかのない矛盾な物言いだね。君は面白い事を言うさぁ君の話を続けてくれ」

「、、、、確かに動物の命をいただくというのはあなたの言われる通りです。

ですが、それが、スイレンさんたちにとってどれだけショックな事か、あなたにはわかっていたはずです。

だったらその食に対する考えを述べるのは食事の前にすべきことだったんじゃないないのですか?

あなたはまるで、食事とはそういうものだと伝える為ではなく、今のスイレンさんの恐怖に歪む顔が見たくて、そういったようにしか聞こえません。

きっとスイレンさんが聞かなくてもあなたは食後に、事実を伝えるつもりだったそうじゃありませんか」

「さっきから、気にはなっていった。君は僕が知っているかつての世界を当たり前の様に知っているように思えるのだけれど、君はいったい何者だい?」

「双葉!」

双葉は止めようとするアレックスをなだめ、言葉を帰す。

「私は、七海双葉、七つの海の双つの葉と書きます、今からはるか昔の地球で暮らしていた全身機械仕掛けの人形です。それでも、こういっておきましょう、あなたよりもずっと人の心を理解できる人形だと。」

「地球に暮らしていた人形?なるほど、それじゃ、取引材料にしていたあの知識。なるほど、納得だよ。

そうか、本当にそういうものがいるのだね。

最初からそう言ってくれればいいのに、良かっただったら難しい交渉なんて必要ない。

君たちを利用しようとも考えない。

OK交渉は成立だ、君たちが何をするのか、何のためにかは知らないし、知る気もない、

こちらに渡してくれる知識もそちらで選定してくれたもので構わない。

君たちの要求は出来る限り受け入れよう。

ただし、一つだけ条件がある、君たちの誰かひとり、誰もでいい。

必ず、一人、週に1回はここに遊びに来てくれる事、それが条件さ

どうだい破格の条件だろう、」

「アレックスさん、、、、」

「、、、少し、考えさせてくれませんか、正直、僕はあなたが怖い。あなたと取引する事が本当に正しい選択なのか、考えさせてください。」

「あぁ、構わないよ。よく考えて、結論を出してくれ、考える事も君たちに許された権利さ、そうだ、結論がどうであれ、彼女のような存在を見せてくれたお礼に、君たちの生活は僕が保証しよう。首都の中央議事塔の僕の部屋を使うといい。

あそこであればここから1時間もあれば到着できるし、何の不安もなく暮らす事が出来る。そこでゆっくり休むといい。飛行機も好きなものを使っていいよ。どんな結論を出そうと僕は君たちの選択を楽しみにしているよ。」

双葉と、アレックスに両手を掴まれ、スイレンはキッチンで口をゆすぐと、二人に支えられて帰ろうとする。

「先生、もう帰ろう。」

「僕はここに残る、」

「先生!」

「心配するな、みんなを裏切るという訳じゃない、彼との交渉がここにとどまる事だというなら、さっき話をつけて今日から契約は開始だ。

資材と施設の手配が今日から最高権限で発令してもらった。

明日からでも作業は可能だ。

今日からみんなは彼の言う通り首都に泊まるといい。加工施設は首都にある。

そこを使う事になるからそっちの方が都合がいい。指示の方が僕からしておくよ。」

「でも、デブリ回収の仕事が、、」

「さっき言っただろ、君たちの生活は保障するよ。そんな事をする必要はない、何をしようとしているか知らないけれど、僕は君たちの事を気に入ったんだ。

だからそれくらいはしてあげるよ。4人増えるくらいなんて事はないからね。」

「でも、、」

「アレックス!僕たちにはやるべきことがあるだろう、それを見失うなよ。

それとも君はどうしてもデブリ回収がいしたいのか、いいか、僕たちは彼を利用するだけ利用する。

違うか、その為の覚悟を君はしているんじゃなかったのか?」

「、、、、分かったよ。でも、先生、何も先生が残る事はないんじゃ」

「君はスイレンの傍についてやってくれ、、、、、それは僕にはできない事だ。」

後ろ髪をひかれる思いのアレックス達を帰し、

先生は一人グロリアの前に残り、食事と続けた。

「驚いた。」

「これはもう物だ。このまま腐らせて何になる。それにあなたを出し抜くためには、あなたを知らないといけない。僕たちには目的がある。

そしてその為にはあなたを利用しないといけない。

だけど、きっとアレックスではあなたを出し抜くことはでない。

双葉を貴方は同じ立場で見ようとはしていない。

もちろんスイレンもそうだ。だから僕がやる。」

「なるほど大した覚悟だ。」

「一つ聞いておきたい、」

「なんだい。冷めてしまったけどせっかくの食事だ、僕も話し相手がいた方が盛り上がる。」

「僕たちに話しかけた時、あなたは一番初めに僕を見て笑っただろう。

あれは僕を知っているという顔だ。単刀直入に聞かせてもらおう。

僕に不適合者という認定したのはあなたか」

「素晴らしい洞察力だ。答えはYES。そう、他の二人は僕の知るところではないが君を不適合者と判断したのは僕だ。どうしてわかったんだい」

「僕の不適合判断前例がない。もし機械で不適合者を判断しているのなら、僕は不適合者判断にはならない。二人には能力不足という過去実績という明確な理由があった。

でも僕の場合、求められる結果は出してきた、にもかかわらず、未来の可能性という理由で不適合者にされた。

ずっと疑問だったんだ。どうして僕がと、、でも今日あなたに会って、もし僕の判断を下したのが人間ならと、僕の才能に嫉妬し、僕の事を危険視した人の判断なら、」

「そう、その通りさ、君の才能、いいや、君の向上心は警戒に値する、君は世界を変えるだけの力と覚悟を持っている。だから君を危険だと判断したのさ。」

「よくも僕を!僕は、僕は」

感情に任せグロリアの襟元を掴み、その貧弱な体で彼を壁にたたきつける。

「先生君、君は何を望む?君はアレックスではない。君は何を望む。」

「それをあなたに教える必要はない!あなたは僕の敵だ!」

「、、、世界を変えたいとは思わないかい?

この停滞した世界を、変わらぬ世界を、君の力を認めさせたいとは思わないかい?

今ここで僕を殺したところで、僕の代わりはいくらでもいる。今ここにいるのは僕だけだけれども、この星の首都の反対には僕みたいな昔の人間が1万人規模で、こうしてのうのうと君たちを管理し利用し、暮らしている。

僕でなくなれば、君たちに協力する事はない。

不条理だとは思わないかい?

君の様に人並み以上の向上心を持ち、誰にも負けないだけの努力をしてきたのに、世界は君を評価しない。

そんな世界を壊したいとは思わないかい?」

「僕に何をさせたい?」

「この世界の秘密を教えてあげるよ。真実をそして、この世界を壊せる可能性を、、どうだい」

「いいだろう、、、なんてね。昔の僕ならそういっただろうけど、残念だけど、僕にはやらないといけない事がある、

今すぐあなたを殺して、この世界をめちゃくちゃにしたいさ.

でもそうして僕がいなくなって困る人間がいるんだ。約束したんだ4人で、

あなたの思い通りに何からならないさ、この世界を壊したいのは僕じゃないだろ、

それはこの世界の支配者であるあなた自身だ。

あなた自身自分はそうやって自分の好き勝手にやって自分に与えられた役割を演じていればいいのさ。そういう願望を抱きながら、何もできないまま悔しがっていればいいさ。

僕はあなたとは違う、あなたに自由は程遠い。」

「君は実にいい。まさか、僕が人にイラつくことがあるなんてな」

「気にする必要はないよ、イラついているのは、仲間をおもちゃにされた僕も同じだ。

イラついてどうするつもりだ?約束を無かった事にするつもりか?」

「まさかそんな事をすれば僕のイライラは積もるばかりさ、そうだね、まぁ、どうするかはこれから考えよう、とりあえず、今日は君と話をしよう君の話を、僕の話を」


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